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群狼部隊  作者: bunz0u
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リンク

 カロンゾは自分が傭兵になる前、まだまともなエンジニアだった時のことを思い出していた。


「昔は毎日こんなことやってたもんだが、まあこれはこれでな。ああ、これでとりあえず完成か」


 端末から顔を上げると、ちょうどナオヒトが近づいてくるのが見えた。


「あっちのテストはうまくいったんだな」


 カロンゾは立ち上がってナオヒトを迎えた。


「隊長、次はどんな仕事なんですか」

「空を飛ぶためのモーションが必要だ。お前も飛んでみろ」

「え? いや俺はそういうのはあんまり」

「いいからやってみろ、もうお前以外は準備は出来てるからな。話はそれからだ」

「わかりましたわかりました、行きますよ」


 カロンゾはため息をつくとナオヒトについて外に出た。そこにはすでに小隊のメンバーが勢ぞろいしていて、飛行用の魔導具のベルトを着けていた。


「遅いぞ、カロンゾ」


 デレクに声をかけられると、カロンゾは右手と首を横に振る。


「白兵戦モーションを短時間で完成させたんだ、少しくらい休んでもいいだろ。大体お前達が飛んで、それをレイヴンにキャプチャーさせればいいじゃないか」

「それじゃ自分で感覚がつかめないと思うけど」


 ユウの一言にセレンも無言でうなずいた。カロンゾはその反応にため息をつく。


「わかった、やればいいんだろ」


 カロンゾはそれだけ言うと、ナオヒトからベルトを受け取って腰に巻いた。


「よし、全員準備はできたな。魔力はベルトにある、飛ぶのに必要なのはイメージだけだ。まずはベルトに手を触れれば魔法が発動する」


 全員が一斉にベルトに手を触れると、白く光るマントが発生した。


「よし、ぶつからないように注意して、まずは真上に浮上してみろ」


 最初に浮き上がったのはデレクで、それに続いてユウとセレンも上昇していく。カロンゾはそれを見てため息をつくと、イメージを固めて自分の体を浮かせた。


「これは、思ったよりも違和感がないというか……」


 制止してつぶやいている上では、すでに三人が動き回っていた。


「これなら俺もいけるか」


 カロンゾはデレクの隣まで上昇して、その肩に手を置く。


「思ったよりも簡単だな」

「そうだな、色々と複雑な魔法のようだ。これで機体を飛ばすのが出来るのかが問題だが」

「なにしろずっと重いからな。まあ、今は色々試してみるしかないか」


 四人はそれから十分間ほど飛び回ると、降下してナオヒトの前に集合していた。


「感想は色々あるだろうが、この感覚をよく覚えておいてくれ。カロンゾ、飛行用のモーションについてだが」

「まあ、これだけの安定性があるならけっこう簡単にできますよ。レイヴンにもキャプチャーさせてたので、すぐにかかります」

「頼む」


 カロンゾは自分の作業場に戻っていき、ナオヒトは残った三人に向かって口を開く。


「我々の機体はまだ改造中だ。数日は各自魔法の習得に集中して、セレンの機体をローテションで練習機とする。スケジュールは私が作っておくから、後で確認してくれ。以上、解散だ」


 それだけ言うとナオヒトはその場から立ち去り、残った三人のうち、デレクが最初に口を開いた。


「二人とも、魔法の訓練につき合って欲しいんだが」

「いいよ」

「私からも頼みたいくらいだ」


 ユウとセレンはそれに賛成し、三人は歩き出した。


「しかし、リンクシステムか。あれは妙な感覚だな」

「まあ、なんか機体と一体になった感じがする」

「機体まで動かせるようにも感じられる」


 セレンの言葉にデレクはうなずく。


「それが理想らしいな。まあ、できることだけはやろう」


 そうして三人が魔法の練習場として確保されている場所に到着すると、そこにはちょうどヤルメルがいた。一見したところ腕を組んでいるだけで何もしていないように見えたが、すでに魔力を身につけた三人の目にはそれは高度な訓練に見えた。


「さすがだ。ああいうことは私達にはできないな」


 セレンがそう言うと、デレクは黙ってうなずき、ユウはヤルメルに近づいていった。


「すごいね、隊長代理さん」


 軽い調子でかけられた声に、ヤルメルは組んでいた腕をほどいた。


「魔法の練習か? それなら付き合うぞ」

「いいの?」

「ああ、隊長は不在だが、副団長に鍛えられてるだけで近くにはいるからな。ミュータルの襲撃もないし、余裕はある」

「やった」


 ユウは後ろの二人に親指を立てると、デレクとセレンはうなずいて練習を始めた。


 一方、自分の作業場に戻ったカロンゾだったが、その前にはキーツがいた。


「カロンゾさん、少し相談したいことがあるのですけど」

「ああ、それなら中で話そうぜ」


 カロンゾはドアを開けて室内に入ると、折り畳みの椅子を出して、自分の椅子と向かい合わせるようにして置いた。それから手でキーツに椅子をすすめると、ポットからお茶を二ついれて椅子に座った。


