二章 運命の始まり…。
時は幕末。文久二年六月下旬。
歴史の本を手にしただけで
何故かこの時代へ来てしまった。
あたしが此処へタイムスリップして
十日目。何故判るって?
”正”て文字を書いているから。
そしてあたしはまだ新選組の屋敷に居る。
『智香!そろそろこっちの物を着たらどうだ?』
『袴ですか…』
土方さんがあたしの両手に男性用の服を渡す。何でも女が居ると謂うことは
此処で働く隊士達には毒らしい。
今まで隠れて来れたのが奇跡なのだ。
『判りました』
『判ったなら早く着替えてこい!』
『はっ!はいっ!』
やっぱり土方さん…怖い…。あたしは急いで着替えに取り掛かる。
だけど、本当はとても優しい人何だよね。
昨日土方さんが詩を書いてる所見ちゃったし。本人は凄く恥ずかしそうだったけど。
『土方さん?』
『何だ?』
『どうして詩を作ってるの内緒何ですか?』
『……』
『土方さん…?』
『何だっていいだろう…』
着替えを済ませると
部屋から出た。中庭へ行くと斉藤一さんが
縁側に座っていた。折角なので挨拶!
『今日和。斉藤さん…』
『あ…あぁ。今日はあの服ではないんだな?』
『はい。土方さんに叱られちゃいまして』
『副長にか?それは災難だったな』
『そうでも…ないです』
『…?』
『あたし、皆さんには感謝しています。本当なら尋問とかするんですよね?』
『まぁな』
『なのに…』
『お前が未来から来た証拠があるからだ。アレは見たことがなかったからな』
『…あたしの…スマホ…』
『証明する物があって良かったな?』
『………はい!』
『あっれぇ?一君と智香ちゃん?二人で何話してるの?』
いつの間にか沖田さんが後ろに居た。
相変わらず悪戯な微笑みだ。
『悪趣味だぞ?総司?』
『え?』
『ずっと話を訊いていた』
『沖田さん…』
『別にいいじゃん?訊かれてマズい話でもないし』
『そうだけど…』
『一君、手合わせお願い』
『仕方ない。良いだろう…』
そう謂うと斉藤さんは刀へ手を伸ばした。
沖田さんは顔は笑っているけど
殺気が漂う。いつでも本気なんだ…。この新選組の隊士達は…。
あたしはそう思った。直後、刀と刀がぶつかり合う。
キィィィンッ!
『へ?』
(今、何が起きたの?!)
全く見えなかった。
それは一度や二度ではなかった。
二人は真剣にぶつかり合う。
沖田さんは楽しむかのように
斉藤さんは顔色ひとつ変えず相手に読まれないかの様に…。
『何だ。一君と総司はやってるのか?』
『あ…近藤さん…』
『団子でもどうだい?茶もあるぞ?』
『頂きます』
あたしと近藤さんはまるで
テレビを観ているかの様に
沖田さんと斉藤さんの手合わせを観た。
『二人共…凄いです…』
『あいつらも剣の達人だからな…。総司も凄いが一君の居合い斬りも見事だぞ?』
『いあいぎり…?』
『一瞬なんだよ』
(見てみたいけど…怖い…)
あたしは近藤さんの話を訊く。
沖田さんにはお姉さんが居る事、
そのお姉さんは近藤さんと土方さんが
恐れるくらいの方らしい。何がどんな風に恐いのかな?
『いたいた。近藤さん、智香、捜したぞ?』
あたしと近藤さんを探していたのだろうか?
土方さんがやってきた。
『どうした?トシ?』
『平助達、知らないか?』
『あ…あたし知ってます』
『本当か?』
『よしわら…とか謂って出掛けました』
この時総司と斉藤の手合わせが
途中止まる。
『ぶっ!あっははははは…ククク…』
『沖田さん?』
『はぁ…』
『斉藤さん?』
『ち、智香ちゃ…吉原はね…ぁはは…!』
『ったく!あいつら!』
あたし、何か可笑しな事謂ったかな?沖田さんは笑い出すし
斉藤さんは溜息つくし、土方さんは眉間に皺を寄せては左手で
半分顔を覆っている…。
『えっとぉ…』
『吉原は遊行だ』
疑問に思っていると斉藤さんが簡単に説明してくれた。
思い出したぞ!そうでした!
