ワザと醜い令嬢をしていた令嬢一家は華麗に亡命する
久し振りの短編です。よろしくお願いいたします!
「本日をもって、この俺様フェルナン=ケルリールとアメリア=キートウェル侯爵令嬢と婚約を破棄する‼」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど、私と婚約破棄ですか?私は構いませんよ?
「俺だって鬼じゃない。キートウェル侯爵と侯爵夫人は美男美女。その娘であるアメリア嬢もいつかは美しくなるだろうと思ってきたが、もう限界だ」
私はその言葉を聞き、顔に手を当て素顔を晒すことにした。宰相閣下であるお父様の許可は予め取ってある。
魔法でワザと醜くしていた容姿をやめ、全くの素顔を晒すことにした。
「王城の入り口は魔法で作った容姿では通れないんですよね?では、私はこれからその場に行って参りますね」
「ああ、その洗練された容姿だって俺様に捨てられそうになって慌てて魔法で作りだしたものだろうから」
私は王太子様の従者を1人お借りして(証人)、王宮の入り口へと行くことにした。
「そんなまやかしでの容姿などフェルナン様には通用しないぞ?」
「……」
私は王城の入り口を通過した。当然です。魔法を解いて、素顔になっただけですから。
以前から幻の美女のウワサはあったのです。
それは私が王城の入り口を突破するために魔法を解いている時の素顔を見た人が広めたものでしょう。
「フ…フェルナン様…アメリア嬢はあの顔が素顔のようです。いつもの顔が作った顔のようです」
そうよ。王太子として人を見た目で判断するか否かを私が判断するためにあの容姿だったのよ。あの容姿はお気に召さなかったみたいだけど?
「ちょ、ちょっと待て!悪かった!アメリア‼婚約破棄は取り消す」
「あら、国のトップに立つようなお方が簡単に自分の非を認め、自分の発言を取り消すなんて都合が良過ぎると思いません?婚約破棄は取り消されませんよ?今頃宰相閣下である我が父が婚約破棄に向けた書類を作っている事でしょうね。その書類には、王太子殿下が今まで私に数多くの仕事を押し付けてきたことなんかも書いてあることでしょうね。殿下の有責による婚約破棄ですもの。慰謝料はいかほどになるのか楽しみですわ。では、この城に私は用がありませんし、キートウェル侯爵家に帰らせていただきますわ」
私は今まで王太子妃候補として王宮暮らしだったので実家に帰れることは本当に嬉しい。
~実家にて
「「「アメリア―‼‼‼」」」
「婚約破棄されたというのは本当なのか?」
「こんなにかわいいアメリアの何が不満なんだ?」
「落ち着いてくださいお兄様方。魔法でワザとに容姿を悪くして婚約をしていたのです。能無しの王太子と縁が切れたことにサッパリですよ」
「能無しとか不敬だからな…」
「あら、大好きな家族の前だから大丈夫かと思っていましたわ」
柱の影からおずおずとこちらを窺っているのはジーン?可愛い‼
「ジーン?こちらにいらっしゃいな。ちょっと会わないうちに、成長したのね」
大興奮のお兄さまたちとは一旦離れ、久しぶりにお母様に会う事となった。
「噂というのは光の速さなのかしら?私のアメリアがあの阿呆王子に婚約破棄をされたという話は既に耳に入っているわよ?」
お母様、怖いデス。その手に持っている扇子はメキメキいって今にも折れそうですし、笑顔でも青筋が見えるというか……。
「王子のことはクソも想っていなかったからいいのです。アラいやだ、言葉遣いが……。それよりも慰謝料いくらもらえるかなぁ?とかそっちの事を考えているくらいです」
「それでこそ、私のアメリアよ!言葉遣いがどうしたの?家の中だからいいのです。これが家の外なら大問題でしょうけど、家の中なら問題はありません。阿呆王子と言おうが、能無し馬鹿王子と言おうがいいのです。事実ですし。王宮にいた頃、王子の執務業務までアメリアがしていたのでしょう?」
「はい、まぁ……。量から考えて、王子の取り巻きというか将来の側近になる人(?)の分まで私がしていたかと思いますよ?そう考えると、恐ろしいですね。将来のこのケルリール王国のトップたちは能無しばかりですよ?」
「そうねぇ、お父様になんとか考えてもらいましょうか!」
「はい‼」
家に帰ってきたお父様はとっても憔悴していた。尋常じゃない。
「お父様?どうしたんですか?」
「王子が「アメリアがこなしていた書類をやるのが親の務めだ!」とか言いだしてなぁ」
自分の書類は自分でするのがその人の務めなんですけど?