「さて、話っていうのは何だ?」

「リンクシステムについてです。あれをもう少し制御しやすくする方法を思いついたのですが」

「あれに関してか。確かに今の状態だと難易度高いよな、俺はうまくできる自信がないぜ」

「ええ、戦闘と同時に行うのは皆さんの負担が大きいです。なので、それを補助する魔道具を新しいパイロットスーツにつけたらと考えています。操縦に支障のない範囲で、ですね」


 カロンゾはお茶を一口飲んで顎に手を当てる。


「なるほどな。俺達はお前達と違って生身で戦うわけじゃないし、スーツが多少ごてごてしても問題はないか。だが、スーツにつけた魔道具でリンクシステムを通じてうまいこと機体から魔法を発動できるのか?」

「多少の遅延はありますが、できます」

「確かにそれはいけそうだな。道具を使えば自分で魔法を発動するよりはずっと楽だし」


 そこで二人は顔を見合わせてうなずくと、口に笑みを浮かべた。


「よし、すぐにやってくれ。俺はとりあえず飛行モーションを作らないといけないからな」

「わかりました、それでは夜にまた相談しましょう」

「ああ、俺はずっと閉じこもってるから、またここでな」

「はい、試作品を完成させてきます」


 キーツは立ち上がって外に出て行き、それを見送ったカロンゾは一つ手を叩く。


「さて、じゃあ俺も頑張りますか」


 カロンゾはキーボードに手を置き、モニターと向かい合った。


 その頃ナオヒトはケイツと一緒に王都の外に出てきていた。


「アライアル達はこの先か」

「そう、頑張ってるみたい。ところで、そっちの世界に行けそうなんだけど」

「ほう?」


 突然の言葉にナオヒトは冷静に返した。


「うん、あなた達とこっちから十人くらいなら行って戻ってこられそう」

「それは人選が難しそうだな」

「アテリイはもう考えてるみたいだけどね。今やってることもそれが理由みたい」

「つまり、そちらのメンバーはもう決まっていると考えていいのか?」

「さあね。まだこの話はしてないし」


 そうしていると、ナオヒトは前方に強烈な魔力の気配を感じた。


「この先で訓練をしているのか」

「そう、特別な空間だから普通はわからないけど」


 そう言うとケイツは前方に手を伸ばして何もない空間を開けるように動かした。すると、空間が開いて緑色の光が漏れてくる。ケイツはそこに何の躊躇もなく踏み込み、ナオヒトもそれについていった。


「そこだ!」


 アテリイの声と同時に衝撃音が響き、何かがナオヒトたちの上のほうに叩きつけられた。


「ああくそ!」


 アライアルの声が響くと、ぼろぼろになった姿でナオヒトたちの前に降りてきた。ケイツは素早く前に出ると、その肩に手を置く。地面を蹴ろうとしていたアライアルは振り返ると、動きを止める。


「なんだ、何か話があるのか?」

「そう、アテリイ!」


 ケイツが手を振ると、アテリイがゆっくりと近づいてきた。


「ナオヒト殿も一緒ということは、例の話か」


 それに続いてアライアルと同じような状態になったレウスが歩いてくる。


「ナオヒトさん達の世界に行こうという話ですか」

「それで、こちらからは何人行けるんだ?」


 アテリイが聞くと、ケイツは両手を開いて突き出した。


「十人か。そういうことなら、考えていたことが大体できそうだな」


 アテリイは満足そうにうなずくと、アライアルとレウスに目を向けてから、ケイツに視線を戻す。


「準備にはどの程度かかる?」

「正確にはまだわからないけど、ちょっと時間はかかりそう。最低でも三十日くらいは」

「こちらの準備はなんとかなるか。ナオヒト殿のほうはどうだろうか」

「それだけ時間があれば、機体の改造も終わりそうですね。問題は我々の習熟の方ですが、まあそれは急ぐようにします」

「それに関してはこちらからの派遣メンバーも同じだ。だからこうして鍛えてるわけだが」


 そう言ってアテリイは笑みを浮かべると、手を叩いて周囲の空間を解除した。


「まあとりあえず工場に戻ろう。具体的なことを相談しないといけない」

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