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フリークス・ガール  作者: 六助
灰色の向こう側
22/24

馬鹿は死なない

「…………ええと、それってなんてラノベ?」

「言うと思ったぜ、こんちくしょう」

 昔話が終わった後、開口一番にこれだった。

 まぁ、そう言われても仕方ない人生を送っているから、仕方ないのだけれど。つか、ついさっきまで魔術とか、世界の裏側についてなんも知らない奴に、こんな話をすること自体、頭がおかしいと思われても仕方ない行動かもしれない。

「でも、信じるよ」

「…………は? こんな荒唐無稽な話を、か?」

「うん! 私は馬鹿だけどさ、七島がこの話しているとき、凄く真剣だったってことぐらいはわかるよ。友達が真剣に話しているならさ、信じてあげなきゃいけないじゃん?」

 本当に、お前は馬鹿だなぁ、皆川。

 こんな話、適当に笑い飛ばせは良いだけなのにさ。

「信じるなら、そういうことだぞ、皆川。分かっているのか? 本当に?」

「……え?」

 俺は息を整え、迷いを殺し、呆けた顔をしている皆川へ言い放つ。当たり前で、残酷な真実を。

「この話を信じるってことはな、お前の友達が、世界中の歴史を紐解いても、なかなかお目にかかれない殺戮者だってことを信じることだぞ」

「え、あ……」

「ラノベじゃねーんだ。現実で、この手を紅に染め上げて、俺は人を殺しているんだ。たくさん殺しているんだ。まるで、虫を踏み潰すかの如く、人を殺しているんだ」

「あ、う」

 皆川の瞳に、やっと怯えの色が見える。

 なら、もう少しだな。

 俺は横になっている皆川の首筋に手を添え、出来る限り冷たく言う。脅す。心を折る。

「理解しているか? 俺がその気になったら、この首をたやすく折ることが出来るんだぞ? あっさり、お前を殺せるんだぞ?」

「ひ、あぁ」

 皆川の喉から、悲鳴が絞り上げられる。

 俺は数多の戦場を乗り越え、死山血河を作り上げてきた傭兵だ。何人もの猛者を殺してきたし、時にはなんの罪も無い一般人だって殺したことだってある。

 その俺が本気で殺気を放っているのだ。今まで、こんな平和な場所で生きてきた皆川に、受けきれる道理は無い。

「理解しろ、俺は殺戮者だ。何もかも諦めているから、必要なら、誰でも『仕方なく』殺せる。お前の友達の鈴木だって、俺がこれから殺しに行くんだ」

「な、ん、なんで……?」

 なぜかこの言葉だけは、すんなりと吐き出すことが出来た。


「それは、俺とあいつが怪物フリークスだからだよ」


 片や、正真正銘の人外にして、見る者を発狂せしめるほどの醜悪な怪物。

 片や、正真正銘の人間のくせに、人を人とも思わず、世界中のありとあらゆる事柄を全て曖昧な灰色として受け入れる怪物。

 どちらも共通していることがあるとすれば、存在することで周囲に害悪を振りまく災厄だということか。

「怪物の始末は怪物でつける。だから、お前は何も知らずに、このままここに居るんだ。ただ、それだけでいいんだ」

 どうせもう少し経ったら、【委員会】の奴らが辻褄合わせるために記憶を操作するだろう。

 そして、これを最後に、俺はもう皆川と会うことなんて、ないだろう。いや、そもそも、俺みたいな奴が、お前みたいなのと一緒に居るのが間違っていたんだよ。

 お前みたいに優しい奴は、俺みたいな怪物のことなんか、さっさと忘れて、幸せに暮らせよ。

 幸せに、長生きしてくれ。

「それじゃ、さようならだ、楓」

 栗色の瞳いっぱいに涙を溜めて震える楓を残し、俺は病室から出て行く。

 あの、楽しかった日々は全部置いて、灰色のまま俺は行く。

 そうすることでしか、俺は、俺なんかと友達になってくれた楓たちに報いることができな――――

「ちょいまちー!!」

「おぶっ」

 馴染み深い、背後からの衝撃。

 俺が背後から蹴り倒されたと理解する頃には、楓が俺の腕を押さえつけ、俺の腹に馬乗りになっていた。

 くそ、殺気が無さ過ぎて、攻撃に気づけなかった。

「う、うう。勝手に、勝手に喋って、勝手に納得して……」

 楓は、目の端から流れ出る涙を制服の袖で拭う。心折れていたはずなのに、その目は力強く俺を見つめた。

「ふっざけんなー! ええい! 言いたいことが山ほどあるのに、上手く言葉にできない! もう! もーう!」

「いたっ、てめっ、地味にパンチが痛いんだよっ!」

 わけが分からない。

 なんで、殺気を向けられた相手に、こんな真似ができるんだ? 確かに心を折って、完全に怯えさせたはずなのに、どうしてこんなに早く立ち上がれるんだ?

