エピローグ
空は相変わらずの灰色。
午後から晴れるという予報だが、いまいち信用できない空模様である。
せっかくのデートなので、出来れば晴れて欲しいところだが、案外、雨のデートも悪くないかもしれない。
待ち合わせの場所は、どこにでもあるような、公園のベンチ。
待ち合わせの時間は、実はもう、十分ほど過ぎている。さっき、楓から『我々も連れてけぇええええ!』と叫びまわる弟たちを叩きのめしたとメールが来たので、あと十分ぐらいで着くだろう。
まぁ、慌てることはない。
ゆっくり腰を据えて待とうか……と、おう?
「なんだ、そっちもデートかよ」
「ええ、偶然ですね」
待ち合わせ場所には、純白のワンピースを着た美少女――鈴木花が現れた。お互い、変な偶然もあるものだと笑いながら、鈴木は俺の隣へ座る。
「デートか、よかったな。ついに谷沢の奴、お前と三十分以上隣に居ても気絶しなくなったんだな」
「ええ、毎日ホラー映画やグロ系の漫画を見せた甲斐がありました」
「……なんか、逆に正気が削られそうだな、それ」
「そっちはどうなんです? 楓ちゃんとは上手くいってますか?」
「あー、まぁな。時々、両親がからかうために刺客を送ってくるのが、すげぇうざいけど、後は問題ない」
俺関連で復讐者がたくさん湧くかと思ったが、未だに災害指定されていた頃の恐怖のおかげか、それとも、傭兵としてたくさん人を助けてきたのが功を奏したのだろうか? 俺が記憶を封印されている頃から、復讐者がやってくることは無かった。
今思えば、両親関連でやってきていた刺客たちは、復讐者ではなくて、両親から送られたボディーガード兼俺の遊び相手だったのかもしれない。というか、絶対そうだ。だって、見覚えのある奴らが続々湧いてきているし。
うん、アレだ。意外と、うちの両親も、子供のことを考えているのかもしれない。最近は『戦場に行こうぜ』って言わなくなってきたし。まぁ、その代わり、『子供できたー?』と気軽に聞いてきやがるけどな。
「……ねぇ、七島君。本当に良いんですかね? 私たちみたいな怪物が、虫けらみたいに人の幸せを踏み潰してきた奴が、こんな日常を送れて」
ふと、鈴木が視線を合わせず、俺に訊ねてきた。
俺も視線を合わせず、灰色の空を見上げて答える。
「いいわけねぇだろ、んなもん。人の幸せ奪った奴が幸せになるなんて、身勝手すぎるし、都合が良すぎるだろ」
「……ええ、でしたね。けど」
「俺たちはその身勝手を通す」
鈴木は頷いて、俺の言葉を次ぐ。
「私たちはいくら恨まれても構わない」
「それでも、俺たちは自分たちの幸せのために身勝手になる」
「世界中から嫌われても良い。大切な人が隣にいるなら」
「例え、世界が敵に回ろうと、全部まとめて殲滅してやる」
「罪も認めましょう」
「ただし、復讐に来るものは全て叩き潰す」
「虫けらのように殺します」
「正しくなくても良い」
「間違っていても良い」
「だって俺は」
「だって私は」
「「怪物だから」」
俺たち怪物には、まともな論理なんて存在しない。
だから、どれだけ正しくなくても、楽じゃなくても、身勝手を貫ける。そういう、狂った存在だから。
「さぁて、決意表明も終わったことだし」
「そろそろデートの時間ですね」
俺と鈴木は同時に立ち上がり、左右別の方向へ歩き出していく。
それぞれの視線の先には、それぞれの大切な人が手を振っている。
これはそんな、『怪物』の物語。
俺たちの、ささやかな日常の物語。




