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群狼部隊  作者: bunz0u
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空間を越える

「さて、そろそろ時間だ」


 腰にガンベルトを巻き、そこに古めかしいリボルバーを差したアクシャがブリッジで口を開く。アレクシアが時間を確認すると、ちょうど正午十分前だった。


「第一、第二小隊、準備は出来ているな」

「第一小隊、配置完了しています」

「第二小隊、こちらもいつでも」

「よし」


 アレクシアはうなずき、アクシャのことを見る。


「今回はアライアルとレウスは守りに集中させとくといい」

「そうしよう。カロンゾのことを頼む」

「はいよ」


 アクシャがそうして屋上に出ると、カロンゾが機体に乗って待っていた。


「お、準備は万端だねえ」

「もちろんだぜ、人類初をやるんだからな」


 どことなく楽しそうな様子のカロンゾの声を聞き、アクシャは口元に笑みを浮かべる。


「その調子なら安心だ。空からの連中を十分引きつけてから出発するよ」

「わかった。道案内はよろしく頼むぜ」


 カロンゾは後ろを振り返り、ケイツがしっかりスーツを着ているのを確認すると、自分もヘルメットがしっかり装着されているか確認をした。


「ケイツ、コックピットの気密性は万全だが、ヘルメットは外すなよ」

「わかってる、暑いけど」

「気密性重視の特別性だからな。あと、今回は特にしっかり武装してるから乗り心地も多少変わってくるぞ」


 そう言いながらカロンゾは機体に膝をつかせてアクシャに左手を差し出した。アクシャがそれに乗ったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がる。


 それから約十分後、空の景色が一瞬で紫色に変わった。アレクシアはその光景を確認して両手を軽く握る。


「来たか。迎撃準備」


 ブリッジに緊張が走り、それから十秒後、紫色に染まった空からミュータルが染み出すようにして現れる。


「対空砲火!」


 アレクシアの号令で一斉に砲門が開かれ、空は瞬く間に戦場となった。


「始まったか。念のために障壁を展開しないとな」


 その光景を見たカロンゾは機体の周囲に障壁を展開する。それとほぼ同時にユウのレールガンが発射されてミュータルを一体撃ち落とした。


 それを合図にしたかのようにミュータル達が鳥のような形になり、一斉に急降下を開始した。


「三十はいる。それにまだ出てきますよ」


 カロンゾは素早くミュータルをカウントしてナオヒトに告げる。


「多いな。だが、お前はそれを抜けて行くんだ、一番大変な役だぞ」

「ま、援護が多いから心配してませんよ。隊長こそ気をつけてください」


 それから数分後、ミュータル約六十体が要塞周辺を飛び回っていた。その中でアクシャがカロンゾの機体を叩く。


「そろそろ行くよ」

「もう行くのか?」

「今じゃないと向こうには行けないからね。ほら、飛んだ飛んだ」

「わかった。ウィング発動!」


 光るマントを展開すると、カロンゾの機体は要塞の屋上から空に向かって飛翔する。その勢いでもアクシャはぐらつくことなく、カロンゾの機体の左手の上で立っている。


「じゃ、早速こいつを使わせてもらうかな」


 アクシャは銃を抜くと、片手で頭上に狙いをつけ、一回だけ引金を引いた。黒い弾丸はしばらく進んでから爆発するように弾けると、周囲のミュータルは動きを止めて落下していった。