『…ああ〜』
『あっははははは…はは…お腹…いたぃ…』
『いつまで笑ってるんだ?総司?』
『だって…おか…し…くて…』
『さぁて!そろそろ巡察の刻だ』
土方さんは笑う沖田さんを無視するかのように
巡察の時間を確認する。
やっぱり沖田さんは笑いながら続ける。
『はは…き、今日は一君の所だよね?暑いから気をつけてね?』
『慣れている。心配ない』
『気をつけて下さい』
『…有り難う…』
斉藤さんは少しばかり恥ずかしそうだった。
慣れて居ないのだろう。
『あたし、庭掃きします』
『え?』
『今までは未来の服装で部屋に籠もりっきりでしたし…保護してくれてる恩返しです』
『へぇ〜?けど、庭掃きでも気をつけないと…』
この時近藤さんが土方さんへ提案する。
それは…。
『トシ、どうだろうか?智香ちゃんを総司の小姓にしてみては?』
『近藤さん…あんた良いこと謂うな…』
『こしょう?』
『えー?!なんで僕なんですかぁ〜?』
『剣の腕も良いし、それに…』
土方さんはあたしを見る。
『拾って来たのは総司だろ?』
ちょっと土方さんッ!
あたしは犬か猫の部類ですかッ!
『はぁ…判りましたよ…』
『近藤さん?』
『なんだい?あの団子気に入ったかい?』
近藤さんはにこにこしながら
溜息をしているあたしにヘンテコな質問をしてきた。
新撰組で一番偉い人なので”はい”と
応えた。
四人が散り散りになると
あたしは箒を片手に庭を掃く。
広い…。
『ふぁ〜…はぁ…』
『沖田さん…疲れてません?』
『んー?』
『っ!!』
(始まった!沖田さんの意地悪!!)
瞬間塀の上に誰かが着地した。
沖田さんは直ぐに気づき、あたしを背中で庇う姿勢をとった。既に沖田さんの手には剣が握られていた。
やはり…素速い…。
『あんた…誰…?』
『ふん。教えるまでもない。後ろの奴を
此方へ渡して貰おうか?あの日倒れていた女だろう?』
『嫌だ。って謂ったら?』
『お前を斬るまでっ!』
沖田さんが否定の言葉を謂うと
黒い装束の男が剣を取り出した。
『やはりこうなるか…』
『なっちゃうよ?ふふ…智香ちゃんは
絶対渡さない!』
怖さと恥ずかしさが入り混じった…。
だって、こんな言葉謂われた事なんてない!
どうしよう…目の前で沖田さんが戦ってるのに…。土方さんを呼ぼうか…。
剣と剣がまたぶつかる。
斉藤さんとやり合った音とは違う。
沖田さんが二度三度相手の攻撃を交わす。
髪の毛が一部ハラリと舞った。
その瞬間、口元が笑っていた沖田さんだったけど…相手の実力を見切ったかのように
沖田さんの刀が脇腹を突いた。
ヒュンッ!
『ひゃっ!』
顔を手で覆ったあたしだけど
脇腹からは一滴も血は流れていなかった。
相手は膝をつきながら倒れ込む。
『つまらないなぁ〜あんたの攻撃』
『………』
沖田さんは刀をしまう。
『智香ちゃん、大丈夫だった?』
『は…はい…』
『ね?庭掃きでも危ないでしょう?』
『…はい』
あたしの悲鳴を聞きつけた土方さんが
走ってやってきた。
事情は沖田さんの足元に倒れている男を
見ればわかるだろう。
『ま、こいつが智香ちゃんを狙ってるのは確かだね』
『見張りを頼んで正解だったな…』
『僕の小姓って謂ってましたよね?土方さん?』
『……とりあえず俺はこいつに訊きたい事が沢山ある。連れて行く』
『逃げたー…』
土方さんは男の腕を自分の肩にかけると
中へ入っていった。
『沖田さん…ごめんなさい…』
『何で?…なっ!』
『ぅっ…ひっく…ごめんなさい…』
『どうしたの智香ちゃん…』
あたしは思わず沖田さんの前で泣いてしまった。何故だか自分が狙われていて…皆に迷惑をかけてしまう。
新選組から出た方が…。
『ぐすん…ごめんなさい…』
この日から
あたしの地獄が始まった事に
気付かなかった…。
ご覧頂きまして有り難う御座います。
此方の作品も頑張ります。
φ(.. ) <m(__)m>ペコリ…




