本命
「サイズは四メートルと言ったところだが、こっちが本命だったか」
ナオヒトはトカゲ型のミュータルがユウの狙撃をかわしたのを見てつぶやく。
「凍結弾はあとマガジン一つ、当たれば効果はあるが、普通に撃っても当たりそうにないな」
「はい、今の反応速度はミュータルで最高のものです。こちらの様子をうかがっているのか、今のところ攻撃手段は不明ですが」
「油断はできないな。だが、アライアルがすぐに来る。もう少し動かないでくれると助かるが、そうもいかないようだな」
ミュータルは頭部に目を発生させ、それがナオヒトの機体に向けられた。ナオヒトはミュータルが動くよりも早く引金を引く。ミュータルは大きく跳躍してそれをかわすと、尻尾を足のようにしてナオヒトの機体に向かうように軌道を変えた。
ナオヒトはブースターを使って真横に移動してそれをかわし、さらに強引に機体を回転させると、マシンガンの銃口をミュータルに向けて引金を引く。
三発の銃弾はミュータルの胴に命中するが、体の表面を凍らせるにとどまり、着地したそれは工場に向かおうとする。だが、そこに狙いすましたユウの弾丸が飛来し、後足の根元を貫いて動きを止めた。
その隙に体勢を立て直したナオヒトはミュータルの足元に向けて凍結弾をばら撒いていく。弾は分散するが、それでもミュータルの動きを封じる効果は十分に発揮された。
そこに真上から炎に包まれたアライアルが一直線に落ちてくる。それは命中するように見えたが、ミュータルは高速回転をして氷を砕きながらかわし、そのまま上昇していく。アライアルはすぐにミュータルを追って地面を蹴ると、身にまとう炎を翼のようにして飛翔した。
「速いな。だが、チャンスはある」
ナオヒトはアライアルの動きを見ながら、マシンガンを上空に向ける。アライアルはそれを一瞥すると、ミュータルに向かって速度を上げた。ミュータルもそれに応じるかのようにターンすると、高速回転したままアライアルに向かって落ちてくる。
両者はそのまま正面から激突すると、炎と肉片を派手にまき散らしながら交差した。
「削り切れないか!」
まとっていた炎がすでに消失したアライアルは、白く光るマントで空中にとどまっていた。一方ミュータルは高速回転したまま地面に突っ込み、今度は転がりながらナオヒトに向かってくる。
ナオヒトはまずは拳銃を取り出すと、その進路の地面に数発撃ちこんだ。それによってミュータルの進路は穴だらけになり、空中に跳びあがる。
拳銃を捨てていたナオヒトはマシンガンをそれに向けて引金を引いた。弾丸は空中のミュータルをとらえ、その体を凍らせていく。
「よし! ファイアフォームアサルト!」
空中にとどまっていたアライアルの周囲に炎の化身が無数に現れ、急降下していくアライアルに次々に同化していった。そのアライアルは一つの巨大な炎の矢となりミュータルの中心を貫いた。
その一撃でミュータルは弾け飛んだように見えたが、アライアルは着地をするとすぐに周囲を警戒する体勢になる。
「上だ!」
ナオヒトは上空に銃口を向け、引金を引いた。放たれた銃弾は人間サイズにまで小さくなって分裂していたトカゲ型ミュータル数体を撃ち抜くが、残りの二十体ほどは翼を生やして逃げていく。
「任せろ! モードミラージュ!」
アライアルの分身がミュータルと同数現れると、それは一斉に空に舞い上がり空中のミュータルに突っ込んでいく。それがミュータルすべてに取りつくと、アライアルは右手を握りしめる。
「バースト!」
声と同時に分身が爆発し、ミュータルが全て粉々に砕け散った。
「こっちはこれで片づいたか?」
ナオヒトはレーダーをチェックしながら、目視でも周囲を確認したが、ミュータルの存在を感知することはできなかった。
「アライアル、こっちは片づいた!」
「そうか! ならもう一体だな」
「ああ」
そうして二人がもう一体の方に向かおうとした瞬間、地面が大きく揺れた。
「あれは!?」
アライアルが頭上に不穏な雰囲気を感じて空を見上げると、そこにはミュータルだったものが渦を巻いて集まってきていた。
「初めて見る現象ですね。この空間で倒したミュータルを構成していたものが全て集まっているようです」
「そうか、それ以上の情報は?」
「私の本体に格納されているコアも同調しようとしているようですが、ここにきてから施された封印がしっかりしていますから、問題はありません」
