魔法と魔剣の力
翌日、一行は傭兵団の補給基地に到着していた。そこは山のふもとで、かろうじて全てが砂漠となってはいない場所だった。
そこは無人ではあったが、いくつもの倉庫のような建物が設営されていて、傭兵団がいつ戻ってきてもいいように多機能のメンテナンスロボットだけが動き回っていた。
「無人か、ここはミュータルに襲われたりはしないのか?」
要塞の屋上に立つアライアルは横にいるナオヒトに話しかける。
「不思議とここは無事なんだ。何か理由があるのかもしれないが、わかるか?」
「それならあたしが答えようか」
そこにいつの間にかアクシャが現れて口を出す。
「ここには精霊に似た雰囲気があるんだよ。ちょっと雰囲気が違うから、多分この世界の精霊だろうね」
「精霊、そういうものがここに実在するのか?」
ナオヒトの問いにアクシャは軽くうなずいた。
「まあ、向こうと全く同じというわけじゃないさ。でも、こいつは使えそうだ。アライアル、あんたも装備を調整すればこの力を使えるだろうよ。それじゃちょっと一足先に見てくるよ」
それだけ言うとアクシャは床を蹴って補給基地に飛び降りて行った。
「彼女は一体何者なんだ? お前達にもよくわかってないように見えるが」
「わかってるのは、かなりの実力者だが、自分ではあまり戦う気がないっていうことくらいだ。俺達やお前達とは全く違う理由で動いているんだろう。それでも敵でないのだけは間違いないがな」
「そうか。そろそろこちらも下に降りよう。あそこにはこの要塞の乗員を受け入れてもまだ余裕があるくらいの設備と物資があるからな」
それからしばらく後、補給基地の食堂にはナオヒトの小隊全員と、団長のアイザックと副団長のアレクシア、アライアルとレウスに、キーツとケイツが集まっていた。そこでまずアイザックが口を開く。
「さて、まずはナオヒト達の無事の帰還を祝って乾杯! と言いたいところだが、色々話し合うことが多すぎるからそれは後回しだ。ナオヒト、まずはお前達の機体がどう改造されたのか、それを教えてくれ」
「団長、それに関しては昨晩そこのキーツという青年に説明をしてもらった。今資料をまとめさせているところだ」
アレクシアがそう言うと、アイザックはため息をつく。
「そういうことは先に言っておいてくれよ。それじゃあとりあえず簡単に説明を頼む」
「まず全機に言えることは、飛行能力と基本スペックの大幅な向上がある。どちらも魔法の力によるものだな。パワーと反応速度はナオヒトとデレクが四割増しと言ったところか」
「そこまで上昇したらほとんど近未来の性能だな。ナオヒト、それでまともに操縦できるのか?」
「機体と同時に我々の体も強化されるのでなんとかなります」
「それに、ずいぶん機体のプログラムもいじったわけだな」
アレクシアがそう言ってカロンゾに目を向けると、そのカロンゾは引きつった顔になる。
「いや、近接戦闘用に手を加える必要があったんですよ。それに一機駄目になってたし、俺の武装は固定砲台にしてたので」
「まあいい。それで、お前の機体は索敵に特化したものに改造されたようだな」
「ええまあ」
「アレクシア、個別のことはまた後でいい」
アイザックに言われると、アレクシアは黙ってうなずいた。それを確認してからアイザックはアライアルとレウスに顔を向ける。
「さて、それじゃあそろそろ異世界の二人に話をしてもらおう。とりあえず、俺達のことを見てどう思ったか、率直なところを聞かせてもらいたい」
話を振られ、アライアルはレウスを一瞥してから立ち上がった。
「あの陸上要塞というのには驚いたな。まさに動く城、とんでもない代物だ」
「そうだろう、なにしろあいつは俺が設計した傑作だからな。機動力、居住性、攻撃力、防御力、なにをとっても唯一無二だぜ」
アイザックは満面の笑みを浮かべて自慢げな表情を浮かべる。
「だが、俺とレウスならあれも攻略できるだろうな。例えば」
そう言ってアライアルが指を鳴らすと、次の瞬間にはその分身が二十体食堂の中に現れた。
「俺はこんなこともできる。本体を見極めるのは難しいだろ?」
