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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第2章 学園戦記
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今日の給食はカレーだ!

「如月食糧相! 『三日連続カレーはさすがにきつい』と、民草から苦情が寄せられてます!」

「確かにカレーと非常食のローテじゃ、いい加減飽きるよな……鳳君、どうしたもんだろ?」

「うちの『てば九郎』は、なんぼでも焼き鳥を焼けます。ご飯に乗せて焼き鳥丼というのはどうでしょう?」

「うーん、カレーとか焼き鳥丼とか、メニューがお子様寄りになってきたな。栄養価もアレだし、茉莉歌ちゃんは、どんなメニューがいい?」

「塩鮭、納豆、ほうれんそうのお浸し、わかめの味噌汁」

「はい、よくできました。誰か、そーゆーのの調達を願った人はいないのかな?」

「地味飯は敬遠されてるみたいです、みんなラーメンとかピザとか食べたがってますよ」

「勝手だなーみんな、てゆうか何で俺がこんなことを……栄養士のタニタさんは何処に行ったんだよ?」

「外に恐竜狩りに出てます。今夜はティラノサウルスのステーキだって、張りきってましたよ」

「ワイルドなのはいいけど昼飯の事も考えてくれよ……(きんこんかんこーん)いかん!もう昼か、茉莉歌ちゃん、カレー鍋を取ってきてくれ!」

「……またカレーですか」


 #


 カレーの湧く鍋を取りに給食室へ向かう茉莉歌。

「こんなことしてていいのかなー。」

 そんな疑念が頭をよぎる。


 だが、他に行く場所はない。

 両親の安否を確かめたいが、それは危険すぎる行為だった。

 新宿、渋谷、秋葉原の三地域は、今や日本で最も荒廃した場所となっていた。

 自衛隊が何度追い払っても、すぐにまた、新しい怪獣やロボットが暴れだす。夜には妖怪や吸血鬼が跋扈しているという噂もあった。

 それだけ、激しい感情を喚起する土地だったのだ。


 渡り廊下を歩いて行く茉莉歌。

「ちょっと、いいかな」

 背中から呼び止めれて、振り返った茉莉歌の前には、一人の少女が立っていた。

 浅黄色のワンピースになびいた長い黒髪に、紅い髪留めが印象的な、端正な顔をした少女だ。

 高校生くらいだろうか。大きな瞳は茉莉歌をまっすぐ見つめているが、何を思うのか、その目から感情は伺い知れなかった。

「保健室を探しているんだけど、迷ってしまって……場所、わかるかな?」

 少女が茉莉歌に言った。


 保健室?


「保健室ならあっち行って、こっちですけど、あの……?」

 彼女の言葉に妙な違和感を感じて、茉莉歌は聞き返した。


「お医者さんの診療なら、今は体育館でされてますよ、保健室には誰もいないと思うけど、いいんですか?」

「いいの、ありがとう」

 少女は踵を返して廊下の角に消えた。


「なんだったんだろ?学園のパイセンかな? でも……」

 茉莉歌は首をかしげた。

 あの顔、はじめてなのにどっかで会ったような……誰だっけ?


 #


 体育館裏では、コータがゲームボーイアドバンスで遊んでいた。

 傍らには雹が座っている。

「おじちゃん、もう昼ごはんだよ!食器とかカレー運びとか手伝わないと……」

「給食当番なんて子供の仕事だろ。俺は大人だからいーの」

 雹はカチンときた。

「でも他の人はみんな手伝ってるよ、働かざるものくう……働く……、てか、おじちゃん仕事なにしてるの?」


「映画」

 コータがめんどくさそうに答えた。

「映画……? 映画監督? カメラマン? まさか俳優!?」

 目を輝かす雹。

「ちがう、映画の勉強。」

「お弟子さん?」

「ちがうちがう、映画撮るために映画見て勉強してんの。」

「勉強って……見てるだけなんでしょ、普段の仕事は?」


「だから映画」

「あ、あえ……?」

 雹は、触れてはならない何かに触れてしまったような気がした。


「でも見てるだけじゃさー」

「見てるだけじゃないぜ、今さ、ガンプラでストップモーションアニメの大作を撮ってるんだ」

 コータが得意そうに言う。


「完成したらYouTubeにアップすんのさ、そしたらハリウッドデビューも夢じゃないぜ! 作り中だけど見る?」

 コータは携帯を開いて動画を雹に見せた。

 動画が始まった。畳の上で、ガンダムエイジⅡ(1/144)がカクカクと剣を振り上げた。

 動画が終わった。3秒くらいだ。しかも最後のコマでは、頭のツノが取れていた。


「……おじちゃん、これじゃダメだと思うよ」

「うっさいな! お子ちゃまは黙ってろよ、これはオープニングなの!」


「こら小僧!そんなとこで何を油売っとるか!飯の支度を手伝わんかぁ!」

 雹を見つけた物部老人が、ダミ声で彼に怒鳴った。

 親とはぐれた子供たちを、何かと気に掛けるこの老人。人の子供でも容赦なく叱り飛ばすのだ。


「おわ!わかったよ物部さん!……あのお爺ちゃん怖いんだよね」

 そう小声で言うと、首をすくめながら物部老人のもとへ駆けて行く雹。


「あーあ、つまんねーなー。」

 残されたコータは石畳に寝っ転がった。

 理事長が募った有志は、毎日のように怪物退治に繰り出しているのに、コータは参加させてもらえないのだ。


「絶対に願い事はするなよ!でないと絶交!」

 リュウジにそう言われたからだ。


 だがリュウジとの約束を破るわけにはいかない。

 もう何年も、コータと遊んでくれるのは、リュウジだけだったからだ。


「あーあ、空とか飛べて、ビームとか撃ててーなあ。」

『特撮リボルテック』の『メタルマン』を弄りながら、コータは独りごちた。


「おじさん、『それ』が欲しいの? 私があげようか?」


 頭上から声が聞こえた。コータは起き上がって、声の主を振り向いた。


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