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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第1章 あぽかりぷすなう。
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リュウジぐだぐだ、理事長覚悟を決す

 リュウジの後ろに立っていたのは、黒いTシャツを着た体重100キロの巨漢。


 中学時代の同級生、時城耕太(ときしろコータ)だった。

 胸には血のついたスマイルバッジを付けている。

 リュウジの友達の中でも、一番頭が沸いてる男なのだ。


「こ、コータ。お前も無事だったか……よかったよ!」

「そんなことよかさ、新宿のあれ見た? ゴシ"ラだぜ。都庁壊してたぜ。ちょ~~いけてんだけど! 『機龍』とか『護国聖獣』とかさ、早く出てこねーかな!!」


 ぴきぴきぴきっ


 リュウジは空気が凍る音を聞いた。

 理事長と茉莉歌が、殺気を放ってこちらを睨んでいる。


「ちょおま……やめろっ!しゃべるなっ!(小声)一応聞いとくが、『あれ』が起きてから、変な願い事とかしてないよな?」


「(大声)もちろんさ!一人1回だろ?よーく考えて決めないとな! ……ゾンビとか出てきたら、超かっけーんだけどな! そしたら俺、メタルマンのスーツ着て、やつらを皆殺しにしてやっぜ! あーもう死んでっかゾンビだから! あはははー!」


 ……いかん! 殺されるっ!

 理事長と茉莉歌が、まるでゴキブリを見るような目でこちらを見ていた。


「……くまがや」

 理事長がボソッとつぶやいた。


「ちょままままて、待って下さい!!」

 リュウジはコータの襟首をつかんで、体育館裏につれ込んだ。


 #


「いいか!漫画だけじゃなく、少しは空気も読め! 周りの奴のことを見ろ!」

 体育館裏でコータを絞り上げるリュウジ。


「姪っ子と俺はな、家族が新宿で行方不明なんだ。あんなこと言われてどんな気分になるか考えろよ!」


「わ、悪かったよ、そこまで考えてなくて……でもさ、スーパーヒーローはいい考えじゃね? みんなの助けになるし」

 リュウジは惨死した蝙蝠男の事を思い出した。


「だ め だ! いいか、周りが落ち着くまで、願い事のことは絶対考えるなよ! 口にもするな! ……でないと絶交だ」

「そんな~……わかったよ、ね、これやるからもう怒らないでくれ、まだ読んでないだろ?」

 コータはリュックの中から、『電撃ホビー』の今月号を取り出してリュウジに手渡した。

 リュウジは少しすまない気持ちになった。趣味も同じだし、悪い奴ではないのだ。


 #


 日が沈んだ。『あれ』が起きてから、東京は最初の夜を迎えようとしていた。

 聖痕十文字学園に避難してきた人達も、体育館や校舎の教室に身を寄せていた。

 理事長は校舎の屋上から市街を見下ろしていた。後ろにはリュウジが立っている。


「友人にはしっかり言い聞かせましたから、もうアホな事は言わないと思います」

「感心できない男だが、君が言うならいいだろう、ちゃんと面倒見ろよ」

 理事長の言葉の端からは、まだ怒気が感じられた。


 リュウジは街の灯を見た。


「こんなことになっても、電気やガスは無事なんですね……」

「そうだ、誰かがインフラの維持管理を願っているのだ。普段からな……『善き願い』も確かに実現している、目立たないだけだ」

 理事長が毅然と答えた。

「でも、焔浄院さんがあんなことを考えていたなんて……」

 リュウジは先刻の理事長の演説を思い返していた。


 俺たちが世界を『直す』……!

 リュウジは英雄的な高揚感にクラクラした。


「如月君、察しているかもしれないが、私はこれから、災禍の鎮圧に役立つ人物を探し出す、もしくは『造り出す』つもりだ」

 理事長は街の灯を見ながら言った。


「君にそれを強いるつもりはない、水無月君の世話もあるし、ご家族のことも心配だろうからね、だが誓ってくれ……自分の願いを、絶対に場当たりな浅慮から使わないことを!」


「……わかりました焔浄院さん」

 リュウジは理事長に一礼した。


 リュウジが去った後も、理事長は屋上に立ち、各所に上がる黒煙を見つめ続けていた。

 理事長の頬を、滂沱の涙が伝っていた。

「……すまなかった、那美(なみ)……」

 理事長は亡き妻のことを思った。


 病を得て、余命いくらもない妻の那美は、あの朝、新宿は十文字大学病院にいたのだ。

 『あれ』が起きた時、すぐにでも那美のもとへ飛んで行くべきだった。


 だが眼前に迫る危機に、理事長は己の保身を願ってしまったのだ。

 程なく理事長は知った。病院がゴシ"ラとバスターアルティメスの格闘に巻き込まれ、倒壊したことを。

 理事長は、天涯孤独となった。


「せめて最後は静かに送ってやりたかった……それなのに……」


 よりにもよってゴシ"ラだと!!!


 理事長のやり場のない怒りが、『ゴシ"ラとか好きそうなボンクラども』に向けられたのも無理はなかった。(『バスター』とかは、よく知らないからだ)


 理事長は夜空を仰いだ。『あれ』が起きてから、空には常にオレンジ色のぼんやりとした光点がいくつも見えるようになっていた。


 月でも太陽でもない。これも人間が願ったものなのだろうか?


「見ていろよ!」

 理事長は唸った。光点は理事長を嘲笑う目のようにも思えてきた。


「神だか何だか知らないが、こんなことを仕組んだ奴は『ろくでなし』だ。『ライダーとか』見てる連中と同類、考えなしの頓珍漢だ! 人間がこんなことにほだされない、理性の光で闇を照らす存在なのだと知らしめてやる!」


 ……だが、理事長の闘志も、数日を経て潰える事となった。


 さらなる苛烈な運命が彼を襲ったのだ。


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