「これは、驚いたな。ニンジャの分身ってのがあったらこんな感じなのか」
「この分身は自由に動かせるし、爆発もさせられる。色々な使い道があるわけだ」
アライアルが手を叩くと分身は一斉に消える。
「本当はこれ以外も見せてやりたいが、室内だからやめておこう」
「おいおい、それならすぐに外に出ようじゃないか。資料はあとでまとめられるんだし、これから共闘するなら実際に見ておかないとな」
「わかった。場所を変えよう」
アレクシアもうなずいたことで、食堂から外に場所を移すことになった。
「レウス、いきなりだが大丈夫か」
「大丈夫です」
アライアルとレウスは二十メートルほどの距離をとって立っていた。アイザック達はそこからさらに離れて、二人を見守っている。デレクだけは自分の機体に乗り込み、何も持たずに立っている。
「デレク、障壁の展開は頼んだぞ。あの二人も加減するだろうから、軽くでもいいだろうが」
「了解しました」
デレクの返事を聞いたナオヒトは対峙する二人に手を振った。
「準備は出来たぞ!」
アライアルはそれに軽く手を上げて応じ、レウスも杖を剣にすると、鞘からそれを抜き放ち、漆黒のマントを展開した。
「団長、彼らはいつでも大丈夫です」
アイザックはナオヒトの言葉にうなずき、陸上要塞に通信をつなげる。
「俺が合図したらそこの二人に向けて副砲を三発撃て。大丈夫、ナオヒトが問題ないと言ってるんだ、心配するな」
それから数秒後、アイザックが手を上げ、それを振り下ろすと、陸上要塞がアライアルとレウスに向けて弾丸を三発撃ちだした。
次の瞬間レウスが前に出て剣を振るうと三発の弾丸は真っ二つになり、続いて両手に青い障壁をまとわせたアライアルが拳を振るってその全てを空中に打ち上げた。それはデレクの張った障壁にぶつかって地面に転がる。
見ている者達のほとんどは二人の動きを追えず、二人の姿が消えて轟音が響いたということしかわからなかった。
だが、アイザックには二人の動きがある程度追えていて、予想以上の結果に驚いていた。
「アレクシア、今の見えたか」
「いや、ほとんど見えなかった。だが録画は出来ている」
「そっちは頼むぜ。ナオヒト達は見えてたみたいだし、俺はそっちに話を聞いてくるわ」
アイザックはナオヒトに手を振って近づいていていく。
「おいナオヒト! お前はさっきの見えてたようだな!」
「一応見えてはいました。ですが、彼らは前より速くなっていますから完璧には」
「それを聞いてほっとしたぜ。まあ、あいつらの力がとんでもないのはよくわかった。問題は連携だけだな。とりあえずあいつらと話してくるわ」
アイザックはアライアルとレウスのほうに歩いていき、入れ違いにキーツがやってきた。
「ナオヒトさん、機体の整備について相談したいことがあるのですが」
「なんだ?」
「整備に使う道具にまだ馴染めないんですけど、それは時間があればできます。問題は魔力のほうで、ある程度の面積が確保できれば、こちらでもカートリッジに魔力を充填できるようになるんです」
「それは朗報じゃないか。私から副団長に申し入れておくが、何が問題なんだ?」
「ここの設備の屋根を全部使いたいので、皆さんの協力が必要なんです」
「それなら、すぐに副団長に話に行こう」
「ありがとうございます」
二人はすぐにアレクシアを見つけ、それに気がついたアレクシアは二人に顔を向ける。
「ナオヒト、どうした?」
「私の機体にも使っている魔力のカートリッジなのですが、それを補給する手段があるということなのです」
「ふむ、具体的な話はともかくとして、必要なものはなんだ?」
アレクシアに問われ、キーツは口を開く。
「ここの設備の屋根を全て使いたいのです。まず、特殊なシートで屋根を覆うのですが、そのためには人手が必要になります」
「なるほど。魔力を安定的に補給できればナオヒト達以外の機体も改造できるのか?」
「それは今はなんとも言えません。アクシャさんに判断してもらうことになります」
「そうだろうな。その結果がどうであろうと、ナオヒト達には必要なことだ、協力しよう」




