二十二章 名
新選組をいつも詠んでくださり
ありがとう御座います。
ポポンと浮かんできていたので
家事の合間に作りました。
『ぐはぁっ!』
ドサ…
『ひっ!』
天井に潜んでいた忍びは
山崎さんの手裏剣と斉藤さんの剣でやられた。天井には大きな穴が開いている。
『息はある』
斉藤さんが原田さんと山崎さんへ謂う。
大広間は所々血が飛び散っていた。
あたしはそのまま気を失った。
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大広間に全員が集まった。
智香は仔犬を抱きしめたまま、気を失っている。
『一体…』
土方が原田へ訊く。
すると斉藤が説明を始めた。
『俺は此処へ来る途中原田の叫びを聞きつけた次第です。恐らく原田は忍びの気配に気付いたのでしょう』
『そうなのか?原田?』
またも土方は手を両方の袖へ手を入れながら
確認で原田へ問う。
『ああ。智香をからかっていたらこいつの気配を感じたんだ。後は斉藤が話してくれた通りだよ』
『そうか…近藤さん。調べている時間はなさそうだな?どうする?』
原田の話を訊き終えた土方は近藤へ目をやる。
また近藤も此方に振られることを予測していたらしく土方を見ていた。
『うむ…』
『では、私が常に屯所に居ましょう』
『山南さん…』
土方は両手を解放させるながら山南を見る。
常にと言う言葉に反応した様だ。
『あ、申し訳無い。常には無理がありますね…』
『なら…トシ、悪いが山南君が留守の時は屯所に居てくれるか?』
『構わないが…』
近藤は土方へ提案をするとそれを彼等は承知した。
話はついた。すると山南が土方と近藤を除く五人へ言葉を発した。
『一人というのも如何かと…。斉藤君、沖田君、原田君、藤堂君、永倉君。隊務が無いときで構いません…』
彼が話し終える前に話の内容を理解したのか沖田が、口元を緩ませながら倒れる智香を
見ながら返事をした。
『いいですよ?僕も力になります』
『ありがとうございます』
山南は沖田達を見渡しながら礼を謂った。
そして智香はそのまま朝を迎える。
…朝、あたしは目を覚ました。
布団だ。誰かがあたしを部屋まで
運んでくれたんだ。
『起きたみたいだね?』
『沖田さん…』
『君、気絶しちゃってたんだよ?』
『あ!夕餉の…』
『大丈夫。僕と一君で作ったから』
『…ごめんなさい…』
『あんな間近じゃ気を失うのは仕様がないよ』
確かにあの時の血飛沫には驚いた。
あたしにも原田さんにも血が飛んだ…。
斉藤さんの声も聞こえてたけど、応えられなくてただ震えてた。
『そうだ夕餉と謂えば配膳してるときなんだけど、外で騒ぎがあってさ』
『騒ぎ?』
『うん。見ない顔の男が””此処は何処だっ!”て一人騒いでるものだから土方さんが様子を見に行ったんだ。そしたら土方さんとそいつ喧嘩になっちゃって…』
『土方さんと?ですか…』
『そう。君を山南さんに任せて、僕が見に行ったら土方さんと知らない男が殴り合ってるんだもん驚いちゃった』
驚いちゃったって沖田さん…
満点笑顔でさらりと謂いますよね…。
気のせいですか?怒りみたいなのも伝わりますけど…。
『何か合ったんですか?その人と…?』
『んー?何となく』
(沖田さんて子供だなぁ…何となくって…)
『総司、素直に謂え』
障子の奥から声が聞こえた。
声の主がゆっくりと障子を開けた。
智香は挨拶をし、昨日の出来事で気絶してしまった事を謝罪した。
土方は智香を見ながら謂う。
『あ、土方さん…おはようございます。昨日はすみませんでした』
『あ?別にいいさ』
沖田さんはどことなくふてくされている。
その理由は土方さんが教えてくれた。
そして土方さんの頬が少し腫れている事に気づいた。
『その男の話は…』
一度こほんと咳払いをしてから
続けてくれた。
『この屯所の前に倒れていたらしいんだ。目を覚ました奴は、さっきまで居た場所と全く違うと…訳が分からなくなり、この屯所前で騒いでしまった。そして…』
「時代は平成だろう?これ全部映画か何かのセットだろう?!」
『え…?』
『俺は文久だと謂っても信じてくれなくてなぁ…もう判ったろう?お前と同じってこった』
『まさか…』
『名は遠野 隆夫』
『…遠野…』
『遠野はお前を知っている。友達か?』
『…はい。今は関係ありません』
あたしは土方さんの目を見て
はっきり謂った。
過去は過去。あいつは良い奴だけど
あたしの友達を選んだ。友達はあたしを裏切った。
『君の事よく知ってたよ』
『過去の人です』
『敵意剥き出しだろう?』
沖田さんの次に土方さんが鼻で笑いながら謂う。
それを無視するかのように沖田さんが続ける。
『で、まだこの屯所で保護してるんだよね』
『そんな訳で総司は機嫌が悪いんだ。さ、そろそろ朝飯だ』
『あっ!』
『今日くらいゆっくり休め朝食は俺達でやったから大丈夫だ』
しまった!そう思ったけど土方さんが気を利かせてくれた。
慣れない血を見たあたしを心配してくれたんだ…。
だけどここで判りました!なんて謂うわけがない!
