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群狼部隊  作者: bunz0u
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戦士と魔剣

 ナオヒトは目の前の光景が信じられなかった。空から落ちてきた閃光は鎧をまとった普通の人間にしか見えなかったが、自分たちの攻撃を圧倒的にしのぐ一撃を甲虫に加えた。そしてなにより、その人間が叫んだ言葉が理解できたのは不思議だった。


「レイヴン、あれが何者かわかるか?」

「いえ、わかるのは恐ろしい高速で接近する人間らしいものの反応が二つあったのですが、そこにいる人間がその片方だということだけです」

「出来る限りの情報収集を頼む。それから全員後退だ、言葉は通じるようだから、私が話す」


 命令通り、他の四機は後退していく。そして、ナオヒトはコックピットのハッチを開け、ヘルメットを外した。そして、埋まった甲虫の上に立つアライアルと目が合う。


「よお、あんたがリーダーらしいな」


 アライアルはまだ足元で動いている甲虫を無視してのんきな声を出す。ナオヒトは一度深く息を吸ってから、それに答えるべく口を開いた。


「そうだ。私はナオヒト、このウルフパックのリーダーだ。まず、援護を感謝したい」

「俺はアライアル、パイロフィストっていう組織に所属してる遊撃隊だ」


 聞いたことのない名称にナオヒトは小さくため息をつく。だが、それはアライアルの背後に持ち上がった紫の触手で止められる。


「危ない!」


 ナオヒトは警告を発するが、アライアルは後ろを見ようともせずに、その攻撃で体を貫かれてしまった。


「っく!」


 ナオヒトはすぐにコックピットに戻ろうとしたが、それは肩に置かれた手によって止められる。


「まあ待てよ」


 ナオヒトが顔を向けると、そこにいたのは触手に貫かれたはずのアライアルだった。それから後ろを見ると、やはり同じアライアルが触手に貫かれているのが見えた。アライアルがにやりと笑ってから指を鳴らすと、それは爆発をして触手を吹き飛ばした。


「モードミラージュ、俺のオリジナル魔法だ。身代わりから攻撃までなんでも出来るぜ」

「魔法? あれは君の分身、なのか」

「そうだ、あんたは中々察しがいいな。違う世界の人間なんだろうが」

「……なに?」

「おっと、話はあいつを片づけてからだ。あんたもその中に入って仲間と一緒に下がってな」


 それだけ言うとアライアルは下に飛び降り、地面から這い出てきた甲虫と対峙する。ナオヒトはできるだけ落ち着こうとしながらコックピットに戻るとヘルメットを着け、すぐに機体を後退させた。そこにデレクからの通信が入る。


「隊長、あの男は一体なんだったんですか」

「話の通じる男だった。私のことを違う世界の人間と呼んだが、その話は後だ。今は彼の、アライアルの戦いをよく見ておこう。想像もできないものが見られるはずだ」


 落ち着いた様子のナオヒトに、隊員達はとりあえず言いたいことは後回しにし、黙ってアライアルを見守ることにした。


 一方甲虫はやっとアライアルの分身を消失させ、意識を前方の本物に向けている様子だった。アライアルはそれを見て笑みを浮かべる。


「こいつなら使ってもある程度はやれそうだな」


 アライアルは埋まっていた甲虫が浮上してくるのを見ながら両手を広げた。


「いくぞ!」


 背中のバックパックが弾け、それがアライアルの両腕に集まると、一瞬で重厚なガントレットに変化をした。アライアルはその拳を思い切り打ち合わせると、地面を蹴って甲虫に真っ直ぐ向かっていく。


 そこに新しい触手が襲いかかるが、アライアルはそれを拳で弾きながら、まったく速度を落とさずに甲虫の数歩前まで到達した。


「炎の精霊!」


 アライアルの全身が炎に包まれると、それが瞬時に右腕に集中して、甲虫の頭に突き刺さった。一秒後、甲虫の全身から炎が噴出してその巨体が後方に吹き飛んでいた。しかし、甲虫は転がりながらも体勢を立て直すと空に飛び上がった。


「タフな奴だな」


 アライアル大きく後方に跳躍すると、羽を広げてそれを追い始める。


「いいぞ、ついて来い!」


 アライアルは背を向けるとそのまま連続で跳躍して甲虫を誘導していく。ナオヒトはそれを見て自分の機体を動かす。


「追うぞ」

「当然!」


 カロンゾだけが返事をしたが、残りの三人もすでに機体を動かしていた。


「わざと誘導しているのか。一体何を……」


 そうして数キロも移動した頃、アライアルの進行方向に人影らしきものが見えた。ナオヒトがそれをズームしてみると、そこに立っているのは軽装で黒い杖を持った男だった。アライアルはそこを飛び越えるとナオヒト達にまで響く大声を出した。


