絢爛怒涛の競技祭⑤
「さあッ! 春風吹きすさぶ決戦の舞台となりましたここ高天原地下第一層! 大安吉日のめでたき日に集いましたる若人、十二チーム四十八名ッ! 今まさに! 決戦の火蓋は切られようとしておりますッ!!!」
うおおおおおお、というどよめきが競技祭会場を激しく揺らした。
ぽかんと口を開ける僕の頭上、青空いっぱいに大写しになった生徒会席で、中臣書記はいかにも繊細そうな手をぐぐっと力強く握りしめた。
「試合は四人一チームのバトルロイヤル形式! 各チームは三メートル級供骸一体を保有して戦場へと突入します! 勝敗はポイント制! 他のチームの供骸を一体撃破すれば一ポイント、逆に自分の供骸を撃破されればマイナス一ポイント! 最後のチームが残るまで戦い続け、最もポイントの多いチームが勝者となります!」
すらすらとものすごい早口でルールを解説する中臣書記。すごい。めちゃくちゃなテンションでまくし立ててるくせに発音自体ははっきりと丁寧で、何を言ってるかが完璧にわかる。
「さて、早速ですが舞台の準備が整ったようです。みなさま、ご唱和ください! ──選手入場ッ!!!!」
会場中から響く怒号と共に、入場ゲートの鳥居を塞いでいた半透明の結界が解除される。
賀茂君たちと歩調を合わせ、鳥居をくぐって模擬都市に足を踏み入れる。
途端に、肌に触れる空気が変わる。
安全対策のために施された様々な神術が、目の前をまっすぐに伸びる幅広の車道や立ち並ぶビル群の隅々にまで張り巡らされているのを感じる。
降り注ぐ陽光に空間が時折揺らいで、車道と歩道を隔てる透明な壁の存在をあらわにする。一見すると開放感にあふれたこの模擬都市は実際には無数の結界によって「出場者が動き回るエリア」と「観客が動き回るエリア」に複雑に区切られている。
この結界は全体としては模擬都市の真ん中から放射状に広がってるんだけど、やたらと複雑でとても覚えられない。というか、競技の途中で戦況に応じて形が変わるらしいから、細かいところは作戦室のみんなに上から観測してもらって把握するしかない。
通りの先の公園でりんご飴を舐めていた小さな女の子が、興味津々っていう顔でこっちを見つめる。
なんとなしに手を振ってあげると、きゃっ、と歓声を上げた女の子がお父さんとお母さんの背中に隠れてしまう。
「これより、出場者には十分間の初期配置時間が与えられます! この間、公平を期すために選手の状況は一時的に皆さまには視認できなくなります! それぞれのチームがどのような戦略を取るのか、どうぞご期待くださいッ!!!」
中臣書記がハイテンションに叫んだ瞬間、模擬都市を外から覆う結界と内部に張り巡らされた結界、両方の表面に複雑な紋様が浮かび上がる。
さっきの女の子が僕たちを見失ったみたいで、不思議そうにきょろきょろしてる。
ここからの十分間、僕たちの姿は観客からも他のチームからも、作戦室にいる仲間からさえも見えなくなる。この時間を使って僕たちは供骸に神を卸し、式神や符術を準備して試合の開始に備える。
「……それじゃあ始めようか。陽真君も宗一郎君も彩葉さんも、手順は頭に入ってるよね?」
「もちろんですわ」
「よし、やるか!」
「うん!」
四人それぞれにうなずき、前もって相談しておいた作戦通りに動き始める。
頭上の遠くには立体映像の巨大なスクリーン。
中臣書記が相変わらずのテンションで声を張り上げる。
「──ここで競技祭の舞台について確認しましょう! 模擬都市演習場は直径一キロメートルの完全な円形。地上の一般的な都市を模倣した構造となっています! 昨年度に十五年ぶりの改修が施され、新たな姿となって初のお目見えとなりますが──解説の押見副会長、どうでしょうこの新たな戦場はッ!!!」
「素晴らしいですわね」
隣の席に座った押見副会長がたおやかに微笑み、
「複雑化した街路の配置に加えて、高層ビルと低層建築を適度に織り交ぜた最大六十メートルの高低差。奇襲や狙撃の機会は格段に増していると言えますわね」
「的確な分析ありがとうございますッ!!」
テンションを一切落とさず叫ぶ中臣書記。
その顔がぐるっと生徒会席の端っこを向き、
「さて! 昨年度と言えば、みなさまご記憶にございますでしょうかッ! 新入生歓迎競技祭の歴史始まって以来の快挙! 試合開始早々に仲間の供骸をことごとく撃破されて最後の一人となりながらも、その圧倒的な神術と卓越した戦術眼で並み居る上級生チームをことごとく薙ぎ倒した彼女の姿を! 前回大会覇者、現生徒会執行役員、氷川夏乃のあの勇姿を────ッ!!!」
立体映像の視点がぐるっと移動して生徒会席の端っこを映す。瞬きした先輩がカメラ目線でにこやかに手を振る。
たちまち会場中から湧き起こる歓声。
中等部の女子生徒たちが先輩の顔を手描きした旗をぱたぱたさせてる。なんであんなの用意してるんだ。
「氷川執行役員! 出場者の皆さまに一言お願いします! 特に、一年生にアドバイスを!」
「これは困ったね。アドバイスと呼べるほどのものはないのだけど」
くすっと笑った先輩が長机に軽く頬杖をつき、意味ありげな流し目で、
「そうだね。みんな、目先の勝ち負けに捉われず、正々堂々と競技祭を楽しんで欲しい。大切なのはどう勝つかじゃなく、どう戦い、どう自分の最善を尽くすかなんだからね」
「含蓄のあるお言葉です! まさに覇者の余裕!」
ハイテンションで叫んだ中臣書記が一つ咳払いする。
スクリーンに大写しになる「拾」っていう文字。たぶん数字の「十」のことだと思う。
中臣書記が握りしめた小さな拳を天高くに突き上げ、
「さあ! いよいよ試合開始の時間となります! 皆さま、どうぞ盛大なカウントダウンを! ──十! 九!」
スクリーンの文字が「捌」「漆」「陸」って切り替わる。
僕はハリボテの高層ビルの中、窓の陰で神符を握りしめて息を殺し、
「試合開始──ッ!!」
全ての結界に浮かんでいた紋様が同時に消失する。
会場全体に鳴り響く大歓声。
その声が戸惑ったみたいな囁きに変わるのに、長い時間はかからなかった。
「これはどぉしたことだァァァァ!!! いない! 各チーム、模擬都市内に姿が見えませんっ──!!!」




