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お前なんか好きなわけねぇだろが!

作者: アイス
掲載日:2026/03/18

 俺、泉京介には一つ悩んでることがある。最近、女友達の中川花奈が気になるってことだ。

 はなとは中一から知り合って高一になった今までずっと仲良しの友達だった。今まで友達としか思ってないのに、一週間前から花奈のことが気になり始めた。


「いやいや、ありえないだろ。あいつのことが好きなんて」


 これはきっと何かの勘違いのはずだ。多分明日になればこんな気持ちなんて跡影もなく消えるだろう。

 と思っていた中、黒板の前の女子グループの中で誰かが俺に手を振った。長い茶髪と白い皮膚。遠くからでも見える大きい瞳と通った鼻筋。どう見ても花奈だった。

 花奈の存在を確認した俺は慌てて顔を逸らした。なんか照れ臭かったからだ。


 一週間前までは普通に挨拶したのに、今はなぜか普通に挨拶できなかった。


「お前ガチであいつのことが好きなのかよ」


 自分自身に問いかけた。返ってくる返事はやっぱ「そんなわけあるか」だった。


 客観的に花奈は可愛い方だが、あくまで客観的な視点にすぎず、俺のタイプではない。強いて言えば、花奈よりあいつの隣の山田さんが俺のタイプに近い。山田さんは花奈と違って静かでクール系の美少女である。それに対して、花奈はうるさくて性格も悪い陽キャである。


「かといって俺が山田さんのことが好きってわけではないが」


 今好きな人はいなかった。山田さんはタイプに近いだけで、別に好きってわけではなかったし、花奈はただの友達だ。だから絶対に好きなわけ・・・


「あいつ誰と話してるんだ」


 チラッと見た花奈は知らない男子と話していた。一体何を話しているのかわからないけど、とっても楽しそうだった。


「あら、今なんか胸が」


 一瞬だけど、胸の奥がぎゅっと締め付けられる感じがした。なんだろう、この感じ。

 この得体の知れない痛みに、なんか機嫌が悪くなった。


「気にするな。あいつが誰と話そうと、関係ないだろ」


 俺は気にせずに窓の外を眺めた。

 しかし花奈が他の男子と話す姿が思い浮かんだ。


 気にするな。どうでもいいだろ。


 と何度の言い聞かせるが、無駄だった。

 結局、俺は席から立ち花奈のところへ歩いていった。


 これは別に花奈のことが好きだからじゃない。そう。ただあいつに言いたいことがあるだけだ。ただそれだけなんだ。あいつが好きだなんて、絶対ありえないから。


 と自分に言い聞かせながら花奈に近寄って行った。花奈の背後に立って名前を呼んだ。


「おい、花奈」


 俺の声に花奈は振り向いた。


「京介! なに」


 透き通る声と明るい笑顔。

 かわいいぃ・・・わけねぇだろ!


 危うく可愛いと思うところだった。俺は気を取り直して言葉を継いだ。


「昨日の宿題見せて」

「やってないの? もー仕方ないね。机にあるから持っていって」

「どこにあるのかわからないから、一緒に行こう」

「私今忙しいけど」

「どうせ、おしゃべりするだろ。それあとでしろ」

「わかったよ」


 花奈はため息を吐きながら答えた。

 そうして俺は花奈と一緒に花奈の席に行った。花奈は自分の鞄からノートを取り出して渡した。


「授業前にはちゃんと返して」

「わかった。っつかお前あそこに戻らないの」


 花奈は席に座って立たなかった。


「もうすぐホームルーム始まるから」

「そっか」


 思わず安堵のため息が出た。


「じゃこのノートは後で返す」


 そう言って俺は俺の席に戻ってきた。俺は席に座って花奈のノートを机の引き出しに入れた。


 実は昨日の宿題やってきた。つまり花奈のノートなんて最初から要らなかった。でも花奈をあいつから引き離せてよかった。・・・ちょっと俺、何言ってるんだ。よかったなんて。まるで花奈のことが好きみたいなこと言いやがて。

