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神式駆動カーニバル【第二幕開幕】  作者: 三枝零一
肆ノ舞

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絢爛怒涛の競技祭⑪

 燃え盛る紅蓮の炎のイメージが、瞬時に頭の中を満たした。

 僕はゆっくりと細く息を吐き出し、火之迦具土神に意識を集中した。


 真紅の供骸の体内、心臓のあたりに二つの光が見える。

 一つは動力である祈願炉、もう一つ僕が卸した神そのもの。

 両者を隔てる符術の壁を解除し、火之迦具土神の神性をゆっくりと祈願炉に押し込んでいく。


 神符をつかむ指先が焼けるように熱くて、視界の端に何度も火花が散る。

 初めて供骸を起動した三週間前と同じ感覚。だけど、制御不能な力にただ振り回されるだけだったあの日とは違う。


 全長三メートルの機械の体内で爆発的な神性が膨れ上がる。破裂寸前の風船みたいな圧力を必死に押さえ込み、歯を食いしばって顔を上げる。

 見つめる先には、真っ直ぐに日本刀を構えた九条君の姿。

 脂汗がびっしりと浮かんだその口元が、一度だけにやりと笑う。


 あふれ出た光が赤と青、二体の供骸を包む。光はそれぞれ燃え盛る紅蓮の炎と鬼火みたいな青白いいかづちの姿を取り、火之迦具土神と建御雷神、それぞれの装甲の表面で陽炎みたいに揺らめく。

 鳴り響く地響きの音。

 アスファルトの街路を踏み砕いて、二体の巨人が突撃を開始する。


 一つ踏み込むたびに神性の光が爆ぜて、戦場を隔てる透明な結界に鮮やかな紋様を散らす。

 歓声を上げる観客たちの中で、何人かが怪訝な顔をする気配。

 それを確かめる間もなく、すさまじい衝撃音が鳴り響く。


 建御雷神の刀と火之迦具土神の荷電粒子砲、二つの巨大な金属の塊が正面から激突して鍔迫り合いの形になる。触れ合った青と赤、二つの

神性の境界面で雷と炎が繰り返しせめぎ合う。


 たったそれだけの接触で、大気が激しく鳴動する。

 飛び散った神性の光が周囲の結界に激突するたびに、透明な壁がのたうつ蛇みたいに揺らめく。


 九条君は長大な日本刀を防御に構えたまま。僕も同じく、最大の武器である左腕の砲身を盾代わりに斜めに掲げたまま。

 迂闊うかつには撃てない。神威解放で火之迦具土神の出力はとんでもないレベルに上昇しているけど、それは建御雷神も同じはず。最大出力の砲撃を全力で跳ね返されでもしたら、間違いなく避けることも受けることも出来ない。


 指先の神符が赤熱して火花を散らす。今にも弾け飛びそうな符を素早く動かし、火之迦具土神につながる無数の糸を限界まで引き絞って弓の弦みたいに解き放つ。

 瞬間、鳴り響く重厚な機械の駆動音。

 火之迦具土神は左腕の砲身で日本刀を押し込む姿勢からわずかに身を引き、全身を力強くしならせると同時に荷重を再び前へと反転、握りしめた右の拳を建御雷神の青い仮面めがけて叩きつける。


 背筋が寒くなるような衝撃音。渾身の力を込めて放った拳の一撃が、輝く青い腕に寸前で弾かれる。

 建御雷神は日本刀の柄を右手一本で支えたまま、瞬時に跳ね上げた左手を火之迦具土神の腕に滑らせる姿勢。

 電光をほとばしらせた青い手が真紅の装甲に包まれた肘をぐいと掴むと、勢いを受け流された火之迦具土神は建御雷神を中心に円を描いて吹き飛ばされる。


 ……この……!


