特殊工場
「これが王都か、予想以上の規模だな」
ナオヒトはレイヴンの撮影した画像をモニターの隅に写しながら、すでに肉眼でも見えるようになっていた王都を見ていた。
「これほどの都市とは思いませんでした。これなら私の機体も修復できるでしょうか」
「そうだな、これを見ればできると思えてくる」
そこにアライアルからの通信が入る。
「ナオヒト、そろそろ王都に入るルートの相談なんだが」
「ああ、我々の受け入れ先はどこにあるんだ?」
「王都の一番外れだ。街に入る必要がないし、人家も近くにないところだそうだから心配することは少ないぞ」
「それは助かる。その場所への誘導はどうするんだ」
「そろそろ迎えが来るはずなんだがな、ああ、来たな、上だ」
ナオヒトがその言葉に従って上空を見ると、小さな人影らしきものが二つ見えた。それは猛スピードで近づいてくると、一行の前に着地した。
「あいつはベネディック、本部の小隊の隊長だ。もう一人は副隊長のクリストール。ま、ちょっと待っててくれ」
アライアルはそう言うと、ベネディックの前まで移動し、手を上げた。
「久しぶりだな」
「そうですね、無事なようでなによりです」
「そっちもな。副隊長のほうもずいぶん風格が出てきたじゃないか」
「いえ、まだまだです」
アライアルは二人と握手をすると、すぐに一行を見渡す。
「それで、受け入れ先はどこなんだ」
「すぐに案内しますよ。技術部長が興奮しすぎてて早めに見せないと今にも倒れそうなので」
「あのばあさんは元気すぎるんだよな」
それから数時間後、一行はベネディックとクリストールに先導されて、ナオヒト達を迎えるために作られた工場に到着していた。
ナオヒトは機体をしゃがませるとハッチを開け、その工場を見上げた。
「短期間によくもこれだけのものを作ったものだ」
それだけつぶやくとナオヒトは地面に降り、アライアルの方に歩いていく。アライアルはそれに気づいて笑みを浮かべた。
「立派なもんだろ。まあ、俺もここまで完璧に準備できてるとは思ってなかったけどな」
「人もかなりいるな」
「ああ、まさに総力を結集したってやつだ」
そこに満面の笑みを浮かべた初老の女が近づいてくる。
「ようこそ!」
そしてそのままナオヒトに手を差し出した。
「私はパイロフィスト技術部の部長、マーガレットよ。よろしくね」
「初めまして、ナオヒトです」
「早速だけど、あなた達の機体を工場の中に入れてもらえるかしら? 空のものはこの上に着地できるから」
「はい、誘導をお願いします」
ナオヒトはすぐにコックピットに戻ると全員との通信を開く。
「全機誘導に従って工場内に入るぞ。レイヴンは屋上に着陸しろ」
それから四機が工場内に歩いて入り、用意された場所に収まる。分解された一機はクリストールとエルディによって運び込まれていた。
それぞれ用意された場所に機体を収めてから、ナオヒト達はそれを見渡せる場所に集合していた。
「思った以上に整った場所ですね」
「ああ、こりゃ驚きだ」
セレンとカロンゾはそれぞれ感想を言い合い、デレクとユウは黙って周囲を見ている。ナオヒトも同じように周囲を見ながら、レイヴンとの会話を始めた。
「そっちの様子はどうだ?」
「建物の強度は問題ありません。拠点としては良い場所です」
「お前は警戒はしなくていいからサンプルの解析とカロンゾのサポートに集中しろ。それと端末だけ準備しておいてくれ」
「了解しました」
「皆さーん!」
そこにキーツとケイツが数本のベルトを抱えて近づいてくる。
「いいものを持ってきましたよ」
そう言いながらベルトの一本をナオヒトに差し出した。ナオヒトはそれを受け取りながら首をかしげる。
「これは、ただのベルトに見えるが」
「マジックカートリッジが仕込まれたベルトです。これがあれば自分の魔力を使う必要がないんですよ。魔力容量は実働部隊の人達のものと比べたらだいぶ少ないですけどね」
「なるほど、これで魔法をもっと練習しろということか」
「へえ、これで自分の魔力以上のことができるんだ」
ユウはそう言いながらベルトを受け取り、早速つけてみた。
