拳と剣
「ちっ、派手にやられちまったな」
アイザックは地面に突っ込んだ機体を立ち上がらせると、機体のチェックをしてからバックパックをその場で外した。
「だが、レウスも来たならあいつはなんとかなるか。俺は地上で頑張るとしよう」
アイザックは銃を構えると、近くのミュータルに向かっていく。それとほぼ同時に上空ではアライアルとミュータルが激突しようとしていた。
ミュータルはそこで二丁の銃を突き出すと、至近距離からアライアルに雷を放とうとする。アライアルはそれを避けようともせずに突っ込み、正面から雷を受けた。
「バースト!」
しかし、その瞬間にアライアルを中心として爆発が起こり、全てではないが雷が散らされ、突進の勢いは落ちない。そのままアライアルはミュータルの両手を弾くと、そのまま胴体を蹴り上げた。わずかだがミュータルの体が浮き、その隙にレウスがミュータルの上に現れる。
レウスはそこから体ごと突っ込んで剣をミュータルの頭部に突き立てた。
「いいぞ!」
ミュータルの下を潜ったアライアルは距離を取ってから装甲を右足に集中させる。
「モードミラージュ! ファイアフォーム!」
前方に無数の炎の分身が現れ、アライアルはそこに突進して炎の分身を取り込んでいく。そして最後の一体を取り込んだ瞬間、アライアルの全身を炎が包み、それが右足に集中して巨大な炎の刃を形成した。
「切り裂け!」
アライアルの右足が振るわれ、炎の刃がミュータルの胴体を薙ぎ払った。その一撃でミュータルの背中部分が大きく裂け、それと同時に頭部に突き立てられたレウスの剣から青い炎が発生し、ミュータルの内部に流れ込んでいった。
まず背中の裂け目から青い炎が噴出し、そこからミュータルの全身に亀裂が広がっていく。
「バースト!」
レウスの声が響くと同時に亀裂が全身に広がり、爆発的に青い炎が噴出してミュータルの体を崩壊させていった。
だが、アライアルが強い力を感じて身構えると、次の瞬間炎の中から人型のものが飛び出し、身構えたアライアルの目の前まで一瞬で到達していた。
「っ!」
アライアルは瞬時にそれに向かって右足を振るうが、あっさりと受け止められる。
「こいつ」
アライアルは目の前の相手を見て思わず笑いを浮かべた。それはまさにアライアルとそっくりのシルエットで、力は計り知れないものがあった。
「面白い!」
アライルは素早く装甲を解除してから右足を引き、右の拳を突き出すが、ミュータルはそれに左の拳を合わせる。両者の拳が激突して周囲に凄まじい衝撃波が発生した。
次の瞬間には衝撃波を切り裂き、レウスがミュータルの頭上に現れていた。そして剣が振り下ろされるが、ミュータルは右手でそれを受け止め、再び強烈な衝撃波が発生した。
「なんだっていうんだよ!」
衝撃波の影響で機体を伏せたアイザックは悪態をつき、カメラだけを上に向ける。
「小さくなったら強くなるっていうのか!?」
アイザックは上空に銃を向けようとするが、それよりも早くミュータルはアライアルとレウスを吹き飛ばし、アイザックの機体の頭部に立っていた。
「っつ!」
そしてアイザックが反応するよりも早く、その機体の頭部を蹴り飛ばし、破壊していた。アイザックの機体は衝撃で後方に倒れ、ミュータルは空に舞い上がる。
「くそ、やってくれる」
吹き飛ばされはしたが無傷のアライアルはマジックカートリッジを一つ捨て、新しいものを装着した。
「レウス、あいつには奥の手が必要だぞ」
「わかってます」
「よし」
アライアルはすぐにミュータルを追い始め、その目指す先を理解する。
「ナオヒト! 強力なのがそっちに向かってるぞ!」
「了解した、お前達が到着するまで食い止めてみよう。デレク、セレン、援護を頼む。ユウはチャンスがあれば迷わず撃て」
ナオヒトは指示を出すと、マシンガンのマガジンを交換し、高速で接近する反応に備えた。
「カロンゾ、あと何秒だ」
「三秒です」
ナオヒトはすぐにミュータルの侵入経路に向けて引金を引く。弾丸は空中で炸裂しつつ弾幕を形成するが、ミュータルはその中に突っ込まず、高度を上げて迂回をする。