 ほとんど勘だけで両手の神符を操作し、供骸の重心を低く沈めてなんとか爪先で踏み止まる。同時にこっちの腕を掴んでいた建御雷神の腕を逆に掴み返し、強引に引きずり倒そうとする。


 九条君みたいな精密な操作じゃない。火之迦具土神の出力に任せた素人の喧嘩みたいな投げ。建御雷神の両足が一瞬だけ地面から浮きそうになるけど、青い供骸はすぐにバランスを取り戻してしまう。


 掴んだ腕が軽々と解かれる。

 火之迦具土神は自分自身の勢いに振り回されて吹き飛びそうになり、どうにか一転して構えをとる。

 その目の前、流れるように踏み出した建御雷神が両手に構えた日本刀を振り下ろし──


 迸る光の奔流。

 青い供骸の横合い、火之迦具土神とは全く別の角度から放たれた熱線の一撃が、建御雷神の青白い刀身を直撃する。


「なに──!」

 

 空気が焦げる匂い。思わず、っていう感じで叫んだ九条君が空中に浮かぶ荷電粒子砲を──僕自身が神卸で生み出した砲身を見上げる。


 建御雷神が素早く身を翻し、輝く金属の砲身を一刀の元に両断する。

 そのわずかな時間に僕は左手だけで神符を操って真紅の供骸を操作。

 同時に右手で神符の束を投げ放ち、新たな荷電粒子砲を頭上に生成する。


 全長三メートル──供骸とほとんど同じサイズの砲身が瞬時に大気をプラズマ化し、赤熱した光の奔流を建御雷神めがけて全力で放つ。

 同時に駆け出した火之迦具土神が爪先を軸に一転、真紅の装甲に包まれた優美な足を荷電粒子砲とは逆側から叩きつける。


 式神操作、符術、供骸の扱い──何もかも九条君には及ばないけど、神卸だけなら誰にも負けない。

 建御雷神は左手の刀と右手のひらで砲撃と蹴り足をそれぞれ同時に弾き、衝撃を殺しきれずに大きく後方に跳躍する。

 

「御厨! 行け──っ!!!」


 背後の遠くで賀茂君の声。観客席の大声援に紛れて上手く聞こえないけど、黒川君も彩葉さんも、作戦室の水瀬さんたちも必死に応援してくれてるのが聞こえる。

 だけど、不思議なことに、あれだけ元気に響いていた中臣書記の実況の声だけがない。

 そういえば、さっきの生徒会席の動きはなんだったんだろう──なんて考えた瞬間、視界の先で九条君の口元に笑み。

 無骨な両手が日本刀の柄を握り直した瞬間、建御雷神が轟音と共にアスファルトの地面を強く蹴る。


 青い供骸の全身に電光が迸り、三メートルの巨体が残像すら残さず視界から消失する。複数の足音がほとんど同時に重なり合って響き、雷の尾を引いた鎧武者が火之迦具土神の背後、刃が触れる寸前の位置に出現する。


 ……な……!


 とっさに指先の神符を動かそうとした途端、機先を制する形で閃く青白い刀身。

 弧を描いて走り抜けた刃が、火之迦具土神の右肩の装甲を縦横に断ち割る。


 ガラスを砕くみたいな甲高い音。弾け飛んだ真紅の装甲が炎を上げ、光の粒子に溶け落ちる。

 自分自身の右肩をえぐられたみたいな錯覚。

 歯を食いしばって火之迦具土神を強引に動かし、燃え盛る右足で回し蹴りを放った瞬間、建御雷神の青い装甲が電光をまとって再び視界からかき消える。


 複数の足音が今度は完全に重なり合って響き、ほとんど同時に火之迦具土神の背後で青白い雷が爆ぜる。

 今度はわかる。「雷」っていう建御雷神の神威を顕現した超高速の移動。たぶん九条君の奥の手だ。


 揺らめく青白い雷が瞬時に鎧武者の供骸の姿をまとい、滑るような踏み込みと共に長大な日本刀を翻す。寒気がするような風切り音。輝く刃が大気を裂いて火花を散らす。

 かわせない。僕が下手な動きを見せた瞬間、九条君は必ず機先を制してくる。

 なら。


 ……相打ち狙い……!


