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フリークス・ガール  作者: 六助
正義と怪物
9/24

魔術指南

 鈴木に関して、皆川やその友達から聞いた話に、俺が独自に調査したことをまとめようと思う。

 まず、鈴木の交友関係から。

 鈴木は転校した当時は、クラス中の人気者で、誰にも優しい対応をしていたらしいのだけれど、いつの間にか、その熱も収まり、今では特に親しい友達数人と遊ぶことが多くなったらしい。そして、その中には皆川と谷沢も入っているようだ。まぁ、かといって、他のクラスメイトとまるで関わっていない、というわけではなく、大切にすべき友達とその他をしっかり区別しているという感じだ。ちなみにその区別というのが、敬語を使うか使わないか。鈴木はほとんどの人間には敬語を使っているが、谷沢や皆川など、親しい友人には敬語は使っていない。人間、八方美人ではその内破綻してしまうので、その判断は間違っていないが、なんというか、やけに露骨な感じもする。

 次に、鈴木の観察結果を。

 鈴木は完璧な美貌に加え、運動神経抜群、頭脳明晰と、非の打ち所の無いような人間に見える。実際、そう見えるように装っているのかもしれないが。しかし、どんな人間もとい怪物でも、完璧というものは存在しないらしい。完璧超人に見える鈴木だが、弱点が、少なくとも二つ見つかった。

 一つ、異常なまでの食欲。

 正体が怪物のせいか、鈴木の食欲はちょっと周りから軽く引かれるほど異常である。まず、朝登校してくるときには、決まって食パンを咥えている。朝飯ぐらいちゃんと食ってきたらどうだ、と注意したのだが、どうやら、朝飯を食った上で食パンを咥えていたようだ。次に、昼休みでお弁当を食うまでに、必ず一回は間食をはさんでいる。それも、お菓子類ではなく、おにぎりや肉まんなど、結構がっつり喰う。そして、昼休みは重箱のような弁当を食べて、放課後までにまた間食。

 女子の間では、どうしてあんなに食べて太らないのか、不思議で仕方ないとハンカチを噛む奴も少なくないとか。

 二つ、時々、『ふざけるな』とツッコミたくなるドジをやる。

 そう、鈴木は完璧に見えて、意外に抜けているところが多い。例えば、いきなり何も無いところでこけたり、校舎内にある壁という壁にうっかりぶつかったり、会話中にいきなり言葉を噛んだりなど。

 まぁ、それっくらいなら可愛いものだが、稀に、くしゃみをしたショックで額から角を生やしたり、体育の授業中に触手を生やしたり、スカートの下から尻尾を出したりなど、俺がフォローしなかったら大騒ぎになる類のドジは本当にやめて欲しい。

 もしくは、ただのドジではなく、人間の体を動かすのが苦手だったり、擬態するのが苦手だったりするから、結果的にドジっ子に成っているのかも知れないが。

 と、この様に、見方によれば愛嬌を感じるかもしれない怪物の鈴木について、最後に大切な事項を。

 重要事項、鈴木花が人間に及ぼしたと思われる被害について。

 俺が観察し、学校中の人間が不可解な事故などに遭ってないか? 行方不明になってないか? などを調べた結果、鈴木が関与していると思われるものは、零だった。強いて言うなら、学校近隣の住民が困っていた鴉などの害獣による被害が大幅に減ったことぐらいだろうか。

 つまり、鈴木花という怪物は無害なのである。

 今のところ、俺たちにとっては、だけれど。



「よかったじゃねーか。無害そうな奴でよ」

「今のところは、だけどね」

 放課後、俺と義経は学校から少し離れた場所にある、廃棄予定のビルの三階に居た。ここは、義経と関わりのある不良が、ちょっとしたコネを使って手に入れた場所であり、隠れ家なのである。

 何から隠れているのかというと、世間様の視線とか、たまにパトロールしている警察から、とにかく未成年にとって不都合な色々から一時的に非難する場所として、義経を筆頭とする不良軍団が所有しているのである。

 内装は決して綺麗じゃない。ビルの壁には、あちらこちらにスプレーの落書き。床には、何に使うか分からないガラクタが転がっている。けれど、ソファーや机、液晶テレビなどの家具もしっかりと配置されていて、生活感も存在しているのだ。

ちなみに、電気や水道なども、いろいろと裏技を使ってきちんと流れている。

 そんな隠れ家を使って、俺はちょっとした魔術を義経に指南してやっていた。

「随分、慎重じゃねーか、弥一。もうちょっと、クラスメイトを信用してもいいんじゃねーの?」

「バカを言うなよ、義経。相手が俺程度で制圧可能な力しか持ってないなら、ともかく、未曾有の怪物だぞ? 慎重過ぎるぐらいでいいんだよ」

「いや、でも話してみると案外、良い奴かも知れないぜ?」

「そうじゃないかもしれない。それにな、鈴木本人が良い奴だとしても、鈴木が居ること自体で起きる被害も存在するんだよ、っと、灯火が揺らめいているぞ、しっかり集中しろ」

「うおっ、あぶねー」

 義経が慌てて、右手に意識を集中させた。今、義経の掌の上には、拳大ほどの大きさの、オレンジ色の灯火がふわふわと浮いている。

 これは、火属性の魔術の中でも、ごく初歩的なものだ。そして、現在、義経に出している課題は、その魔術を雑談しながらでも保っておくこと。

 どんな状態でも、たとえそこに意識が行っていなくて、簡単な魔術なら行使可能。少なくとも、これっくらいのレベルになってくれなければ、初級以上の魔術は教えられない。他ならぬ、義経のためにも。

