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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第1章 あぽかりぷすなう。
3/38

思わぬ助け、そして車中問答

「いかん!逃げろ!」

 絶体絶命のリュウジと茉莉歌(まりか)

 だが次の瞬間、奇妙な事が起きた。


 しゅん。


 T-REXの姿が緑色の光に包まれると、一瞬にして消え失せたのだ。


 消えたT-REXの背後、リュウジ達の正面には、高価そうなスーツに身をつつんだ眼光鋭い初老の紳士が立っていた。

 茉莉歌が通う、聖痕十文字学園中等部の理事長、炎浄院大牙(えんじょういんだいが)だった。


「理事長先生!」

「水無月君、怪我はないかね?そちらは保護者の方かな?」

「茉莉歌の叔父の如月といいます。炎浄院さんですね。今のは一体...?」

 炎浄院理事長はうなずくと、二人に事の顛末を話しはじめた。

「うむ、例の『声』が聞こえたあとにすぐ、レザースーツを着たバッタの怪人に襲われてね、思わずこう願ってしまったんだ。『飛んでいきな』……と」

 怪人は光に包まれて理事長の前から消え去った。そして理事長は知ったのだ。自分が、目の前の相手を望んだ座標に『転移』させる能力を得たことを。


「するとさっきの恐竜も同じように…………」

「日本の地理は完全に把握しているからね。今頃奴は我が国最後の魔境、埼玉県熊谷市に飛ばされているはずだ……奴にふさわしい」

 理事長は得意げに答えた。


「望んだ座標に『転移』……」

 リュウジは、目の前の霧が晴れて行くような感覚だった。

 彼の中で、姉と義兄の安否を確認する算段が次々に組み上がっていった。


「その『転移』は……人間でも可能なんでしょうか?例えば俺でも?」


「できない事はないが、いくつか問題があるんだ」

 リュウジの期待を察したのかどうか、理事長は頭を掻いて答えた。


「まず他者を『飛ばす』ことはできても、私自身が『飛ぶ』ことはできない。転送先で危険に巻き込まれても、帰ってくることは出来ないのだ。

次に、この能力は、緯度と経度は正確に指定できるのだが、標高の精度がいまいちでね。転送先が地上100mの空中だったり、関東ローム層の真ん中だったりするかもしれない」


「あーそれはきついですねー」

 リュウジはガクっとなった。


 それにしても……リュウジは目の前に毅然と立つ理事長の姿を見て思う。

 この混乱の最中に、これほど冷静に立ちふるまえる人間に、早々と出会うことが出来るとは。

 名門、聖痕十文字学園の理事長の肩書にたがわぬ人物とリュウジは見た。

 しかも危機回避においては、ほとんど『万能』とも思える能力を伴っているのだ。

 自分のアパートで画策していた当ても無い算段に、可能性という光明が差したようで、リュウジは嬉しくなった。


「そんなことより如月くん、ここも安全ではない、水無月くんと早く避難するんだ」

「でもどこに?安全な場所なんて……」

 いぶかるリュウジ。


「地域住民の避難場所として、我が聖痕十文字学園を開放した。災害時の蓄えも十分にあるからね。それに……」

 理事長がニヤリと笑った。

「わが校の生徒を危険にさらすような奴がいたら、私が片っ端から『飛ばし』まくってやるよ。」 

 不敵に煌く理事長の目。


「うーん……」

 リュウジは首をかしげた。

 理事長の話はもっともだ。それに、このままここに残るより、この人物の元にいたほうが遥かに安全、それだけは間違いなさそうだ。

 だが……気になるのは茉莉歌のこと。

 一刻も早く両親の安否を知りたいだろうに、学校に一時避難では気持ちの整理はつくだろうか?