 はっきりしろよ。俺は花奈のこと好きじゃない。そんなこと絶対ないから。


***


 花奈のことが気になり始めたのは一週間前からだった。

 いつもと変わらない帰り道。俺は花奈と並んで道を歩いていた時だった。その日、俺はカッターナイフで指を切って傷がズキズキしていた。


「痛ぇな」

「痛い? あんた怪我でもした?」

「カッターで指切っちゃって」

「えっ?! ちょっと」

「な、なにをっ」


 花奈はいきなり俺の手を取ってじっと見た。そして指の怪我を見て眉間に皺を寄せた。


「ひどいじゃん! なんで絆創膏貼らなかったの」

「持ってなかったから」

「もーあんたってほーんと子供だね」

「は?! 子供じゃねぇよ」

「どうせ血も適当に吸ってたでしょ」

「そりゃハンカチとか持ってなかったから」


 俺の言葉に、花奈は顔を横に振りながらため息をついた。なんかバカ扱いされた気がしてちょっとむかついた。だが、俺が何か言う前に花奈が先手を打った。


「ちょっとそのまましてて」


 そう言って花奈は自分の鞄の中を探り始めた。


「あ、見つけた」


 花奈は自分の鞄から絆創膏を取り出した。


「手出して」

「いや、絆創膏要らねっ」

「早く」


 花奈の鋭い声に、俺は大人しく手を出した。花奈は俺の手を握った。そして傷に絆創膏を貼り始めた。


 柔らかい・・・。

 そういや、こうして花奈と手を握るのは初めてだな。花奈が指を動くたびに、柔らかくて暖かい感触が俺の手に触れてなんか変な感じがした。


 なんだこの感じ。胸がザワザワする。


 こんなこと初めてだった。さっきから心臓が高鳴って顔が熱い。なんだろう。

 そう混乱に陥っている最中、花奈の声が耳に入ってきた。


「よし。できた」


 花奈の声に、俺は自分の手を見下ろした。傷のある薬指に可愛いキャラクターが描かれた絆創膏が貼ってあった。


「次から気をつけてね」


 花奈の声に、俺は顔を上げて彼女の顔を見た。明るい笑顔と細くなった目。


「可愛い・・・」


 いやっ、ちょっとお前今なんて。

 俺は慌てて口を塞いだ。幸い、花奈には聞こえないようだった。


 いや、今それはどうでもいい。お前正気かよ。可愛いなんて。あいつは花奈だ。可愛いわけねぇだろ。


 そう自分に言い聞かせている間も、心臓は早鐘のように打っていた。


「おーい、京介。そこで何してんの。早く来なよ」


 いつの間にかあそこまで行っていた花奈は振り返って大きく両手を振った。俺はそんな花奈を見て心の中で思った。


 そう。これは好きとかそういう気持ちじゃない。ちょっと頭がどうにかなっただけなんだ。だから、あいつを見て可愛いと思うことなんて二度とない。


「早く来ないと置いていくわよ」

「今行く」


 俺は花奈の方へ足を運んだ。

 俺が花奈のこと好きになることなんて、絶対ない。と心に決めた。


 しかし真の問題は翌日にやってきた。

 翌日。学校に登校した俺は、席に座って教室の中をキョロキョロ見回した。


 あいつはまだか。


 まだ登校してないのか、花奈の姿が見えなかった。

 いつもこの時間に登校してたのに、なんか今日は遅いね。何かあるのか。連絡してみようか。


 俺はポケットからスマホを取り出した。花奈にメールを送ろうと思った。『いつくるの』と打って送信ボタンの前で、手が止まった。


 これ送ってもいいんか。

 ぶっちゃけ、あいつがいつ来たってどうでもいいだろ。あと、これ見てあいつが変に思っちゃどうするんだ。「まさかこいつ私に興味あるのか」って。それだけマジで嫌だな。気持ち悪い。やっぱり送らない方が・・・。