「それで、どうすればいいの?」
「バックルを反転させてください。それで起動します」
「くるっとね」
言われた通りにユウがバックルを反転させると、驚きの声を上げる。
「うっわあ、これはなかなかの新感覚」
「どれどれ、じゃあ俺も」
カロンゾもベルトをつけてバックルを反転させた。
「へえ、こりゃ面白い感覚だ。このベルト、まるで体の一部になったみたいだぜ、それにすごい魔力量だ」
「ずいぶん性能がいいもののようだが、提供してもらっていいのか?」
「もちろんです。それで、交換条件というわけではないのですが、今分解してある機体の改造をさせてもらいたいんです」
キーツの言葉にナオヒトは思わず隣のデレクと顔を見合わせ、そのデレクが口を開く。
「その、改造というのは何をやるんですか?」
「あの機体が魔法を使えるようにできると思うんです。具体的には全身に魔導回路を張り巡らせて、それを搭乗者がコントロールできるようにするという方法ですね」
「つまり、我々パイロットが自分の機体に魔法を使わせるわけですか」
「そうです。面白いと思いませんか?」
「そういうことならぜひ試してみてもらいたい」
「ありがとうございます。それじゃ、早速とりかかりますね」
ナオヒトの即答に、キーツは笑顔でうなずいてその場から去って行った。一方ケイツはその場に残り、ナオヒト達のことを一人一人見ている。
「狼少女、お前は行かなくていいのかよ」
「あたしは希望者に魔法でも教えようかな」
「じゃあ、俺はパス。やらなきゃいけないことがあるんでな」
カロンゾはそう言うとナオヒトに視線を向ける。
「そうしてくれ。デレクはどうする?」
「私もレウスさんに剣を教えてもらうので」
「ああ、そうだったな、ならユウとセレンと私の三人だ。よろしく頼む」
「まあいいや、じゃあ外行こう」
ケイツは先に歩き出し、ユウはその尻尾を触りたそうにしながらついていく。それを見たナオヒトは軽くセレンの肩を叩いて歩き出した。
「彼らの心配はなさそうですね」
パイロフィストの鎧に身を包み、眼鏡をかけた中年の女性、団長のフォルブランがアライアルに声をかける。
「まあ、彼らは腕のいい兵士ですよ。状況への適応も早いし、戦闘も慣れたもんです」
「そうですか。しかし、ミュータルというのは厄介な存在のようですね」
「いまのところ、悪魔よりはましですよ。しかし、切札を使う羽目になったので、油断できる相手でもありませんね」
フォルブランはアライアルの言葉にため息をついた。
「今は戦うしかなさそうですね。アテリイが三日後には戻る予定なのが幸いです」
「別の大陸に行ってたんじゃないんですか?」
「今回の報せを聞いてすぐに戻ってくることに決めたのですよ。一人見どころのある若者を連れてくると言っていましたから、楽しみですね」
「そりゃ頼もしい。じゃあそれまでは遊撃はここに張り付いているべきでしょうね」
「ええ、ここは頼みますよ。アライアル」
フォルブランはアライアルの返答に満足したようで、その場から立ち去って行った。
「了解」
その背中に小さくつぶやくと、アライアルはヤルメルを探してそこに歩いていく。
「ヤルメル、副団長は三日程度で到着するようだから、それまで気を抜くなよ」
アライアルの言葉にヤルメルは笑顔を浮かべる。
「早いですね」
「それだけ状況が良くないってことだ。ミュータルがいつ現れても対応できるようにしておかないとな」
「本当に彼らを追っているのならば都合がいいんですけどね」
「ケイツがそう言ってるんだ、間違いはないだろう。それに対策はしてるんだ、この街を壊させやしないさ」
「はい、了解です」
ヤルメルがうなずくと、そこに通信具を持ったジョシンが駆け寄ってくる。
「アテリイ副団長から通信です。アライアル隊長に話があると」
「ああ」
アライアルは通信具を受け取った。
「どうも、副団長殿」
「そっちは大変のようじゃないか」
「異世界人に未知の敵、忙しくてしょうがないぜ」
「私もすぐに戻る。それまでは頼んだぞ」
「はいよ、まあやれるだけやるさ」