「そのコアの反応から何かわからないか? 例えば、あの現象を起こしている中心の点だ」
「コアの動きから推定してみます」
「頼む」
レイヴンとの会話を終わらせたナオヒトは、空を見上げてから口を開く。
「アライアル、今レイヴンがあれを解析中だが、お前のほうで何かわからないか?」
「さあな、嫌な雰囲気はあるんだが、どこを攻撃すればいいのかもわからない。ケイツにも何もわからないようだから、レイヴンの判断を待つとするか」
それからアライアルは全員に待機の命令を出し、ヤルメルとデルス、アーリエとも合流した。ちょうど三分後、レイヴンからナオヒトに連絡が入る。
「コアが同調しようとしている場所がわかりました。座標を送信します」
ナオヒトは送られてきたデータを確認し、モニターに表示させた。
「上空百メートルか。ユウ、狙撃は可能か」
「大丈夫、いけます」
「よし。アライアル、これからユウがあの現象の中心を狙撃する。何が起こるかわからないから、十分に用心してくれ」
「わかった。攻撃のタイミングは教えてくれよ」
「了解した、カウントダウンをする。いいな、ユウ」
「いつでも」
「五カウントだ」
それからナオヒトのカウントダウンが始まり、ゼロと同時にユウのライフルが火を噴く。銃弾がレイヴンの示した座標を貫いた瞬間、強烈な風が発生して集まっていたものが散っていった。
「遅かった」
ユウはぽつりとつぶやき、すぐに移動を開始した。
「隊長、手応えがおかしかった。あれはかなりまずいと思う」
「わかった、お前も気をつけろ」
アライアルは一呼吸おいてから、全員に聞こえるようにして口を開く。
「これからまずい事態になりそうだ。全方位への警戒を怠らずにミュータルの攻撃に備えてくれ」
そう告げた数秒後、空間に轟音が響くと、巨大な影が工場とその周囲を覆っていた。
「アライアル、あれはドラゴンでいいのか?」
「ああ、だがここまで禍々しいのは知らないな。でかさは、お前の機体の三倍はありそうか。とりあえず俺が当たってみる、防御は任せるぜ!」
そう言うとアライアルは光るマントを展開してミュータルドラゴンと同じ高度まで上昇した。両者は睨み合うように一度制止すると、アライアルは炎の分身を展開し、ミュータルドラゴンは翼を炎に包んだ。
「ファイアフォーム!」
分身と一体になったアライアルが突進し、そこにミュータルドラゴンが口から炎のブレスを吐く。両者は激しく激突すると、両者の勢いは拮抗し、互いの炎を削り合う。
「オーバードライブ!」
アライアルの炎が燃え盛り、ブレスを押していくが、それはミュータルドラゴンの直前に来たところで止まった。
「こいつ!」
直後、ブレスの勢いが増してアライアルは一気に押し返されていく。だが、地面からせり上がった氷の壁でがブレスを遮ったことでアライアルは体勢を立て直し、すぐに着地した。そして、氷の壁の上にジョシンが立つと、二本の曲刀を足元に突き刺す。
「プロテクション! モードチェイン!」
曲刀を突き刺した場所から青い鎖が氷の壁を覆い、補強していく。それによって削られていた氷の壁はブレスを完全に受け止めた。そこでミュータルドラゴンは首を振り、ブレスがジョシンを襲う。ジョシンは二本の曲刀を抜いて受けたが、大きく弾き飛ばされてしまった。
「大丈夫ですか」
アーリエを背負ったデルスがそれを受け止めると、二本の曲刀は折れ、鎧も破損して頭から血を流していたが本人の意識ははっきりしていて、デルスの手を叩く。
「大丈夫だ」
「そんなんじゃ戦うのは無理ですってば。デルス、下に戻ろう」
「了解」
デルスが工場の前に降りると、そこにはアライアルも移動してきていた。ミュータルドラゴンはその様子をうかがうかのように空中を旋回している。
「あいつはすぐに攻撃してくる。こっちも全力で迎え撃たないとまずそうだ」
そう言いながら、ベルトに新しいマジックカートリッジを装着した。
「俺ができるだけあいつを抑える。攻撃はお前達全員に任せるぞ」
そしてアライアルは白く光るマントを展開して飛び立つと、ミュータルドラゴンもそれに応じるように旋回をやめ、アライアルに目を向けた。その反応にアライアルは笑みを浮かべる。
「さあ、今度は決着をつけようぜ」




