十章 未来
あの日の晩もだけど
謎の剣士は度々屯所を訪れた。
その度沖田さんは剣に手をのばしていた…。
そして沖田さんの毒が抜けた七夕の日。
『晴れてくれましたね?』
『未来は晴れないの?』
『朝から曇りとか雨とか…』
『ふぅん。ね、毒も抜けた事だし…祇園祭行かない?』
『祇園祭?ですか?』
『そう。未来にもあるの?』
『あります』
『それじゃ、行こうよ?明明後日から始まるって一君が謂ってたよ?』
『行きたいです!』
中庭の掃除をしながら沖田さんと出掛ける約束をした。
丁度原田さんが何を話しているのかと
広間からやってきた。
あたしは原田さんへ説明する。
『祭りかぁ〜何も無ければ行きたいな?』
『あーっ!僕…巡回かも…』
『心配するな。俺と平助で責任もって連れてくよ』
『へーそんなこと謂っちゃうんだぁ』
『ふふふ…ぁ…』
『ん?どうしたの?』
『具合でも悪いか?』
沖田さんと原田さんがあたしの隣へ来てくれる。大丈夫。そう謂いたいけど物凄い頭痛がしてその場にしゃがみ込んでしまう。
何?
兎に角痛い!
『智香ちゃんっ!』
『おいっ!智香っ!』
『沖田さん…はら…だ…さん…』
気づくとあたしは沖田さんに介抱されていた。
だけど視界はどんどん悪くなり
沖田さんと原田さんが見えなくなった…。
何か謂っている…だけど聞こえない…。
真っ暗で…音も何もない…。
怖い…。
怖い…。
目が覚める。
見覚えのある天井。
窓やカーテン。
自分の部屋だと気づく。
『嘘っ!何で?!』
理解出来ない。
今の今まで新選組の屯所に居たのに。
何故…急に帰ってきたの?
沖田さんと原田さん…。
屯所が…新選組の皆…。
絶対大騒ぎしてる事だろう…。
『…図書館…』
あたしは支度を終わらせると図書館へ
向かった。
もしかしたら…また行けるかもしれない!
戻れるかもしれないから…。
最初は戻ろうか…そう考えてたけど
今は違う。
戻りたい。
会いたい。
その時…。
元彼にバッタリ会ってしまう。
彼は 遠野 隆夫。
『あれ?何急いでるの?』
『図書館…ねぇ、今日って何日?』
『はぁ?お前昨日俺と喧嘩したばかりじゃん?』
『…昨日…』
未来は時が止まってたんだ…。
『頭でも打ったか?』
『ごめん…行かなくちゃ…』
『行くって図書館か?俺、その先に行くから乗ってけよ?』
『でも…』
『ついでだよ』
隆夫に御礼を謂うとメットを借り
バイクへ跨がる。
図書館へ着くと隆夫は”じゃぁな”と一言だけ謂うと、またバイクを走らせた。
『沖田さん…』
中へ入りあの歴史の本のある棚を目指す。
鼓動が激しくなる。
周りの人に届くんじゃないかって位。
本を詠んでる人は数十人て所かしら?
『あった…』
手に取る。
…何も起こらない…。
『そんな…』
向こうの世界へ行けない…。
何も出来ないの?
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ー新選組 屯所内ー
『智香…ちゃん…』
『消えた…どういう事だ…?』
『…未来へ…戻った?』
『近藤さん達に知らせよう』
『うん』
二人は近藤と土方が居る大広間へ向かう。
さっきまでいつも通り掃除をしていた
智香が沖田の腕の中で消えた事。
近藤と土方は目を丸くして話しを訊いた。
『…そんな事が…?』
『…けど、あいつは元々こっちに居る奴じゃ無かったんだ。それに未来へ戻れるか気にしていたじゃないか』
『…そうだけど…土方さんはそれでいいんですかっ?!』
『そうだぜっ!土方さんっ!心配じゃないのかよ?!』
『そんな訳ないだろうっ!!』
原田は声を荒げた土方に体全体で驚いた。
そうだ。心配していない訳がない。
土方も智香を心配している。
『ふぅ…勿論心配だよ。だけどあいつの世界は…住む場所は俺達と違うんだ…』
『そうだな…智香君だって…』
近藤はそれ以上言葉が続かなかった。
沖田は肩を落とし大広間を出る。
残されたのは智香の持っていたバックだけ。中身は消えている。
『こんな事…あんまりじゃないかなぁ…』
寂しい笑み…。
居なくなって初めて気づく。
どの時代も同じだ。
初めて智香と会ったあの場所。
初めての会話。怖がる智香。
『僕を未来へ連れて行ってくれないかな?』
沖田を心配した土方が智香が使っていた
部屋までやってきた。
沖田は此処にいるとふんだからだ。
『総司…何やって…』
『うっ!がぁぁぁっ!』
『総司っ?!どうしたんだっ!!おいっ!くっそ…誰かっ!誰か来てくれっ!』
土方の問いに応える様複数の足音が
近づいてくる。
『トシっ!どうした!…トシ…?』
『近藤さん…』
土方の顔が青ざめている。
近藤と一緒に駆けつけた原田が
まさかと思い土方に訊いた。
『総司が苦しみだして…消えたんですか?』
『……』
『どうなんだトシ!』
『ああ。そうだよ…』
土方が座る足元に智香のバックが
落とされていた。




