三十四章 打ち首の日
今回も少し長めになっています。
いつも詠んで下さり
有り難う御座います。
今日は朝から雨が降っている。
昨日、近藤さんと土方さんがポロッと
謂ってたなぁ…。
『明日は日高りんの打ち首の日だな』
『そうだなぁ…出来れば打ち首の無い
世の中にしたいもんだが…』
『それは誰だって同じさ…仕方ねぇよ…』
二人は切なそうに話をしていた。
平助君には何もなかったみたいだけど
何だか浮かない顔をしている。
それは、沖田さん達も一緒だった。
遠くで季節はずれの
雷が鳴っている。今日の天気はまるで
日高りんの心を表せている気がする。
雨は涙、雷は怒りや憎しみ…。
次第に雨は強く降り始まる。
『こんなところで、どうしたの?』
『あ…沖田さん、平助君…』
『よっ!』
『いえ…今日、彼女の最後の日…なんですよね…?』
『あー日高りん…か』
『そうだね?ずっと平助に
会いたがってたって話だけど…会わなくて良いんじゃない?』
『え?最後もかよ?』
『僕はやめた方が良いと思う
…って…行く気だったの?』
『ああ。土方さんと話してたんだ』
『へぇ。意外。だけどそれって
土方さんも同行するの?』
『当たり前だろう?』
『ふぅん。智香ちゃんは?行くの?』
『あたしは行きません』
『その方がいいね。…でもさー。
外、凄い雨だよ?』
『土砂降りですね』
『土砂降りだな…』
平助君が土方さんの部屋へ向かう為
一度別れた。
沖田さんは広間へ隊士達を
集めているので彼も行く。
あたしは再度、縁側の方を見る。
その時だ。灯籠の影に見覚えのある
女が見えた。
少し俯いていて
目は此方を睨んでいる様だ。
綺麗な着物はくすんで見える。
『日高…りん…?』
『え?』
沖田さんが足を止めて
戻ってきた。
あたしは灯籠の方を見たままだ。
『あ…あの灯籠の影に…』
『…?誰も居ないよ?』
『確かに居たんですっ!俯いて此方を
睨んでいる日高さんが……
…本当に…』
『疲れてるんじゃないかな?
最近動き通しだし…それに
彼女は奉行所だよ?』
沖田さんの目を見て
彼の言葉を訊いたあたしは
もう一度日高が立っていた場所を見る。
けれど…姿はない。
沖田さんが謂うとおり
日高りんは確かに奉行所に居る。
此処に居るはずがない…けれど
あたしは彼女が此方を睨んでいるのを
見た。
呪いのせい?
違う。アレはもう解決したはず。
『ふぅ、心配だからついておいで?』
『……はい…』
『大丈夫?震えてるよ?』
『え…?』
気付かなかった。
確かにあたしは…全身震えていた。
沖田さんが優しく抱き締めてくれる…。
”大丈夫、大丈夫だから”
まるでその言葉は
おまじないの様に聞こえた。
次第に震えが治まってゆく。
『行こう?』
『はい…』
一体アレは何だってのだろう?
あたしは沖田さんの会議中そればかりを
気にしていた。
『それじゃ、明日の巡察中に
桝屋に変な動きがあったら僕に
知らせてね?逃がしたりなんかしたら
土方さん、恐いからさ。失敗の無いように』
『『はいっ!』』
『それと、日高りんが今日
打ち首何だけど、”もし”彼女との
繋がり(血筋)がある人間が居るっていう
情報があったら教えて?』
『『はいっ!判りましたっ!』』
『それじゃ解散。呼び出したりして
ごめんね』
沖田さんは真剣その物だった。
巡察の前の日は必ずこうして
広間に隊士達を集めてミーティングを
する事がある。
大抵、そうゆうときは
重大な知らせがあるからだそうだ。
終わると隊士達は席を立ち
自分たちの部屋へと戻る。
勿論、その場に残って明日の
巡察で失敗しないよう
話し合う人も居る。
沖田さんは懐から文らしき物を
取り出すとそれを
読み出す。
『此処に沖田君は居ますか?』
『ん?…居ますよー僕は此処でーす』
沖田さんは詠みながら
山南さんへ居場所を教える。
沖田さんの隣まで行くと山南さんも
座る
『貴男の隊士達が出てきたので
ちょっと寄らせて頂きました』
『構わないですよ。どうしたんです?』
『はい…すみません…此処ではなんで
私の部屋へ来て頂けませんか?』
『…?』
沖田さんとあたしは
同時に首を傾げた。
『それじゃあたし、山南さんの部屋まで
お茶をお持ちします』
『有り難う御座います』
二人は立ち上がると広間を出て行った。
あたしは反対側から出て台所へゆく。
台所へ着くとあたしは
湯のみを二つ手に取る。
そしてまた、脳裏に灯籠の影の事を
思い出す。あの不気味な感じは
何だったのかな…。
この時、沖田さんは山南さんの部屋で
話をしていた。
『どうしたんです?広間じゃ
話せない事なんですか?』
『いえ…広間でも良かったのですが…
智香さんが居たもので…』
『駄目なの?』
『怖がらせたくないでしょう…
信じがたい話なのですが…先程土方君と
藤堂君と三人で話をし、二人が
奉行所へ行く準備をして
出て行った時なのですが…』
『あ〜、さっき謂ってましたね
土方さんと奉行所へ行くとか』
『はい…部屋へ戻る途中…”彼女”を
見たのですよ…』
『え…』
『井戸の前に立って私を睨む
”日高りん”が』
『山南さんも…ですか…』
『おや?私の他に誰か?』
『…ボーッとしてる智香ちゃんを
平助と二人で見つけて、少し話たんですよ。
けど僕は隊士達を集めて会議するんで
その場から広間へ
行こうとしたら…智香ちゃんが
日高りんを見たって』
『その時の日高りんは
どの様か謂って居ませんでしたか?』
『確か…睨んでたって…』
『失礼します。お茶をお持ちしました』
『どうぞ』
あたしは中へ入ると
二人へお茶を出した。
席を外そうとすると何故か山南さんに
呼び止められる。
『貴女も…”彼女”を見たんですね?』
『…っ?!山南さん…』
『私もこの屯所内で見ました。
井戸の所で彼女が私を睨んでいました』
あたしは、持っていたお盆を
驚きのあまり落としてしまう。
盆が落ちた音が響く。
『僕は見てないけど…君と山南さんは
確実に”彼女”を見たんだ。疲れてるんじゃって…思ってたけど…』
沖田さんは座って居るため
あたしを見上げ、そう謂った。
一瞬変な空気が漂う。
『近藤さんの耳に入れておきますか?』
『それくらいは私にさせて下さい』
『判りました』
『…呪い…じゃないですよね…?』
『う〜ん?怨念て奴じゃない?』
『沖田君、怖がらせてどうするのですか…』
『ん?あ…ごめん智香ちゃん…』
『昼間なので…構いません…
けど!沖田さんのお陰で
夜眠れないかも知れないじゃないですかっ!』
『そんな大声出してどうしたんだ?』
『わっ!!…なっなっなっ…』
『な?』
『永倉さんっ!
驚かさないで下さいよっ!
心臓に悪いですっ!』
『ああ?』
『ぷっ!』
『クスクス…』
『なっ!』
『な?』
『一々突っ込まないで下さいっ!』
『あははははっ!』
『智香…さ……』
『何だ?何?』
判らない永倉さんは
ただ首を傾げるだけだった。
けど…あの日高りんの姿は…。




