乱戦
要塞から少し離れた場所、レウスとアライアルは空を見上げていた。
「いよいよ始まったか。レウス、俺達はとにかくミュータルを減らせばいい。簡単な仕事だ」
「実際には手のかかることだと思いますが、単純ではありますね」
「弱気じゃないかよ」
「また以前のようなものが出てきたら、今度は二人でなんとかしないといけませんから」
「心配するなよ。今の俺達はあのくらいの奴なら問題なく戦える」
そう言うとアライアルは両手に装甲をまとわせた。
「ま、今は大量に来る連中の相手だ。俺達はあいつらの撃ち漏らしを片づけるぞ」
「そうですね、やりましょう」
レウスも剣を抜いた。それを合図にしたかのようにミュータル達が現れ始めるが、そこで空間が突如変質した。
「これがあの二人の力ってわけだ。見てみろ、ミュータルが地面に落ちてきてるぜ。今回は虫型だな」
「強いとか弱いとかいう次元のものではないですね。これで戦いやすくはなりましたが」
「そうだな。俺達は先行する第一小隊のほうに合わせるとしよう」
二人は同時に地面を蹴って第一小隊の進行方向に向かった。その第一小隊はすでにフォーメーションを組んで前進をしていて、地面に落ちてきたミュータルを射程に捉えようとしていた。
「合図をしたら各自攻撃を開始してください。倒すことは考えずにミュータルを分散させるように」
「了解」
「スワロー、細かいモニターは任せます」
「はい、わかりました」
シャオはそれから急速に接近してくるアライアルとレウスに気がつく。
「異世界の二人の援護もあります。アシュトン、ミレック、ミサイルとロケットで先制攻撃を」
シャオの指示でミサイルとロケットが同時に発射され、ミュータルに向かっていった。
「始まったな。お前はどっちにいく?」
「左からやります」
「よし、中央で合流だ」
白と黒のマントをひるがえして二人は左右に別れると、ミサイルとロケットの後を追ってミュータルの集団に飛び込んでいく。
「いくぜ! モードミラージュ! バレット!」
ミサイルとロケットの着弾に続いて、アライアルの作り出した魔力の弾丸がミュータルに降り注ぐ。
「ブレイズ!」
同時に左からは剣を青い刀身に変えたレウスが、炎の刃を放っていった。
それらの攻撃は立て続けに着弾してミュータルを散らしていく。
「射撃開始!」
その間にさらにミュータルとの距離を詰めていた第一小隊が一斉に射撃を開始した。
「第一小隊が戦闘を開始した。カロンゾはレイヴンと連携してミュータルの正確な位置を送ってくれ。セレンは私と分散したミュータルを止めていく。デレクはその始末、ユウは味方が危なくなったらその援護だ」
「了解」
第二小隊が一斉に動き出し、ナオヒトとセレン、デレクの三機はウィングを発動して上空から一気に前に出て行く。
ブリッジのアレクシアはその状況を見てかすかにうなずく。
「空中の敵は全て落ちた、状況は悪くないな。砲撃はミュータルの集団の後方を狙え、上空にも注意を怠るな」
指示を出してからアレクシアは刻々と変わる状況を観察する。予定通り第一小隊とアライアル、レウスの二人によって攪乱されたミュータル達は確実に数を減らしていっている。
「順調だが、これで終わるはずもない。第二波はどこから来るか」
アレクシアは油断せずに周囲の状況を観察し、数十秒後にブリッジにオペレーターの声が響く。
「ミュータル反応多数、戦闘地点上空です」
「砲門を全てそこに向けろ。ミュータル出現と同時に一斉砲撃。第一小隊はすぐに下がって新手に備えろ」
アレクシアの指示はすぐに実行され、第二波を迎え撃つ準備は間に合う。それから数十秒後、戦闘地点上空の空が歪んだ。
「撃て!」
要塞の砲門が一斉に火を吹き、現れたミュータル達はその砲弾によって吹き飛ばされていく。それをまぬがれたミュータル達も着地後すぐに第一小隊の攻撃によって散らされていった。
