表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第二話 下図因果

「もう描かないでほしいんです」


 目の前にいるお鈴に見とれてぼうっとしていた絵師見習いの少女は、その言葉に耳を疑った。

 少女の素描を元に師が仕上げた錦絵は評判を呼び、今や茶屋には、お鈴を一目見ようとひっきりなしに客が訪れるらしい。お鈴の様子を伝えるたびに錦絵が飛ぶように売れるものだから、版元からも続きを急かされている。


「迷惑してるんです。お願いだから、もう描かないで」


 茶屋の宣伝にもなってよかったではないか。誰でも彼でも錦絵新聞に取り上げられるわけでもあるまいに、描かないでほしいとは──いったい何様のつもりだろうと、少女は訝しげにお鈴を見つめた。

 お鈴はうなじに落ちた後れ毛をなでながら、じっとりと少女を()めつけると、深いため息を一つついて去っていった。

 少女は憤懣(ふんまん)やる方なく、鼻の穴をふくらませて画房の引き戸を乱暴に開け放った。


「お師さん、聞いてくださいよ。さっきお鈴さんが来て『もう描かないでほしい』って」

「なに!? お鈴が来た!?」


 いつもなら絵に集中しているはずの師が、起き上がり小法師(こぼし)のように勢いよく立ち上がった。少女が目を丸くしている間に、師は草履をつっかけて、あっという間に画房(がぼう)から飛び出していってしまった。彩色用の絵皿から、ことんと筆が転がり落ちた。

 一人画房に取り残された少女は、師の描いたお鈴の錦絵を見つめたのち、転がった筆をそっと拾い上げて絵皿に戻した。


 ──せっかくこんなに評判になったのに。


 画房の隅で新しい紙を敷き、先ほどのお鈴を素描する。うなじに手を当ててじっとりと少女を睨みつけたお鈴の姿を、あっという間に紙の上に描き写した。

 横に己の落款を押してみる。いつかこの絵も、市中で評判を呼ぶ日が来るだろう。


「おい、お鈴のやつ、男と会ってやがった。お前ぇ、あれはどういう素性の男か聞いてるかい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