 普通の対応じゃだめだ。回避なんか間に合わないし、僕の技術じゃまともな防御もできない。

 だから九条君の攻撃が当たった瞬間、絶対に動きが止まる一瞬に、こっちも全力で攻撃を叩きつける。


 時間が遅くなったみたいな錯覚。建御雷神の青白い刀が弧を描き、火之迦具土神を背後から襲う。

 無防備に立ち尽くす真紅の供骸の首筋にめがけて滑り込む刃。

 電光の尾を引いた刃は炎を揺らめかせる装甲に超高速で激突し、神性の光をゆっくりと斬り裂き──


 ……今……!


 首筋に焼け付くような痛み。衝撃に息が止まりそうになるけど、それより早く渾身の力で両手の神符を払う。

 唸りをあげて回転を始める火之迦具土神の燃え盛る機体。

 目を見開いた九条君が動こうとするけど、それより早く振り抜いた火之迦具土神の蹴り足が建御雷神の胴体を直撃する。


「御厨──!」


 叫んだ九条君が自分自身が蹴られたみたいに一歩退いて踏み止まる。同じく退いた建御雷神の胸の装甲、ちょうど祈願炉を納めた位置に亀裂が走る。

 迸った雷が輝く青い装甲の表面を走り抜けて火花を散らす。

 同時に吹き飛ぶ真紅の装甲。

 半ばまで断ち斬られた火之迦具土神の首から、紅蓮の炎が迸る。


 模擬都市を揺るがすすさまじい歓声。僕は一度だけ強く足を踏み締める。

 指先の神符は赤熱して、力を込めて抑えていないと今にも弾け飛びそう。

 震える両手を胸の前に掲げ、柏手を一つ打ち鳴らす。


 火之迦具土神が轟音と共に地を蹴り、建御雷神へと突撃する。その行手に数十の炎が燃え上がり、プラズマナイフに姿を変えて青い鎧武者めがけて降り注ぐ。

 

 九条君が日本刀を瞬時に払うと、流れるように走った建御雷神の刀が全てのナイフを弾き返す。唸りをあげて飛来したナイフが火之迦具土神の装甲に一つ残らず突き立つ。

 その衝撃の全てを無視して、左腕の荷電粒子砲を槍みたいに突き出す。

 砲口が捉えるのは建御雷神の胴体、電光が輝く装甲の裂け目。

 循環する爆発的な神性が大気を構成する粒子を加速し、砲身の内部に膨大な量のプラズマが膨れ上がる。


 目を見開いた九条君の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。建御雷神が防御の構えをかなぐり捨てて、長大な刃の切先を火之迦具土神の祈願炉めがけて一直線に突き込む。


 紅蓮の炎と青い雷──二つの神性の光が交差する。

 模擬都市を包む一瞬の静寂。

 次の瞬間、衝撃音と破砕音が同時に轟く。


 放たれた荷電粒子の光が建御雷神の胸を穿ち、内部の金属を溶解させて瞬時に背中までを突き通す。同時に走り抜けた青白い刃が火之迦具土神の胸に突き立ち、内部の祈願炉を深々と刺し貫く。

 

 建御雷神と火之迦具土神が同時に動きを止める。二体の供骸は一度だけびくりと機体を痙攣させ、重なり合うみたいにして地面に倒れ込む。

 呆然と見つめる僕の前で、青と赤の装甲から神性の光が噴き上がる。

 観客たちからどよめきの声。あふれた光は一瞬だけ雷と炎の姿をまとって揺らめき、細かな粒子に溶けて周囲の結界に吸い込まれ──


「……では、そろそろ良いかね?」


 耳元で、聞いたこともない誰かの囁き。

 模擬都市を区切る透明な結界が、墨を垂らしたみたいに真っ黒に染まった。


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