一方最前線ではナオヒトは魔法で一体のミュータルを凍らせ、次の標的に銃口を向ける。だがその射線に違うミュータルが割り込み、望んだ成果は得られなかった。
「全機余裕をもって動け、力では我々が上だが数が多い」
そう言っている間に、目の前のミュータルに魔力の弾丸が撃ちこまれた。
「アライアルか。こう乱戦になるとあいつらのほうが動きやすくていいな」
そこに後方から小型のミュータルが飛びかかってきたが、ナオヒトは障壁を張ってそれを止めると同時に、素早く反転してマシンガンを突きつけ引金を引いた。
正面至近距離から銃撃を受けたミュータルは体を凍らせ、ナオヒトにかわされるとそのまま地面に突っ込んだ。
それを上空から見ていたアライアルは、ナオヒトの周囲に少し余裕ができたのを確認してそこに降りて行く。
「ナオヒト、お前らのほうは大丈夫か」
「今は大丈夫だが、まずい状況だ。この調子だと完全に分断されてしまう」
「そうだな、今のところは雑魚ばかりだが、強力なのが出てくるとまずいだろう」
「そうなったらお前とレウスが頼みだ。俺達では小回りがきかない。要塞と第一小隊の援護は頼む」
「わかった。だが、今はこの周囲を片づけるか」
「ああ、今のうちに連携を回復させるのはいい考えだ。デレク、セレン、合流するぞ」
「了解」
「了解しました」
二人の返事を聞き、ナオヒトはすぐに動き出した。
「二人ともあまり動かないようにしろ。私がアライアルと一緒に行く」
ナオヒトは最大出力で飛び上がると、アライアルはそのすぐ横について移
動を始める。
「道を作るぞ、モードミラージュ! バレット!」
アライアルの周囲から魔力弾丸が発射され、進行方向のミュータルを弾き飛ばしていく。そこをナオヒトは全力で進むと、すぐに地上で戦うデレクの姿が見えてきた。
「さすがデレクだな、ミュータルをうまく引きつけている」
「周りのをどかすか」
「ああ、いくぞ。デレクは障壁を!」
アライアルとナオヒトは短く言葉を交わすと、左右に分かれる。デレクは姿勢を低くして障壁を展開した。次の瞬間、その周囲にはアライアルとナオヒトの攻撃が着弾してミュータルを一掃する。
ナオヒトはすぐにデレクの近くに着地すると、その機体の状況をざっと見て特に損傷がないのを確認した。
「大丈夫そうだな」
「ミュータルの弱体化のおかげです。数が多いので分断されてしまいましたが」
「そうだな、弱体化したといっても雑魚とは言えない。それにこの数だ」
それからナオヒトはセレンと通信を繋げる。
「セレン、デレクと合流した。そちらに問題はないか」
「はい、問題はありませんが、ミュータルの動きが少し変わった気がします」
「それならカロンゾと連絡を取ってみてくれ」
「了解しました」
「我々もすぐに向かう。注意しておいてくれ」
ナオヒトが再び空に舞い上がると、アライアルとデレクもそれに続いた。それからすぐにセレンの居る場所が見えてくる。セレンはミュータルを寄せつけないように立ち回っていて、周囲にはレーザーで作られた焼け跡が無数にあった。
「うまくやっているな。デレク、お前は右、私は左に降りるぞ」
「了解」
「アライアルは上からミュータルを狙い撃ちにしてくれ」
「任せとけ」
それからナオヒトとデレクはセレンの左右に降り、それぞれミュータルを牽制する。それを上から見ていたアライアルはミュータルをよく見て位置と動きを把握していく。
「四体なら一掃できるな。モードミラージュ! バレット!」
無数の魔法の弾丸が形成され、それが地上のミュータルに一斉に降り注いだ。そして着弾時の土煙が消えると、ミュータルは姿を消していた。
アライアルは腰のマジックカートリッジを一つ外すと、それを投げ捨てて足に装着している予備を手に取った。
「まったく、魔力の消耗が激しいな。こりゃ最後までもつか?」
それから予備のカートリッジを装着すると、ナオヒトの機体に向かって降下していった。