 と思って俺は送信しかけたメールを消そうとした。しかし


「あっ! 送っちゃった」


 指が滑っちゃってうっかり送信ボタンを押してしまった。あまりにも戸惑ってついスマホの画面を消してしまった。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 あ、とりあえず取り消しを。


 俺は再び画面をつけてメールを取り消そうとした。だが、俺が送ったメールの横にあってはいけない文字があった。


「よ、読んだ?!」


 メールの横に既読がつけていた。


 やばいやばいやばい。


 もう既読したのに、今更取り消すのも変だ。どうしよう。

 なんか恥ずかしくて顔が爆発しそうになった。俺はスマホをポケットに入れて窓の外を眺めた。


 忘れよう。考えるな。


 外の風景を眺めることで現実逃避しようとした。しかし、俺の努力は通知音によって台無しになってしまった。


 誰だろう。


 俺はスマホを取り出して画面をつけた。そして通知を見た瞬間、目が大きくなった。花奈からのメールだった。


『前を見て』


 そのメールに思わず顔を上げて前を見た。黒板の前でスマホを見てる花奈の姿が見えた。それと同時に、またスマホの通知音が鳴った。今度も花奈からのメールだった。


『そんなに私に会いたかった?』


 は?! そんなわけねえだろ!

 と返信しようとした瞬間、声が聞こえた。


「京介おはいよう」


 花奈の声に、俺は思わず顔を向けた。花奈は明るい笑顔を浮かべて前に立っていた。


「お、おはいよう」


 俺は花奈に挨拶した。いつもならこれで花奈は自分の席に戻るはずだが、なぜか花奈はじっと立って席に戻らなかった。


「な、なに。俺に何か言いたいことでもあるんか」

「いやぁ、別にぃ」


 気持ち悪い笑顔。きっと、メールのことで揶揄う気満々だろう。

 俺は花奈を見返しながらゴクリと唾液を飲み込んだ。しかし、花奈は何も言わずしばらくじっと俺を見つめた。そしてニヤリと笑い自分の席に戻った。


「なんだ。あいつ」


 俺はきょとんとして花奈をじっと見つめた。そんな中、また通知音が鳴った。また花奈からのメールだった。


『寝坊しちゃった』

『だからちょっと遅くなっちゃった』


 なんだ。寝坊しただけか。よかった・・・いや、よかったじゃねえだろ。お前は何安心してるんだ。

 

 理由を知って安心する俺にムカついた。

 あいつのことなんてどうでもいいはずなのに、何安心してるんだ。


 この日からだった。自分の心が思い通りにならなかったのは。この日から俺は花奈のこと意識し始めたのだ。


***


 夏休みになって花奈に毎日合わなくなった。そのため、花奈のやつを意識することも減った。


「そう、俺があいつのこと好きなわけねぇだってば。ただの勘違いだっただけだ」


 そう独り言を呟きながらゲームをしている最中、スマホが鳴った。花奈からの連絡だった。俺はゲームを一時停止して内容を確認した。


『やっほ〜』

『今何してる』


 花奈の連絡に俺は『ゲームしてる』と簡単に返事した。すると10秒も経たずすぐ返事がきた。


『またゲーム?』

『そんなことより今日予定ある?』


 今日か・・・予定とかないが。

 『多分ゲーム』と俺は返事した。


「・・・返事がないな」


 既読はついているのに返事がこなかった。

 なんでそんなの聞いたんだろう。

 俺はスマホを机に置いてまたゲームに夢中になった。次のクエストを進行してラスボス戦の途中、またスマホを鳴った。


「誰だ。こんな時に」


 こんな時にメールが来るなんて、イラついた。誰なのか確認だけして返事は後でしよう。と思って通知を確認した。花奈という二文字が目に入った。その瞬間、俺はすぐにキーボードから手を離してメールを確認した。


『今夜一緒に祭り行く?』


 祭り? そういえば今日祭りがあるってどこかで聞いた。

 多分他のやつも一緒にいると思うが、でもあいつと一緒に祭りか。


『いいよ』


 と俺は返事した。その瞬間、いきなりパソコンのスピーカーから苦しめる声が聞こえてきた。


 あ!