「しかし、お前に言われたこれ、かなり難しいな。魔術使うってだけでかなりの集中力必要だし、その上、今みたいに雑談してなきゃいけないんだろ?」

「そうか? 俺は五歳の時には出来てたけどな。つか、これぐらいこなしてくれないと、中級以上は教えられないぞ?」

「うぐぐ、頑張る」

「おう、頑張れ」

 ゆらゆら揺れる義経の灯火を眺めながら、義経の魔術適性について考える。

 魔術とは文字通り、魔力を扱う術であり、自身のイメージを具現化するための術だ。

 魔力には体内で生成できるオドと、世界が生み出しているマナの二つがある。名前は違うが、力の性質は同一。ただ、人の体内で生み出されるオドはマナに比べると余りにも小さい。なので、大抵の魔術師は自らのオドを使い、呼び水としてマナを引き出し、扱う。主にこの技術が上手い者は、魔術を上手く使えることが多い。

 素質は、恐らく悪くないと思う。集中力も、オドも、そして理解力もそこそこにあるし、なにより、魔術適性として四大元素の火を持っているのが良い。火属性は魔術行使する際にイメージしやすく、発現しやすいのだ。もっとも、その分、危険性があるので充分に気をつけなければいけないのだが。

「ああ、それと忠告するが、義経。中級以上の魔術は、失敗すると、最悪腕一本ぐらい吹き飛ぶから」

「マジ!?」

「うん、マジ。だから、こういう基礎が大切なんだぜ。つーか、ここまで聞かされて、お前、中級以上の魔術、覚えたい?」

 義経は少し言葉に詰まったが、それは一瞬だけ。次の瞬間には、無邪気な少年みたいに、目を輝かせながら答えた。

「ああ、覚えたい! 子供の頃に夢見た姿に、どこまで近づけるのか、俺は試して見たいんだ!」

「…………俺としては、喧嘩目的に魔術を使わないって誓うなら、教えることは構わないんだけどな」

「ほんとか!?」

 目を輝かせながら、ずい、と顔を近づけてくる義経。

 俺は、そんな義経へ、魔術という力を持つ者として、幾多の争いを経験した者として、教訓と警告を送る。

 親友であるからこそ、出来る限り厳しい口調で嗜める。

「けど、これだけは覚えてくれ、義経。お前が今、俺に習っているのは、戦場で幾千万、いや、幾億もの命を奪ってきた技術だ。使えば使うほど争いを呼ぶ技術だ。銃火器を手に入れるのと同じ行為だ。それを理解した上で、使え。そして、使う時は躊躇うな」

「……弥一」

「ふん、悪いな、説教臭くなっちまって。ちょっとばかし、昔のトラウマを思い出してね」

 義経は首を横に振り、苦笑した。

「いや、言ってくれてありがとな。正直、俺、浮かれてたわ。夢にまで見た魔術が使えるんだって。でも、そうだよな。俺によっては夢やロマンみたいなものだけど、お前にとって魔術は――――」

「気にするな、昔のことだ」

 義経の言葉を遮るように、俺は言う。

 昔々。

 子供の俺は、ちっぽけな正義と身の丈に合わない魔術を使いながら戦場を渡り歩いていた。親が振りまく災厄の一部として、時には、その災厄を打ち払おうとして、とにかくがむしゃらに戦っていた。

 戦って、戦って。

 助けようとして、裏切られて。

 どうしようもなく、ボロボロになって。

 最後はもう、何もかもが嫌になって、戦場から逃げることにした。

いや、違うな。俺が逃げたのは、戦場なんて曖昧なものじゃなくて、もっとはっきりとした、宿敵。

 その宿敵から、鮮血と終末を振りまく彼女から、俺は逃げてきたのだ。

「なぁ、義経。この世界には、利用できる奴は全て、例え鈴木みたいな怪物であろうが利用し尽くして、世界を滅ぼそうとするような、どうしようもない奴が居るんだぜ? だからな、俺はそいつを知っている者の義務として、精一杯慎重になって疑わなきゃいけないんだよ」

 胸の奥から憂鬱な息を吐き出して、俺は曖昧に笑う。

「お前や、鈴木が、あんなどうしようもない奴に利用されないように。あいつみたいな奴に利用されないように、疑って、探って、忠告して、うざったい奴にならなきゃいけねーんだ」

「弥一……お前はひょっとして、今までもそんな風に、疑いながら生きてきたのか? それっくらい、そいつが怖かったのか?」

 俺は肩を竦めて、おどけてみせる。

 おどけて笑って、義経の心配そうな視線をぼかす。

「さてな。戦場帰りだから、どっかの傭兵みたいに戦争ボケしてるだけかもしれないぜ? あるいはただの疑心暗鬼か。まぁ、話を戻すと、鈴木が何もする気が無くても、鈴木の力を利用して行動を起こすバカが居るってことと」

義経の右手へ視線をやり、俺は苦笑しながら教えてやる。

「お前が中級魔術を覚えるのは、まだまだ先になりそう、ってことぐらいだな」

「あっ」

 俺の視線の先には、義経の掌の上にある空間には、何も無い。

 本来なら、灯火が燃えていなくてはいけない空間には、ただ、空気があるだけ。

 露骨に肩を落とす義経に、「集中力が足らんな」と、どっかの教師の口調を真似て、偉そうに言ってみた。



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