 分からない。

 わからないから、俺は、まるで、どうしても英文が理解できないどこかの馬鹿みたいに、楓に訊ねる。

「お前さ、俺が怖くないの? 本当にわかってんのか? 俺がたくさん人を殺した怪物だってことを」

「うっさい! わかるわけないじゃん! だって私、すっごい馬鹿なんだし!」

 まぁ、確かにお前は馬鹿だけどなぁ。

「馬鹿だけど、これっくらいなら、私はわかるよ! 私は今、すっごい、むかついてる! 今! あんたにっ! 弥一にむかついているんだよ!!」

 拭い去ったはずの涙が、再び栗色の瞳から湧き出る。

 目の端を伝って、俺の頬に落ちる。

 その雫はまるで、焼けるような熱かった。

「なに、勝手に諦めてんの!? なに、勝手に絶望してんの!? まだ、何も始まって無いじゃん! やっとこれから始まるところじゃん! それとも何!? 弥一にとって、私たちって、適当に投げ出してもいいほど、どーでもいい存在なの!?」

「……違う。どうでもいい存在だったら。、そもそも、俺はここに居ないさ。けど、仕方ないんだ。だって俺は――――」

「仕方なくなんかない!」

 強い力で、俺の頭を掴む両手。

 それは俺に逃げることを許さず、楓の、栗色の瞳から目を逸らすことを許してくれない。

「全然仕方なくなんか無い! 何一つ、諦める必要なんか無い!」

「……簡単に言うんじゃねーぞ」

 だから、かもしれない。

 こんなことをしている暇はないっているのに。こんなことを言ってもどうしようもないのに。なぜか、口は勝手に、俺の叫びを吐き出していた。

「守るっていうことは、凄く難しいんだ! 殺すことの何千倍も、何万倍も難しいんだ! どれだけ力があっても、俺はお前らを守り通してやることができないんだ! 俺は、壊すことしかできない怪物だから」

 それはもはや、宿命に近い性質だった。

 二人の災害から生れ落ちた俺には、どうしようもないほどの破壊が纏わり付いて、離さない。

 守ろうとしたモノは全部壊れ。

 救おうと思った人には裏切られて。

 何もかも壊してしまう怪物なんだ。

 そういう風に、俺は生まれたんだ!

「勝手に決め付けんな!」

「んなっ!?」

「勝手に自分で決め付けないでよ! 私にとって、弥一はそんな奴なんかじゃない! 無愛想で、コミュ障で、気に入らなくて、いっつも私を馬鹿にして…………でも、優しくてかっこいい、私の大好きな人なんだ!!」

「――――それはっ! 俺が封印されていたから――」

「そんなの関係ないじゃん! 弥一は弥一じゃん!」

 楓は無理やり俺の両手を捕まえると、そのまま自分の首を掴ませる。まるで、自分を絞め殺させるように。

「ここまで言っても、わかんないなら、いいよ。私を殺してみて」

「……はぁ!? お前、何言ってやがる!?」

「全部、仕方ないで済ませられるなら、私のことも『仕方なく』殺して見せてよ! その手が壊すことしかできないって言うなら、まず、私のことを壊して見せてよ!!」

 楓は吼えていた。

 気高い獣の如く、牙を剝いて、強く。

 涙をぼろぼろ零しながら、それでも、強く。

「う、あぁ」

 俺の手の中には、温かい、楓の感触。

 これを、壊せっていうのか?

 仕方ないから、壊せって?

 なんでも殺せる人間だから、殺せって?

「あ、うわぁあああああああああああっ!!」

「ひゃう!?」

 俺は楓の手を振り払い、無理やり体を起こす。

 馬乗りになっている楓の体を倒し、必死で、ここから逃げようと廊下を蹴った。

 出来るわけなかった。

 殺せるわけなかった。

 だって、楓だぞ? 他のゴミクズみたな、大衆の命じゃなくて、俺の友達で、大切な人の命だぞ?