「ちょっと、ゲーム」


 気づいたら、画面には俺のキャラが力なく倒れていた。


「花奈こいつが」


 ここまで三時間かかったのに。

 花奈のやつのせいで、俺の三時間が。俺の努力が。


「マジで役に立たないやつだ」


 ほんと邪魔者だ。俺がそんな花奈のことを好きになることは絶対ない。


 そして夕方。俺はなんとなく、花奈と約束した場所に十分早く着いてしまった。俺は花奈にメールを送った。


『俺着いた』

『いつ着くの』


 メールを送ってスマホをポケットに入れようとした瞬間、スマホが振動した。花奈から返事が来ていた。


『今』


 今? どういうことだ。

 花奈の返事を読んで周りを見回した。どこでも花奈の姿は見えなかった。


「今って言ったのに、一体どこに」

「京介」


 この声は。

 花奈の声だった。声がした方へ顔を向けた。

 ピンク色の浴衣を着た花奈の姿が目に入った。


「花奈・・・?」


 浴衣のせいか俺の知ってる花奈とかなり雰囲気が違った。いつもと違って髪もアップにして、なんかいつもより清楚だった。


「京介早く来たわね。っつかなにぼーっと立ってるの」

「・・・ん? あ、なんでもねぇ。早く行こう」


 俺は視線を避けて祭り会場へ足を向けた。


「何よ。一緒に行こうよ」


 後ろから急いでついてくる花奈の足音が聞こえた。だが、俺は花奈を待ってくれなかった。だって花奈のやつが近くいたら、今俺の心臓の音があいつに聞こえる気がしたから。


 そのあと、ちょっと落ち着いてから俺と花奈は祭りを回った。屋台がたくさん並んでいて、焼きそばやたこ焼きなど色々食べた。


「甘いっ。やっぱりんご飴最高」


 あんなにいっぱい食べたのに、花奈はまだ足りるのか、りんご飴を美味しそうに食べた。

 俺はりんご飴あまり好きじゃないけど、まだまだ食べれるなんて。すごいと思うくらいだった。


「そういえば、他のやつらは?」

「え、他のやつ? どういうこと」


 花奈はきょとんとした顔をした。


「まさか他のやつは来ないのか」

「そもそも京介だけ呼んだから」


 ちょっと理解できなかった。てっきり俺だけじゃなく他の奴らもくるんだと思ってたのに。俺しか呼んでないって?


「何その反応。私二人きりはいや?」

「そういうのじゃないんだが」

「あ、京介あっち見て」


 突然花奈は前を指さした。そこには人がいっぱい集まっていた。


「もうすぐ花火始まるみたい。早く行こう」


 花奈は俺の手を引いて、人混みの中へ入っていった。人混みをかき分けて歩いていると、花火が打ち上がる音が聞こえてきた。花奈は足を止めて、花火を見上げた。そして振り返り、俺に向かって笑いながら言った。


「綺麗だね」


 明るい笑顔を浮かぶ花奈。


 可愛い。・・・これはもう認めるしかねぇ。


「あ、これ京介も一口食べる」


 いきなり花奈はりんご飴を差し出した。俺は静かに、半分ほど残ったりんご飴を見つめた。


「あ、京介りんご飴あまり好きじゃなかったんだよね。ごめん」


 そう言って花奈がりんご飴を引っ込めようとした瞬間、俺は花奈のりんご飴を一口食べた。びっくりした顔で俺を見つめる花奈。


「いや、好き」


 今日に限ってりんご飴の甘みが心地よかった。

 今まで必死に否定してきた。何度も否定し、絶対あり得ないことだと自分に言い聞かせてきた。だが、花奈の笑顔一つでその全てが無駄になってしまった。

 もう認めるしかない。


 俺は花奈のことが好きだ。

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