「よし、加速!」


 カロンゾはそうして出来た穴に迷わず機体を突っ込ませる。そして、対空砲火の軌道とミュータルの動きを確認しながらどんどん高度を上げて行く。


「そろそろか」


 アクシャは銃をベルトに戻し、右手を足元についた。


「何があっても速度は落としちゃいけないよ」


 そう告げた直後、アクシャの右手から黒い影のようなものが染み出し、あっという間に機体を覆ってしまった。


「うわ、なんだよこれ」


 思わず言葉が漏れるが、カメラやレーダーに影響がないのを確認すると、カロンゾは速度と方向の維持に意識を集中させた。


 そしてちょうど五秒後、小さな衝撃と同時にカメラもレーダーも役に立たなくなった。カロンゾはその状況でも落ち着きを失わずに後ろを振り返る。


「ケイツ、お前には何かわかるか?」

「今はどこの世界でもない場所にいるみたい。たぶん目的地まで時間はあまりかからない」

「いよいよか。落ち着いていかないとな」


 カロンゾはキーボードを引き出すと、軽く指を置いて観測の体勢を整えた。それから妙に時間が経ったような感覚があってから、突然カメラが回復した。そして映し出される光景にカロンゾはさすがに言葉を失う。


「こいつは、どう表現すればいいんだろうな。妙に平面的な世界だ」

「遠いとか近いとかがよくわからない」

「それに色がないぜ。白黒の濃淡だけだ」


 二人の会話の通り、周囲には色も立体感もない現実感のない風景が広がっていた。


「そう、これがミュータルの世界。連中がよその世界にまで出かけようって気になるのもわかるってもんだ」


 全身に黒い影をまとったアクシャの声がやたらと大きく響く。カロンゾは

それに気を取り直し、ケイツに声をかける。


「とにかくデータだ。ケイツ、お前は気になったことをなんでもいいからおぼえておけ」

「わかった」


 それからセンサー類を総動員し、この空間の記録をとっていく。一方アクシャは立ち上がって周囲を見回していた。


「ずいぶん荒れているように見えるね。この世界はもう長くはなさそうだ」


 アクシャはそう言いながら右手で帽子を取って頭をかく。


「だが、こうなると厄介だねえ」


 それから二十分後、データの収集に区切りをつけたカロンゾは大きく息を吐いてからアクシャに声をかける。


「こっちはある程度情報を集められたぜ」

「そうかい、それじゃそろそろ戻るとしよう。どっか適当な場所にあんたの武器をぶっ放してくれるかな」

「よしきた」


 カロンゾは前方の一点に照準を合わせると、両肩のミサイルと右腕のレーザーを同時に発射した。さらにそこにアクシャの早撃ちにより弾丸が一発撃ちこまれ、白黒の空間に穴が開いた。だが、その穴からはミュータルが湧き出てくる。


「あいつを突破するよ!」

「突っ込むぜ!」


 カロンゾは迷わず穴に向かって突進していく。ミュータルはカロンゾの機体とそっくりの姿になると、ミサイルを一斉に放ってきた。


「そんなものじゃね」


 アクシャは迫るミサイルに向けて銃を構えると、一回だけ引金を引いた。その弾丸は無数の破片となって分散すると、ミュータルの放ったミサイルを粉砕した。カロンゾは障壁を展開すると、爆風の中に突進していく。


 そして開けた穴に到達した瞬間、激しい衝撃と同時に視界はゼロになる。


「これは入ってきた時よりもきついぜ。まあ、障壁があるからもつよな」


 そう言っている間にも振動は激しくなるが、数秒後にはその揺れが突然収まり、視界もレーダーも回復した。カロンゾはすぐにそこが元の世界だと確認をする。それからケイツとアクシャの様子を見ると、ナオヒトに通信を繋げた。


「隊長、カロンゾです。戻りました」

「時間がかかったな、問題はなかったか?」

「順調でしたよ。データもしっかりとれたのですぐに送ります」

「そうか、こちらは片づいたからお前達もすぐに戻ってきてくれ」

「了解」


 カロンゾはヘルメットを脱いでからデータの送信を開始し、進路を陸上要塞に向けた。


「ケイツ、もうお前もヘルメットとっていいぞ」

「わかった」


 ケイツもヘルメットを脱ぐと、腕を組んで立っているアクシャのことを見る。そのアクシャは眼鏡を外し、それをハンカチで拭っているだけだった。


「予想よりも事態は切迫してるようだし、中々厳しいかねえ」


 それだけつぶやくとアクシャは眼鏡をかけ直し、ハンカチをコートのポケットにしまった。


「ま、どうにかならないこともないか」

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