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まりか、りじぇねれいと!  作者: めらめら
第1章 あぽかりぷすなう。
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如月リュウジ、立つ

「絶対におかしい……何かの罠だ。試されてる!」

 三十路も近いのに鳴かず飛ばずのSF作家、如月琉路(きさらぎリュウジ)は、数分前、頭の中に響いた異常な『啓示』に、強烈な違和感と恐怖を感じていた。


 既にアパートのTVはお台場に出現した体長700メートルの『高崎観音』を映し出し、東京湾から浮上したギリシャ風の巨大神殿の姿を報じている。

 パソコンを開けば、「スプーンが曲がった」とか「耳がでっかくなった」とか、しょうもない『奇跡』の見せっこで、ツイッターはダウンしていた。


 リュウジは自分の不安が的中したことを知った。


 少しでも有益な情報を得なければ。

 彼は学生時代の恩師で、宇宙物理学者の大月教授に電話をかけた。

「先生、さっきの『声』をきかれましたか?こんなことが現実に……一体、誰が、何の為に?」

「……もういいんだよ如月君、フヘヘ、全ては些細な事なんだ。今、まさに、宇宙誕生の秘密が頭に流れ込んできてるんだからあ'`あ'`あ'`あ'`あ'`…………」


 ……くそ使えねえっ!

 てゆうか、欲求に素直すぎだぜ先生!