『あの!洗い物くらいはやらせて下さい』
『判った。洗濯は各自やるよう隊士らにも伝えといたからな』
土方さんはまた優しい表情でそう謂ってくれた。
『判りました』
『じゃ、先に行ってるぞ?…総司!』
『はい?』
『智香の着替え見ている気か?』
『あー…はいはい。出ます』
そう謂うと沖田さんは部屋の外で待つ事にしてくれた。着替えている途中、何度も話し掛けてきた。多分、無事を確認しているのだと解釈。
早めに着替えを終わらせ、広間へ向かった。大広間は綺麗に片付かれている。汚れた畳は全て外されていた。
障子を開けると何となく空気が重い…。
遠野が一緒に食事をしているからか…?
『はぁっ?!本当に智香か?!』
あたしが中へ入ると遠野が驚き、立ち上がった。
『そうだけど…』
『なぁ、此処本当に文久か?』
『そうですよ』
『うわ…マジか…』
少し話すと遠野は座り直す。
現実を受け止めショックを受けているのだろう。無理もない…あたしだって最初なにがなんだか判らなかったのだから…。
朝食が終わり、遠野がどうやってこの時代へ着たのか土方さんと近藤さんが質問する。
『どうやってって…確か智香を図書館へ送って…日を跨いで…こいつのアパートに行ったんだ』
あたし達はあの日の事を思い出した。
けど、あれから随分時が経っているんだけど…。
『呼び鈴鳴らしても出て来ないし…鍵は開いてたから中に入ったんだけど…変な光があったと思ったら誰も居なくなったし…』
『光?』
『うん。で、あの付近変質者が多発してるから一応鍵を閉めて智香を探して…ベッドに座って何かに触れたまでは覚えてる』
有り得ない話では無かった。
現に沖田さんが未来へ着た時だって
あたしの私物を持って居たから。
そして隆夫が謂っていた"光"はあたしと沖田さんが
この時代へ戻った瞬間だろう…。
思い出して解釈していると隆夫があたしに訊いていた…。
『戻れないのか?』
『判らない…あたしもあれ以来戻れてないから…』
『え?』
『何度か試したの。けど、戻れない…』
『嘘だろ?それじゃずっとこのままなのか?』
『それも判らない』
ざっと話を訊く皆。
改めてこの問題に直面していた。
時の悪戯なのか、それは誰も判らない。
あたしは食器を洗い場まで持って行き
全員が使った皿や湯のみを洗い始めた。
未来への事もそうだけど、今また何故か狙われている自分。”彼女の計画”が気になる。
『考えても仕方ないか』
『何を?』
『うわっ!はぁーびっくりしたぁ…平助君…居るなら謂って下さい!』
洗い物しているといつの間に来たのか平助君に驚く。
けど、あたしに話し掛けてくれていたみたい…。
それだけ…耳に入らないくらい…。
『ずーっと話かけてたぜ?けど聞こえてない様子だったからさ』
『あ〜…ごめんね…』
『いや、いいって。しっかしお前結構大変だよな?』
『…はは』
『まぁ、隆夫も保護する事になったから』
『え?』
『行くところ無いだろ?』
『そうですね…』
『水、汲むか?』
平助君がそう謂いながら井戸から水を汲んでくれた。
あたしは兎に角洗って濯ぐ。
二人で手分けして片付けていると斉藤さんがやってきた。
『此処に居たのか平助』
『あ…斉藤さん何か用?』
『ああ。山南さんから回って来た。後で読んでおけ』
『…判った。俺は誰に回せばいい?』
『総司へ頼む』
『はーい』
『その犬、智香と副長に懐いているな?』
斉藤さんはあたしの直ぐ側で尻尾を振る
仔犬へ視線をやりながらあたしへ言葉をくれた。
『みたいですね。まだ一日しか経ってないのに』
少し話すと斉藤さんは巡察の為場を後にした。平助君が食器洗いを手伝ってくれたので早く終わった。
『ありがとう御座います』
『いいって。いつもやって貰ってるしさ』
『へへ』
『さて、俺は此を総司に届けるけど一緒にくるか?』
『はい』
沖田さんを見つけると平助君は文を渡す。
中身はあの事だ。山南さん、何か他に情報を掴んだのかな?
『へー』
『本当機嫌悪いな?』
『そうでもないけど?』
『目がこえーんだって…』
『うん?』
殺気漂う笑顔の沖田さんに平助君は
ドン引きだ。沖田さんはあたしにも文の中身を見せてくれた。
”日高りん”とだけあった。
彼女の名だ。あの冷たい目を思い出す。
あたしはもう一枚ある事に気づいて
沖田さんへ教える。
二枚目には”気をつけて下さい”とあった。
二人には此だけで判ったらしい。
『さて、僕は原田さんに渡せばいいんだよね?』
『だな』
『ん?』
足元がくすぐったいと思ったら仔犬が
尻尾を振って見上げていた。
沖田さんが抱き上げると、これでもかって位、彼の頬を舐めだした。
沖田さんは上機嫌だ。平助君はそんな沖田さんを見てホッとしている。
『ところで、こいつ此処で飼うのか?』
『土方さんはそのつもりみたいですよ?』
そう沖田さんがいうとあたしは抱き上げられた仔犬を見る。
『それなら名前が必要だね?わっ!』
沖田さんがあたしの顔まで下げるものだから
仔犬が舐めてくる。
『そうだよな?智香みたいにちっさいからチビは?』
『むっ!平助君だってあたしと…そりゃ少し身長あるけどあまり変わらないじゃないですか!』
『俺は育ち盛りなのぉ〜』
『それじゃ!あたしもですっ!』
『僕からすると二人共小さいよ?』
『『うぐ…』』
あたしと平助君は確かに沖田さんを
見上げている…あたし達は苦笑いしか出来ないでいた。
最後までありがとう御座います。
キミをこの剣で…~新選組~もですが
他の作品も近々更新を予定しいます。
妹のお産も近くなっていますが
更新、頑張るのみですっ!




