三十九章 夜の灯籠
松本先生がいらしてから
あたしは隆夫とチビの面倒を
看ることになった。
昨日一日中隆夫は
自分も竹蹴り(缶蹴り)をやりたかった
と、ボヤいていた。
おまけに、あたしは変な人呼ばわり。
すみませんね!変な人で!
はっ!因みに原さんは井上源三郎さん。
優しくて良い人。
あたしが此処へ来る前は
雑用を一人でこなしていたんだって。
朝餉や昼餉、夕餉などは
それぞれ自分達の持ち前と謂う事で
作っていたとか。
あたしは基本時間があるので
作っているけど、隆夫の怪我から
元に戻った。
『全治までどれくらいって謂ってたの?』
『さぁ。二週間位だったかな?』
『何それ…』
隆夫は時々怪我をした太股を
撫でる仕草をする。
『それじゃお茶でも持ってくるね?
喉乾いたでしょう?』
『おう』
あたしは隆夫の使う部屋から
出て台所へと向かう。
『おや、篠山君』
『原さん…今日和』
『あいよ。今日和。隆夫君の怪我具合
どうだい?まだ痛そうにしてるかな?』
『今日はあまりそうでも
無いみたいです。ただ、たまに撫でる仕草はしてます』
『そうかぁ…だけど刀じゃなくて
良かった。あんな鋭利な刃物でやられたら…治りが遅くなるから』
『そうなんですか…』
あたしは原さんと一緒に台所へ行く。
すると台所で一人何かしていた。
土方さんだ。
『今日和。何してるんだい?』
『ああ…原さんちょっと飴を』
『飴なら近藤さんが部屋へ持って行きましたよ?』
『それなら良いか』
三人で少し話をし
あたしはお茶を持って隆夫の
部屋へ戻る。
日が暮れると雪が降り出してきた。
此処へ来て、初めての雪だ。
どれくらい降るのだろう…。
『降ってきましたね』
『山南さん…はい。今晩外の見張り
気を付けないと、ですね』
『そうですね』
あたしと山南さんは
空を見上げ、降る雪を見る。
その時だ。中庭の夜の灯籠…。
『智香さん…』
あたしは山南さんを見てから
彼が見る方へ目を向ける。
そこには、日高りんの姿があった。
「潰してあげる…」
『っ?!』
『それが貴女の目的ですか?』
「ふふふ…」
『隆夫君の怪我、貴女との関係は?』
「潰してあげる…次は……」
最後の言葉が終わる頃
彼女は消えた。なんて謂ったのだろう…
山南さんはまだ灯籠を見たままだ。
『山南さん…』
『…あ、失礼しました。また私達だけ
目撃しましたね…』
『…はい…』
『幽霊なんて、信じていなかった私ですが…』
『……』
『さ、広間へ行きましょう。此処に居ても仕方有りません』
『…はい』
広間へ行くとお酒を呑んでいる
永倉さんと原田さん。
『おっ。山南さんと智香。
どうです?山南さんも雪見酒』
『良いですね。けれど障子を閉めたまま
ですと、雪見酒とは…』
『新八ぃ…山南さんの謂うとおりだぞ』
『何謂ってんだ?心の目で見てんだよ』
『どんな目ですそれ?』
『お!智香気になるか?』
『いえ』
『ぶっ!即答されてやらぁ』
『だーもう、良いだろう?…よっ…山南さんどうぞ』
『頂きます』
『あたし、隆夫を診てきます』
『大丈夫ですか?付添いますよ?』
『…大丈夫です。誰も居ない訳じゃないので』
あたしがそう謂うと山南さんは立ち上がる。
先程の日高りんの事もある。
心配してくれているのだろう。
『行きますよ』
『有り難うございます』
『少し、待っていて下さい』
『『はい』』
隆夫の部屋まで付き添ってくれた
山南さんにお礼を謂う。
『いいえ、もし何かあれば
大声で知らせて下さい。誰かすら
来てくれますから』
『はい。判りました』
山南さんは会釈をすると
広間へと戻った。
中に入ると隆夫はチビの相手をしていた。
『お、智香か。何か寒くないか?』
『雪が降ってるから』
『降ってるの?』
『うん』
『よしっ!怪我が治ったら雪合戦な』
『それまで雪があると思うの?』
『そこなんだよなぁ…』
『どれ位積もるか判らないのに』
『確かに…あーっ!何で怪我するかなぁ』
『………』
『何だよ黙り(だんまり)して』
『また視たの』
『……日高…?』
『うん。さっき…山南さんと雪を
見てたとき…”次は”…そう謂ってた』
『…日高が関係してるって事か?』
『うん…それと”潰してあげる”って』
『そっか…智香…』
『うん?』
『俺も…怪我が治ったら…俺もお前を護る』
『…何か気持ち悪いよ』
真顔で謂う隆夫に引くあたし。
それを酷いと謂う隆夫。
だって元彼であって、今までそんな
臭い台詞を謂った事がない。
ましてそんなキャラじゃないだろうと
勝手に決めつけていたから
なおのこと。
沖田さんはあんな感じだけど
笑顔混じりで謂ってくれてり
抱き締めながら謂ってくれてり。
だけど何故かヤッパリ隆夫が
その台詞を使うと引く。
『そんな目で見るなよ…』
『だって気持ち悪い』
『酷い奴…』
『酷いのはどっちよ?許した訳じゃ
無いんだからね』
『…悪い…』
落ち込んだのか
俯く(うつむく)隆夫。
元気付ける為ハリセンで
ひっぱたいてみようか…?
『ハリセンで叩くなよ…』
『えっ?!何で判ったの?!』
『俺が落ち込むとお前は
必ずハリセンで叩くからな?』
よく判って居ます事。
こんな感じに仕上げてみました。
次回はどのようにしてみようか
悩んでますが…なんとか頑張ってみます!
いつも有り難うございます!