 電話を切って立ちあがったリュウジ。

 おそらくこれから社会に巻き起るだろう大混乱をひしひしと予感して、彼はある決意を固めた。

「一人一回は願いが叶うって言ったな!」

 誰ともなく吐き捨てたリュウジ。


 ……知り合いに片っ端から声をかけ、冷静な奴、頭の沸いてない奴を集めよう。

 一人一回、授けられた『権利』は、来るべき大混乱からの『護身』にも使えるはずだ。そしてそれは集団になるほど有効に働くはずなのだ。


 だが、何よりもリュウジが案じたのは、近所に住むまだ中学生の姪、水無月茉莉歌(みなづきまりか)の安否だった。

「姉貴と義兄さんは二人とも勤めに出てる……あいつは無事か!家にいるのか?」

 既に携帯の回線はパンクしている。いてもたっても居られず、アパートを飛び出したリュウジ。


しかし表に出た彼の眼前には、はやくも心が折れそうになる、異様な光景が広がっていた。


 雪だ。真夏なのに雪が積もり始めているのだ。

 リュウジはアパートの玄関先から空を見上げた。厚い雲の切れ目からは、明らかに太陽でない、ぼんやりした光源が幾つも見え隠れしている。

 光源は時を追うごとに増えていき、そのいくつかの周りには、鳥でも飛行機でもない巨大な何かがぐるぐる旋回していた。


 リュウジはゾッとした。

 勿論、こんな異常事態が起こっても、大抵の人は戸惑って何もしないか、あるいはレクサスとかNexus7が欲しいとか、目先の欲求に願い事を使うかもしれない


 だが東京の人口は1300万人。仮にその中の10万人に一人が、『最後の審判』とか『次元上昇』を願ったとしたら……

 日本の人口は1億弱……世界は70億……


 空恐ろしい想像をしながら、雪をかき分けて水無月家にたどり着いたリュウジ。


「茉莉歌……いるのか?!」

 彼は、何度も玄関先のチャイムを鳴らした。


 がちゃり。


 玄関の鍵が開いた。

 小さな肩を震わせて、茉莉歌が立っていた。

 ツインテールを揺らした、まだあどけなさの残る茉莉歌の顔。彼女は泣きはらした目でリュウジを見つめた。


「リュウジおじさん……」

「茉莉歌ちゃん!どこも何ともないな!」

 二人は居間に入った。

「……うん。ねえおじさん、さっきの『声』は何だったの? テレビで言ってるど、『あれ』のせいでこんなことになってるのかな?」


 彼女は、怯えた目でテレビの方を向いた。リュウジは目を覆いたくなった。

 テレビが映しているのは、彼もよく見知った『怪獣』だった。

 ゴシ"ラが、新宿の都庁舎を壊しているのだ。


 ……彼女の両親は、新宿にオフィスを構えていたはずだ。

 やがて正気を疑うような事が起きた。高層ビル群がガチャガチャと展開を始め、中から現れた赤や紫の極彩色の巨人たちが、ゴシ"ラに掴みかかっていったのだ。

 昔TVでやっていたロボットアニメ、ロボットじゃなくて人造人間だっけ……『バスターアルティメス』だ。

 リュウジは耐え切れずTVを消した。


「……茉莉歌ちゃん、姉き……お母さんかお父さんから連絡は来てないのか?」


 茉莉歌は目を背け、震えながら電話機を指差した。

 電話機の前に立ったリュウジは、本日付のメッセージを再生した。

 メッセージが流れ始めた。彼の姉で茉莉歌の母、結衣の声だった。


「茉莉歌!携帯が繋がらないからこっちに電話するよ!(背後に爆音と悲鳴)うちに帰ってるなら、絶対に家から出ちゃだめ、

リュウジおじさんに連絡なさい。あいつは昼間からフラフラしてるから、すぐ来てくれる、お父さんは、お父さんは……いまっ(爆音、悲鳴)……とにかく家で待ってなさい!後、絶対に(爆音)」


 メッセージはそこで途切れていた。

 茉莉歌は耐え切れず、茫然自失のリュウジにすがって再び泣き出した。


「リュウジおじさん……これから、どうすれば……!」

「わからない……茉莉歌ちゃん、とにかく周りが落ち着くまで、家から出ちゃだめだ……一緒にいよう」

 リュウジは茉莉歌の肩に手にやって答えた。

 アパートでの決意が早くも揺らぎそうだ。あんな惨状を耳にして、自分一人の努力でいったい何ができるというのだろう。

 ここでおとなしく状況が収束するのを待った方がいいのでは?そう思い始めた矢先、


 がちゃん!

 何かが割れる音がした。

 音の方を向いたリュウジは、再び我が目を疑った。縁側の引き戸のガラスを破って、何かが入ってきたのだ。


「あーうー」

 『そいつ』が呻いた。

 異臭を放ちながら立ちあがったのは、ボロボロの衣服をまとって、腐った肉体から白骨をのぞかせた、歩く死体だった。


「な……何あれ!」

 恐怖に固まる茉莉歌。


「ぞ……ゾンビ!?」

 ヨロヨロとこちらに向かってくるゾンビから茉莉歌を庇いながら、玄関に向かうリュウジ。


 玄関の扉を開けた彼は、庭先のおぞましい異景に息をのんだ。

 なんということだ。いつの間にか、家の周りを何十体もの腐乱死体が取り囲んでいたのだ。

「だめだ、ここも危険だ!逃げるぞ茉莉歌!」


「脳みそ~脳みそをよこせ~」

 二人に迫るゾンビ達。

 リュウジは思った。こうゆう願い事をした奴を、小一時間問い詰めてからなるべく苦しめて殺したい。いったい誰得なんだよ。


 だが、すぐに当人がやってきた。


 どどどどど!


 機銃掃射がゾンビどもをなぎ払っていく。

 巨大な車輪に機関銃を構えた漆黒の特殊バイク、『ナイトポッド』が水無月家の庭先に突入してきたのだ。

 乗っているのは毎週TVで活躍しているヒーロー、闇の処刑人『ダークナイト』だ。


「ぎゃっはははー、こーゆーのがやりたかったんだ!」

 黒装束のヒーローがヒステリックに笑った。


「(俺より少し弱め設定の)悪の軍団を全員死刑に処す!」

  どどどどど!

 ダークナイトは機関銃で次々にゾンビを始末していく。


「ぎゃっはー思い知ったか街のダニども!俺TUEE……げぼあ!(ブチュッ)」

 男の笑いが、永遠に途切れた。背後から音もなく忍び寄ってきた巨大な鉤爪の肉食恐竜、『ヴェロキラプトル』が、ダークナイトの喉笛を食いちぎったのだ。


 ずずーん!


 次いで十字路の陰から現れたのは体長10メートルを超える恐竜王。

 『ティラノサウルス-レックス』が、バイクとラプトルごと、男を踏みつぶした。

 多摩動物公園の畑中園長が、白亜紀の恐竜を飼育したいなーと願ったのだ。危機は去るどころか猛威を増した。


「ギャオーーーン!」

 コントラバスの様な咆哮を上げ、T-REXはゆっくりとリュウジと茉莉歌の方を向いた。

 二人を認めた恐竜の眼が、何かいいものを見つけたというふうに細まった。

恐竜が、二人に突進してきた。


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