十七章 新選組もう一人の局長
今回はもう一人の局長が
いたころのお話しです。
夏空だったのに
もう秋めいている。
この時代は蜻蛉が沢山飛んでいる。
あたしはふと思う。この新選組初代局長。
確か芹澤鴨だったような…。
ドラマとかで観ていても悪役ばかりだったな…。そして、この新選組局長は二人だったこと。勿論、今居る近藤さん、そしてその芹澤さんだ。
確か出身地は茨城の行方市。
今現在は家巨達が守っているとか…。
あ、因みに未来で。
そして、彼の城やお墓も。
詳しくは知らないけど本宅の方は幕末に焼かれてしまっているらしい。
それと新選組に加わった平間重さんて人のお墓も…一緒になるんだった。
『ちーかちゃん?』
『あ、沖田さん…』
『どうしたの?ぼんやりしながら蜻蛉なんて見てさ?』
『いえ、詳しくは知らないんですけど新選組初代局長さんの事を…』
『……そうなんだ。何処まで知ってるの?』
『断片的ですけど亡くなるまでは知りません』
『そっか…芹澤局長はこの新選組に居たのは確かだよ。だけど彼を良く思う人は余り居なかったんだ』
『………』
沖田さんもあたしにつられる様に青い空を
泳ぐ蜻蛉を見る。何だか悲しい表情。
『あの人の本宅は焼けたけど、実は隠居所だったんだよね。地元では殿様って』
『………』
『彼は河童を成敗して、その際切り落とした手首を河童さんが返してくれって頼んだとか…。川で魚が捕れないからとか。
まるでお伽話だよね。…けど彼は河童さんに手首を返したらそいつは薬を使って
斬られた手首を治したんだ。
その河童さんは返して貰った御礼に、薬の作り方を伝授して、毎日彼の敷地内にある梅の木に魚をぶら下げていた…とか』
『本当何ですか?』
『さぁ。噂が広まって足されたんじゃないかな?あ、それでその河童さんが亡くなると河童の祠を作ったとかなんとか』
『お優しそうに思えるんですけど…』
『…そうだね…けど裏方彼は公家の姉小路公知の…なんだっけ?まぁ、寝取っちゃったり…女性問題もあったんだ…
新選組の軍資金を工面するのに豪商を
脅して無理矢理出させちゃったり…
度々問題をおこしちゃって…その度
会津藩に苦情がきちゃって……そして
とうとう銭を出さなくなった豪商に大砲をぶちこんでさぁ…』
『そんな…その大砲って…』
『うん。会津藩から京の治安維持のために我ら新選組に貸してくれてた物だよ』
『……』
あたしが黙ってしまっても
沖田さんは話を進めた。
『それでね…たまりかねた容保が先の新選組の確報をつかって…もう一人の局長…はぁ…近藤さんに芹澤局長の暗殺を命じたんだ…』
『…っ!!』
『勿論、僕も…』
全てを話し終えた沖田さんは
あたしを見て辛い笑みを浮かべた。
こんな辛い思いをしていたなんて…もっと勉強しておくんだった…。
『…ごめんなさい…』
『うんん。別に隠す話でもないしさぁ。謝らないでよ?』
『だって…』
『あの人はあの人の考えがあったけど…行き過ぎちゃっただけなんだよ』
『沖田さん…』
『…泣かないで…』
彼はあたしの涙を親指で拭ってくれた。
優しい沖田さん。辛い出来事をあたしの
一言で思い出させてしまったのに…。
”泣かないで”なんて…。
優しい表情で…優しい手で…。向き合ったまま…。
『僕さ…君の事…本気だから』
『え…?』
向き合いながら沖田さんは唐突に謂う。
『離れ離れになっちゃうなんて…なければいいのになぁ』
『急過ぎますよ…沖田さん…』
『なんだ総司…泣かせたのか…?』
そして土方さんもご登場。
慌てて涙を誤魔化す。って…バレバレだけど…。
『沖田さんは何もしていません。あたしが…その…』
『なーかーないのー。よしよし』
『いつまでやってるんだよ。判ったからもうやらんでいい』
『はーい』
『ん?…しかし今年も蜻蛉が多いなぁ…』
『蛙よりは良いですね。泣かない分』
『そうだな…』
新選組の辛い過去。
近藤さんも土方さんも沖田さんも…
本当に辛い経験をしてきていた…。
宿命なの?あんな辛い過去があって
いつから笑えるようになったんですか?
恐らく、それまでは笑う事すら出来なかったのだと…思います。
あたしは…まだまだ子供で…駄目かも知れないけど、新選組の役に立ちたいです。
もっともっと。
目の前で談笑する沖田さんと土方さん…。
あたし、此からもサポートしたいです。
翌日、あたしはハチマキをし雑巾掛けに励む。
斉藤さんはやっぱり朝が早い。
隊の中で必ず一番に起床する。
『おはようございます。斉藤さん』
『おはよう…どうしたんだ?急に…?』
『皆様のお役に立ちたくて』
『そうか…が、身体に気をつけてやるようにな。此処は未来と違って勝手が悪い』
『勿論です!大丈夫です!』
『……』
斉藤さんは手拭いを探していたので
籠に入った綺麗な手拭いを一枚渡す。
『ありがとう』
『いえ』
そういうと斉藤さんは顔を洗いに行く。
秋だけどまだまだ暑い。
廊下はべたつきやすいのでマメにやろう。
『あ…そろそろ食器を出さないと』
一通り終わっていたので
あたしは台所へ向かう。すると先程の斉藤さんが食器を出していてくれていた。
『あ!ありがとう御座います…』
『…?此もひとりでやろうと?だとしたらそれは間違えだ。なんでも自分一人てやろうなんぞ思わなくていい』
『…斉藤さん…はい!判りました!』
『働きすぎぬ様気をつけろ』
『心がけます。なんかいつも斉藤さんには助けて貰いっぱなしてすね』
『誰かを必要とするのはいいことだ。気にすることなど無い』
『はい』
『先に隊士等の飯だが…』
『それならいつもの大広間です』
『判った。…智香…』
『はい…?』
『いつも感謝している』
『何だか照れますね』
褒められたり、御礼を謂われるのって
くすぐったい。
だけどそう謂ってもらえると、今日も頑張るぞっ!て思える。さっきの斉藤さんもとても柔らかい表情だったし…皆の笑顔が大好き。
だから頑張れる。
芹澤鴨さん。
沖田さんから話は訊いたけど、思い立ったら…な人だったのかな?
河童さん…居るならあってみたい。
だけど本当なのかな?