「速いが、それはこちらの思い通りだ。デレク!」
ナオヒトが指示を出すと、デレクは盾を頭上にかざして上昇する。そこにミュータルが激突するが、デレクはなんとかそれをいなした。
ミュータルはそれで地面に激突することはなかったが、待っていたのはセレンのレーザーだった。ミュータルは直撃は避けたが、それによってナオヒトにはその軌道が読めた。
「どれだけ早くてもな!」
微調整をしてマシンガンの引金を引くと、ミュータルの進行方向にその弾丸が飛来する。ミュータルでもそれは避けきれずに直撃を受けると、爆発に巻き込まれて地面に落ちて行った。
「よくやってくれた!」
アライアルが勢いよくミュータル落下地点付近に降り立ち、レウスがそことアライアル達の間に止まった。
「俺を置いていくとはつれないじゃないかよ。こっちにはまだ奥の手があるんだ、試させてくれよ」
そう言ってアライアルは両の拳を胸の前で打ち合わせた。ミュータルはナオヒトの攻撃で欠損した部位を再生しながら立ち上がると、周囲を見回した。
「ほらどうした、お前の相手はこの俺、目の前の俺だぞ」
アライアルが挑発するようにそう言うと、ミュータルはやっとアライアルを見た。
「それでいい。いくぜ」
アライアルの体からは魔力はほとんど感じられず、構えも攻撃的な雰囲気を感じさせないものだった。ミュータルはそれに何かを感じ取ったようで、慎重にその周囲を回る。アライアルはそれには付き合わずに静かに立ったまま動かない。
数秒間そうした状況が続いたが、ミュータルはちょうど一周して再び正面に来た時に動いた。アライアルはそうして振るわれた右足を左腕で微動だにせず受け止める。
「甘い!」
アライアルは瞬時に右足を弾くと、一歩踏み込んで右の拳をミュータルの腹に叩き込んだ。ミュータルが吹き飛ぶことはなかったが、周囲に強烈な衝撃波が発生し、ミュータルの動きが止まる。
両者はそこで一度動きを止めたが、アライアルが腕を引くと、ミュータルは一歩下がって、アライアルと同じような構えを取った。
「無駄だ、お前に真似ができるのは姿程度さ。俺の奥の手はもっと繊細なんだよ」
次の瞬間、アライアルの右の拳がミュータルの顔面に突き刺さっていた。ミュータルはすぐに頭部を切り離すと、大きく後方に飛び退いた。だが、急降下していたレウスがその後ろに回り、振り向きざまに振るった剣によってそれを弾いた。
「逃げるなよ」
強烈に地面を蹴ったアライアルが一瞬でミュータルに追いつくと、両手でその肩をつかんで引き寄せ、右膝を叩き込んだ。がっしりとつかまれているため、衝撃が全てミュータルの全身に伝わる。
そこから急停止すると、ミュータルをつかんだまま回転し、その体を空に放り投げた。そして、その前に地面を蹴っていたレウスは空中で剣を振りかぶっていた。
「ガランダルド、ダークネス」
剣が周囲から光を奪い、空を闇に染めていく。レウスはその闇をミュータルに向けて叩きつけるように振り下ろした。その一撃は確実にミュータルをとらえ、闇の中にその体を溶けさせた。
「よし」
それだけ言うと、アライアルはその場に膝をついた。すぐにレウスがその近くに降りる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、連続でピンポイントの強化をするのはきついな。だが、あいつは片づけられただろ」
「しかし、戦いはまだ終わっていません」
「わかってる。まだやれるさ」
アライアルは立ち上がるが、そこで強烈な悪寒を感じた。
「くそ、あいつも本命じゃなかったか」
アライアルの言葉にレウスはうなずき、空を見上げた。
「隊長、巨大なミュータルの反応です。こいつは完全に前代未聞ですよ」
カロンゾからの通信にナオヒトはそのポイントを確認する。
「これが本命らしいな。アライアル、レウス、まだいけるか?」
「俺もレウスもまだいける。心配するな」
アライアルが答えた直後、空には忽然と紫の塊が姿を現していた。それは一瞬で陸上要塞を超えるサイズになると、陸上要塞と、さらに第一小隊と第二小隊にそっくりのものまで生み出した。




