第七話 額装輪廻
「鈴や鈴 鈴の苧環繰り返し 昔を今に為す由もがな──」
祖父が亡くなって蔵の整理を手伝っていた僕は、木箱の表書きに書いてあった文字を読み上げて首を傾げた。
蔵の中は風通しが悪く、じっとりとしている。僕はシャツの長袖をまくりあげながら、近くで作業していた母に声をかけた。
「なんこれ? しずやしずじゃないの?」
「ああ、それ見ちゃダメなやつ」
「いわくつきってやつ?」
蔵の外から母を呼ぶ声がする。「はーい」と母が出ていくのを確認してから、僕はそっと木箱を開けた。見るなと言われると見たくなるのが人の性というものだ。
木箱の中は掛け軸らしい。くるくると巻いてある掛け軸を開くと、美人画らしきものが出てきた。すらりとした線の美しさに反して、描かれた女性の顔はあまり美人という感じがしない。
絵の隅に押してある落款に「惟之」とある。この絵を描いた人だろうか。
ふうんと唇を尖らせて掛け軸をしまおうとすると、落款から小さな炎があがった気がした。あわてて手ではたいて火を消そうとするが、熱くはない。
掛け軸をくるくると巻くと、いつからあったのか、中から長い髪の毛がはみ出した。まるで腕にまで絡みつくような感覚があって、僕の背筋を冷や汗が滑り落ちていった。
「うわあ、いわくつきだけあるなぁ」
急いで木箱に納めてふたをする。
箱の表書きの墨が、ふつふつと泡立ったような気がした。
いつの間にか、指に赤黒い蟻がのぼってきている。僕は蔵の外に出て、蟻をそっと外に放した。
──遠くからかすかに、風鈴の鳴る音が聞こえる。