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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第1章 あぽかりぷすなう。
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理事長の演説

 聖痕十文字学園に到着した一同。

 校庭には、リュウジ達のように避難してきた生徒やその家族が、着の身着のままで、何百人も集まっていた。

 皆一様に、不安と混乱で疲れ切った顔をしている。


 街を恐竜達が闊歩し、パルスライフルで武装した100体の白銀の骸骨軍団がそれらと戦っていた。

 各所で火の手が上がっていた。消防隊や警察も手が回らないのだ。


「お母さん来てないね…」

「そのうち迎えに来てくれるから。それまで待ってよ。」

 茉莉歌は雹の手をひいた。


「お集まりの皆さん。」

 朝礼台に立った理事長が、マイクを取って言った。

「皆さんの不安はよくわかります、ですがここにいれば安全です、落ち着いて行動してください。災害時の備えは十分にあります、事態が収束して救助が来るのをわが校で待つのです。」


「でも『やつら』がここまでやって来たらどうするんです?警察も手一杯みたいだし。自衛隊はゴシ"ラと戦ってますよ!」

 前列に立つ、生協の黒石さんが不安そうに質問した。


「安心なさい黒石さん、不肖炎浄院大牙、我が身かわいさに恥ずかしい願いごとをしてしまいましてな」

 理事長が自嘲的に言う。

「もしわが校に不逞の輩がやってきたならば……くまがや!(ピカッ)」

 マイクの音を聞きつけて、空から理事長に襲いかかってきた翼竜『プテラノドン』が、一瞬で消え去った。


「これこの通り!私が片端から、人外魔境の地底獣国に島流しにしてやりましょう。そんなことより……」

 理事長は続けた。


「皆さんの中で、既に『願い』を果たされてしまった方がいたら教えていただきたい。」

 ポツポツと手が上がり始めた。数十人といったところか。

 それが本当ならば……リョウジは思った。

 残りの人は、まだ何もしていないということだ。


「……分かりました、皆さん、私からたってのお願いがあります。

まだ願いを果たされていない方は、本当に必要な時が来るまで、絶対にそれを使わないでいただきたい。そして、願いを果たされた方は、差し支えなければその内容を教えていただきたい。」

 理事長はみんなの顔を見渡して、切々とした顔で言った。


「みなさん、例の『声』が聞こえてから一日がたちました。一部の不埒な輩の不用意な願いが、世の中を混乱に陥れています」

 周囲の人々の表情は依然として暗かったが、理事長は力強い声で続けた。


「ですが絶望することはありません、我々が、各々の願い事を理性的に行使して、災禍の根を摘み取っていけばいいのです。狂ってしまった世界に、我々がパッチを当てて行くのです!」


 理事長にそんな思惑があったとは……リュウジは驚いた。


「教えてください。いったいどんな願い事をしたのか……。」

 壇上から下りた理事長が、手を挙げた人たちに次々と質問していく。


「肩こりが治りました。」

「それは何よりですな、きみは?」


「円周率をどこまでも言えます。」

「パスワードとかに使えそうだね、きみは?」


「東大に合格しました。」

「いま夏なのに時空をゆがめるなよ、きみは?」


「一万円札(UN066957Y)を好きなだけ出すことができます。」

「ちり紙に困らなくなるな、きみは?」


「1日20時間眠れるようになりました」

「気持はわかるよ、きみは?」


「真剣白刃取りを会得してござる。」

「何と戦う気だよ、きみは?」


「ラーメンを無限に食べ続けることができます」

「業の深い男よの、きみは?」


 リュウジにも理事長の意図は見てとれた。

 理事長自身と同じく、災禍からの護身や救援に役立ちそうな人物を探しているのだ。

 だがなかなか簡単には見つからないようだ。


 ……みんな意外と他愛ない事考えてるんだな。

 リュウジは拍子抜けしたが、同時にホッとした。たいていはこんな感じなのだ。


 と、その時。


「リュウジ? リュウジじゃないか! 無事だったのか!」

 聞き覚えのある声に思わず振り返ったリュウジ。そしてすぐに振り返ったことを後悔した。


 この場所で、最も出会いたくない男が立っていたのだ。


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