 リュウジが悩んでいると、背中から声が聞こえた。


「学園に行きましょう。リュウジおじさん」

 リュウジはふり返った。

 憔悴しきった顔の茉莉歌が、力なく、それでも笑いながら立っていた。膝は小刻みに震えている。


「お昼ごはんもまだだしさ、学校に行けばさ、友達とか、お母さんが来てるかも知れないし、おじさんの知り合いとかも来てるかも」

 朝方に起きた『あれ』から、たった数時間だ。

 両親の安否は不明、怪物や暴漢に殺されそうになり、自分の家は恐竜の大立ち回りで半壊している。


 それでも、なんとか笑っているのだ。


「……そうだな茉莉歌ちゃん、少し休まないと。これからどうするか、考えないといかんしな」


「決まりだな」

 理事長は頷くと、スクールバスを呼び出すため、携帯電話を取り出した。


 #


 聖痕十文字学園は多摩丘陵に広がる巨大学園都市の一角だ。

 数十分後、二人は、理事長の手配で行き来する避難者用送迎バスに居た。理事長も一緒だ。


「……なあ如月君、今回の『事件』、どう思う?」

「どう思う?あの『声』がみんなの頭に響いて、それでどこかの誰かが勝手な願い事をして……それで俺らが大変な目にあって……」


「印象だよ。個別に起こった怪奇現象にどんな印象を持った?」

 リュウジはテレビの光景、そして実際に出会った連中の事を思い返した。


 怪獣、巨大ロボ、ゾンビ、スーパーヒーロー、ティラノサウルス……


「……何ていうか、子供っぽいってゆうか、馬鹿ってゆうか……」

「私も同じ見解だ。キーワードは『ボンクラ』と『現状維持』だ」


 どういうことだ?リュウジは考えた。だがさっぱり意味がわからない。


「『ボンクラ』と『現状維持』って……一体どういう意味ですか? 炎浄院さん?」


「如月君、例の『声』が聞こえて、各地で騒動が起き始めた時、私は恐怖した」

 理事長は、窓の外に目を遣りながら答えた。


「極端な政治思想や宗教観を持った人間、あるいは心に耐えがたい孤独を抱えた人間の『願い』が、この世をメチャクチャにしてしまうのではないかと。

各国に核ミサイルが飛んできたり、ある宗派以外の人間が地獄の炎で焼かれたり、特定の人種がさらなる災厄に見舞われたりするのではないかと。

私の『能力』も、そんな事態への恐怖から発現したのかもしれない。だが少なくとも現在、そんな事態には至っていない……なぜだ?」


「大多数の人間はそんなこと望んでいないからでしょう?」

「そうだ。だが確率的に必ず『やらかす』奴はいるだろう。そいつの願いはどこで実現した?」

「うーん……」


「あくまで仮説だし、証明のしようはないが、こう考えてはどうだろう、その願いは『別の世界』で実現したのだ」

「……『並行世界』ですか?」


「こんなニュースが報じられている。世界各国の特定の都市で、大量の人間が同時に姿を消したというのだ……。彼らは、彼らの『救済』が実現した世界に移動したのではないか?」

「別の『スレッド』に隔離されたということですか?」

「そういう見方もできる」


 各々が望んだ『破局』や『救済』が実現した世界が、この世界と並行して無数に出来上がる……リュウジは目眩がした。


「ん?でも待ってください、焔浄院さん。セカイオワタ系の願いが『ここ』で実現していないのは、上述で説明つくとして、現に今起きている災害はどうなるんです? 怪獣とかティラノサウルスとか、馬鹿っぽい願い事ばかり目立ってるような気がするのですが……実際に犠牲者も出ているし、彼らは『隔離』されないのですか?」

 理事長に疑問をぶつけるリュウジ。


「如月君、私もそこが納得いかなくてね、考えてみたんだ、私は無神論者だが、今回の事件で考えに修正を加えざるをえなくなった。

神だか何だかは知らないが、明らかに明確な意思を持った何者かがこの世界に干渉し、我々の世界の法則を変えてしまった、

そこで、こう考えてはどうだろう? 『そいつ』の想定した願い事のカテゴライズには、『携挙』や『最終戦争』はあっても、『ゴシ"ラや巨大ロボによる大量破壊』なんてものが想定されていなかったのだ。あまりにボンクラすぎるからね」


「……ではこういうことですか? 『そいつ』が想定していなかった願望による災厄が、別スレッドに隔離されず『ここ』で実現していると……? でも、子供なんかはそういう願い事、しがちじゃないですか?」


 リュウジの問いに、理事長は少しムッとした様子でこう答えた

「子供のこと馬鹿にしてるだろ? 未就学児童は暴力描写とか嫌いだし、学校に上がれば友達も増えるし、それなりに論理的に物事を考えるから、こんな事願ったりしない。要は三十路も間近のいい歳こいて、日曜朝から『ライダー』とか見てるようなボンクラが今回の災厄の原因なのだ!!」


 ……(´・ω・`)

 自分の存在を否定された気がして、リュウジは悲しくなった。


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