「お父様が王子やらその取り巻きの人の書類まで処理してたんですね。だからこんなに遅くの時間に」
「俺は定時に帰宅して家族の顔を見るのが癒しだったんだよ~‼ジーンなんかもう寝ちゃっただろう?むしろ寝てないとおかしい時間に帰宅だからな」
「そんなあなたにご相談が。アメリアの話にもあったように次代のケルリール王国のトップはみーんな能無しばかりみたいなんだけど、打開策ってあるのかしら?」
「それがあったら苦労はしない。俺だって定時に帰宅できるってもんだ。幸いというかなんというか、キートウェル侯爵家には領地がないだろう?いっそのこと、家族一同今のうちに他国に亡命するのがいいと思うんだよね。恐らく、能無したちが実権を握るようになったら、簡単に亡命できなくなるだろうし」
「税収ですか?」
「さすがはアメリア‼アホボンたちが豪遊するためには税金が必要だからな。そのためにも領主たる貴族の流出を防ぐはずだ」
「アホボンは豪遊するためには頭が働くのねぇ。普段は空っぽなのに」
こうして我が家は他国へと亡命する方向で動くことになった。私は王太子殿下に婚約破棄されたキズモノですしね~。釣書は毎日たくさん来ますけど?最後に見せた素顔が衝撃的だったのかしら?
我が家に来た釣書はお兄さまたち厳選の元、早急に処分されています。
「こいつは女癖が悪いって噂があったな」
「こいつは美女好みだけど、本人が美男じゃないんだよなぁ」
「こいつは騎士として、騎士道踏み外したぞ?人間としてダメじゃないのか?」
などとほぼあら捜しの様相を見せていますが、私はこの国の男に興味がないので構いません。
本日は家族会議でどこに亡命するかを決める。
「俺はトップがバカボンじゃないところがいい」
「そうだなぁ、アホボン達の相手はもう疲れた…」
……お父様。
「我が家のウワサをあまり知られていないところが良いのではないでしょうか?」
「「「おお、さすがアメリア!」」」
バカボンとかアホボンとかかなりの確率で出てきます。
「あなた、そんな国に心当たりある?」
「西にある、島国ならもしかしたら…だなぁ」
「島?海?海なの?」
「こらこら、ジーン。遊びに行くんじゃないんだぞ!」
「ジーンは生まれて初めての海かしら?興奮も仕方ないじゃない?」
私も初めてなんだけど、いまさらはしゃげない……。ジーンでさえ諫められたのに……。もしかして、お兄さまたちもかしら?と顔を見るとなんだか3人ともうずうずしているような顔をしている。
「とりあえず、その国に書状でも送って様子を伺うのはどうだろう?視察目的で来ました。から、居ついちゃった。みたいな感じにできないかな?」
「うちの使用人達はどうしましょう?」
「紹介状を持たせて、縁のある貴族の邸を紹介しよう」
「ボビーは一緒がいいな」
「「「ジーンはボビーの料理が好きだからなぁ」」」
「ボビーだけ視察に同行していただきましょうか?」
「わーい!やったぁ!」
ボビーも海の生き物を料理するのは初めてじゃないのかなぁ?
お父様は王宮から出しました風に西の島国へと書状を送りました。返事は我が家に来るんだろうか?間違って王宮に届いたとしても、宰相であるお父様が目を通してから陛下の手元に行くだろうからその辺は安心ね。
西の島国は名前をリングライド王国といい、非常に王家が国民に人気のある国だという事がわかった。
他国と貿易をしていないわけではないけれど、情報が少ない!
海を越えて行かないといけないらしい。
船に乗らないといけないの?それも生まれて初めてなんですけど。
あんな鉄の塊が浮かぶってところから、驚きよねぇ。
船は酔うらしいから、酔い止めが必要みたいだけど、酔うってお酒に酔うみたいなものかしら?