「レウス! しっかり決めろよ!」


 ナオヒト達もそれに応じるように一斉にその場で足を止めた。そして、レウスが杖を顔の高さまで水平に持ち上げると、それが黒い鞘に収まった剣に変化する。


「まさか、あの剣だけでミュータルを倒すつもりなのか!?」


 ナオヒトは信じられないといった表情を浮かべるが、モニターに映るレウスは迫る甲虫の巨体にも全く動じることなく、剣を鞘から抜くと、それを無造作にぶら下げるようにして構えた。


 そこに甲虫の巨体が突進していくが、レウスは動かず、ナオヒトからはそのまま押し潰されたように見えた。そのまま甲虫は地面を削っていき、もう一度飛び立つ。


「隊長! どうにもなってないぜ!」

「いや、違う。やったんだ」


 カロンゾに反論するナオヒトの言葉の直後、飛び立った甲虫の体は一瞬で真っ二つになっていた。それが地面に落ちて地響きを起こす中、レウスはその中心ですでに剣を鞘に収めていた。


「まさか」


 ユウは目の前の光景が信じられずに、それだけ言うのがやっとだった。


 一方、レウスの隣にはアライアルが戻り、肩を軽く叩いていた。


「さすがだな」

「大した生命力ですよ。核を切ったはずなのにまだ生きてる」

「それなら、すぐに回収してこいつを調べないとな。それにあの連中にも話を聞かないといけないし、なんだか面倒なことになりそうだ。とりあえず、このでかぶつの面倒を見るのは任せるぜ」


 それからアライアルはナオヒトの機体まで跳躍すると、下から見上げて手を振る。


「もう終わったぜ! あんた達と話がしたいから、さっきのナオヒトだけでもそのでかいのから降りてきてくれ!」

「全員待機だ」


 指示を出してから、ナオヒトは自分の機体に膝をつかせ、ハッチを開いた。それからコックピットの下に移動させていた手に飛び下りてから、地面に降り立ち、ヘルメットを外してアライアルと正面から向かい合う。


「おっと、もうこれはいらなかったな」


 アライアルが軽く手を叩くとガントレットが砕け、背中のバックパックに戻った。それから右手をナオヒトに差し出す。ナオヒトはすぐにその手を握り返した。


「助けてくれて礼を言う」

「気にしなくていい、それが俺達の仕事だからな」


 言葉を交わしてから手を放すと、アライアルはロボットを見上げる。


「それにしてもすごいのに乗ってるな。この巨体であれだけ動けるとは、驚きだ」

「いや、君達のほうが驚きだ。まさか生身であのミュータルを圧倒して倒すとは」

「ミュータル? それがあの化物の名前なのか」

「我々はそう呼んでいる。それで、さっきの違う世界と言ったのはどういうことなんだ」

「ああ、それはな」


 アライアルはそこで言葉を切り、その直後、アライアルと同じ鎧をまとった一人の女が空中から降り立っていた。その女が近づいてくる。


「隊長、これは一体どういうことですか」

「いや、俺にもよくわからない。とりあえず本部と連絡をとってくれ、俺達だけじゃ対処できないだろうからな」

「わかりました。隊員達は周囲の警戒でいいですね」

「ああ、任せる。そうだ」


 アライアルはそこでナオヒトに顔を向けた。


「こいつは遊撃隊の副隊長でヤルメルだ。ヤルメル、こいつはナオヒト、たぶん異世界の人間だ」

「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼む」


 多少戸惑いながらもヤルメルとナオヒトは軽く握手をする。アライアルはナオヒトの肩を叩くと、そのまま肩を組んでロボットのほうに歩き出した。


「さて、それじゃ俺達は話を続けるか。お前の仲間も紹介してもらいたいからな、そうだ、もうここは安全だろうから、上のやつも降りてきて大丈夫だぞ」


 そしてナオヒトの機体の足元までくると、アライアルはナオヒトを放してロボットの肩の上まで跳んだ。それから装甲を軽く叩いてみる。そうしている間に空から円盤型の飛行機がゆっくりと降下してきて着陸した。


 それを見たアライアルはロボットから飛び降りると、ナオヒトに顔を向ける。


「さっきの違う世界っていう話の続きだけどな、あれはまあ事前にそういう話をしていった奴がいるんだよ。近いうちに異世界からの来訪者が派手に現れるから注意しておくようにってな」

「それが我々だというのか。その話をした人物というのは今どこに?」

「それが行方不明だ。そのうち現れるだろうけどな」


 その言葉にナオヒトはなんとも言えない表情を浮かべた。アライアルはそれを見て軽く首をかしげる。


「まあ、仲間と話してこいよ。こっちもまだ時間がかかるからな」

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