 命は平等なんかじゃない。

 少なくとも、俺にとっては。

 楓を殺すぐらいなら俺は、世界中のクズどもを殺戮して回ってやる。全員、殺し尽くしてやる。 

 それっくらい、大切なんだ。

「あぁあああああああああああああっ!!」

「――――うるせぇ、病院では静かにしろ」

「あがっ!?」

 無我夢中で逃げていた俺を、ラリアットをするような形で止める、たくましい手。この手に、そして声に、俺は覚えがあった。

「前に俺が逃げていた時は、お前が連れ戻してくれたからな。今度は俺の番って奴だ、親友」

「……義経」

 まるで鬼のような巨体に、金色の短髪。目つきの鋭さは、人さえ殺してしまいそう。けれど、その心はきっと、誰より優しい巨人。

 俺の、親友。

「ほらほら、可愛い彼女が待ってるぜ」

「ちょ、まっ……あ」

 義経に振り向かされたその先には、揺ぎ無い瞳で、まるで挑みかかるように俺を見つめる楓の姿が。

「弥一、私は死なないよ。絶対、君より先に死んでやらない」

 なんて無責任な言葉だろう。

 楓、お前が思っているよりも、世界は残酷で容赦が無いのに。

「なぁ、楓。死ぬんだよ、人は。あっさりと、簡単に!」

 待っていると約束した人は、俺を置いて逝くし。

 守ると約束した人は、俺のいない間に殺されるし。

 もう、あんな思いはたくさんだ。

「たった一発の銃弾で! 三十センチのナイフで! 洗面器程度の水で! 頭の打ち所が悪い程度で! ラノベと違って、死亡フラグも伏線も、何も無しに死ぬんだよ!」

「でもね、私は死なないよ」

 即答する楓へ、俺は獣のように吼え、疑問を叩きつける。

「どうしてっ!? どうしてそんなこと言えるんだよ!?」

 始めに、俺の心を貫いたのは、その笑顔だった。

 どこかの天使みたいに美しくない。完璧ではない。けれど、無駄に自信が溢れていて、得意げで、ガキみたいな、そんな笑顔だった。


「だって、私は馬鹿だから。言うでしょ? 『馬鹿は死ぬまで直らない』って」


 にひひ、と笑って言葉を続ける。

「だからね、私はずーっと馬鹿のまんまで、ずーっと、弥一の隣にいてあげる。あんたみたいなダメ人間は、私が隣に居なきゃ、ダメダメみたいだし」

 ああ、やっとわかった。

 この馬鹿の言葉で、やっと俺は理解できた……まったく、随分と長く思春期やっちまったぜ。

 俺は苦笑しながら、楓に応える。

「はんっ、バーカ。そういう意味じゃねーよ、それは」

「ええっ!? 嘘っ!?」

「英語だけじゃなくて、国語もやばいじゃねーか、お前」

「う、うるさい! これから、これから伸びるんだって!」

 真っ赤になって、反論する楓をにやにや眺めながら、俺はさりげなく義経に視線を送った。

「……っつ! なるほどな、健闘を祈るぜ」

 にやり、と不敵に微笑むと、空気が読める義経は、さりげなく俺たちの視界からフェードアウトしていく。

「もー! こんなときなのに、弥一はちゃかして! もっと真面目に答えてよ!」

「ほう、真面目にか」

「そう! 真面目に!」

 …………さて、あちらさんが望んでいますし、真面目になってみますか。真面目に、自分の心と向き合って、最終確認して、深く息を吐く。

 ああ、心音がうるさい。

 顔が妙に熱い。

 舌が回るか、心配だ。

 ははっ、何が災害指定の傭兵なんだか。これじゃまるで、どこにでもいるような、高校生じゃないか。

 俺は楓の瞳を見つめながら、微笑んで告げた。

「ふむ、真面目に考えた結果、俺はお前のことが大好きみたいだ。ぶっちゃけ、世界で一番愛している。付き合ってくれ」

「――――ふぇ? え? えぇええええええええっ!?」

 生まれて初めて、大好きな女の子に告白した。



「おやおや、今朝と比べて、随分な変わりようではありませんか、貴様」

「……義経を連れてきたのは、西島さん、あんただな?」

「ええ、グッジョブでしょう?」

「悔しいが、そうとしか良い様が無いな」

 そろそろ日も傾き、もうすぐ日没の時間。

 俺と西島さんは、とある場所に向かって、黄昏に染まった町を歩いていた。

「それで、結局、どういう作戦で行くのですか?」

「……なぁ、西島さん。気のせいじゃなければ、その質問は、もう三度目ぐらいなんだが」

「ええ、しっかり数えていますとも」

 顔を引きつらせる俺を、西島はにやにやと笑いながらからかい続ける。まったく、そんなに男子高校生をからかうのが、楽しいのかね、この合法ロリは?

 けれども、俺は今回のことについて、かなり西島に借りがある。既に準備が終わった後で、予定を変更させてもらったのだから、しばらくは頭が上がりそうにない。なので、しばらく俺は西島さんのおもちゃになることに耐えなければいけないのだ。

 まぁ、あのままバッドエンドになるよりは、格段にマシだけど。

 俺は大きく息を吸い、三度目になる言葉を搾り出した。

「世界と鈴木、どっちも救う。愛とか友情とか、そんな不確かなアレで。道理を蹴飛ばして、無理を通す。目標は、完全無欠のハッピーエンドで」

 俺の妄言に、正義の味方は小粋に微笑んで、力強く頷く。

「了承した」



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