リングライド王国に入国当初は‘視察についてきました家族風な装い’をしなきゃよね。
亡命となると、侯爵家ではなくなるでしょうから、平民になるのかしら?料理担当にボビーがいるけれど。ジーンがお気に入りだもんね。
お兄さまたちにも目的があるらしい。
長兄ケビン兄さまは文官をリングライド王国でも目指したいようで、どうすれば文官として働くことが出来るのかを調べる様子。
次兄ルース兄さまはケルリール王国にいた頃から騎士団所属したかったようで、それでもアホボンに忠誠は誓えないと非常に悩んでたけど、リングライド王国の騎士団に所属するにはどうすればいいんだ?と調べる模様。
末兄リアム兄さまは……実はボビーに師事しているようで、コツコツと料理を勉強している。ジーンが連れて行くってワガママ言ったけど、本当はリアム兄さまがボビーと一緒に行きたいんじゃないかなぁ?なんて思ってる。
末っ子ジーンは亡命することの意味わかってるのかな?観光じゃないよ?
私がキズモノだという事は広まっているんだろうか?王子が馬鹿王子だという噂の方が広がっていてほしい。
リングライド王国は情報収集能力に優れているようで(こっちはリングライド王国の事知らないのに)、私がキズモノだという事もケルリール王国のトップが結構な鳥頭だという事もほぼ筒抜けだった…。
私達一家は着いてすぐに王城に招待された。家族一同(ジーンを除く)かなりの不信感だった。だって…ねぇ?
「私はこのリングライド王国を統治しているテンラント=リングライドだ。諜報部からの報告によると、ふむふむ、令嬢はケルリール王国の王太子に婚約破棄を言い渡されたと。容姿を理由に」
「あ、醜くしていたのはワザとでございます。王太子殿下の為人を知るためには必要かと思いそのようにしていたのです。しかし…王太子殿下は私に色々と書類の処理をさせるなどしていました。それは王太子だけではなく、王太子の取り巻きである子息が処理するべきものも私が処理しなければならない状態で……。これではケルリール王国もこの先がないと見越し、早くも亡命をしようと家族一同やってきました(ボビーもいるけど)」
「ふむ、調書の通りだな。本当にあの国は大丈夫なのか?次代を担うはずのメンツがそのような体たらくでこの先大丈夫なのだろうか?心配になる其方たちの気持ちはわかる」
「はい!私はケビン=キートウェルと申します。どのようにすればこの国で亡命してきた私のような者が文官の仕事につけるのでしょうか?」
「優秀だったらいいよ~」
あっさりしてるなぁ。
「はい!私はルース=キートウェルと申します。私は騎士団に入りたく思います。どのようにしたらいいのでしょう?」
「え~?強ければいいよ~」
経歴とかは?
「あ、そうそうアメリア嬢。うちの王太子の婚約者になる気ない?結構優良物件だと思うよ?文武両道でモテモテだけど、そう簡単に靡かないって有名だし、どう?」
「対面してみない事には……」
リラグラン王太子殿下と対面して驚いた。超イケメンだ。我が家でイケメン慣れしてるはずなのに、イケメンだと思ったから相当だと思う。
「ごめんなさい。見惚れちゃって……。アメリア=キートウェルと申します」
殿下の方も私に見惚れていたと後で聞きました。
「あ、俺はリラグラン=リングライドだ」
お兄さまたちもこの方なら何も言えまい。事実何も言えなかったみたい。
私はまた王城暮らしをすることになったし、王太子妃教育も受けなきゃいけなくなったけど、殿下がとてもよくしてくれるので何も苦じゃないです。
お父様は優秀だからいきなり伯爵の爵位をいただきました。あと、家とかなかったけど、王都内にあるけど使っていない王家の別邸を賜りました。
リアム兄さまはボビーにしごかれています。それでも実家では毎日ボビーの料理が食べられるようです。ボビーは昔いろんな国を巡って修行の旅をしていたらしく、海の生き物の料理も苦じゃなく素晴らしい!と、王城の騎士団にきたルース兄さまから聞きました。
リラグラン殿下は将来的に王妃は私一人と言ってくれているし、今が幸せです。
余談:ケルリール王国は世代交代の後に予想通りの動きを見せて、国内で税率は上がるし、疫病は流行るし……ただ衰退するだけではなく本当に滅亡してしまいました。王たる者、民を守らないといけないですよね。
私と殿下の間には御子が3人生まれました。現在も私は妊娠中です。私は幸せです!
後悔しても後も祭りですよね~。
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