第7話 買い物
さて、今のアタシの用事はゴブリン関係じゃない。
買い物だ。
この前13万ゴールド稼いだ。
煙玉を補充して、他にも面白そうな物があれば買う余裕がある。
……たぶん今頃ゴブリン族のレヴィは衛兵から尋問されているんだろうな。
世間知らずだと思ったけど、やっぱりちょっとかわいそう。
いずれ『輝ける闇』にレヴィが来るかもしれない。
新しい女性メンバーだ。
ホントうちのリーダー・シオドアは女好きだよ。
まあ、アタシも行くパーティーがなくてウロウロうしていた時に、シオドアに拾われた口だけどさ。
ともかく新入りが来たら、アタシは良い先輩か良い同僚として振る舞わなくちゃいけない。
……いや、良い先輩じゃなくてもいいか。普通でいい。
普通な先輩として振る舞わなくてはいけない。
こんなことを考えるには理由がある。
実はアタシは以前に、後輩の女の治癒術師と揉めたことがあるのだ。
言い訳するけど、彼女と揉めたのはアタシだけじゃない。ネリーや他の女冒険者もだ。
彼女はシオドアにやたらベタベタしていた。彼女にも責任はあったと思う。
もちろんシオドアにもね!
その後、彼女は別のパーティーに行った。そこではうまくやっているらしい。
いろいろすっ飛ばして結論を言うけど、アタシの振る舞いには間違いがあった。
二回連続の失敗は嫌だ。今度はうまくやりたい。
だから今のアタシに必要なのは気分転換。だから買い物なのだ。
まずは道具屋に煙玉を補充しに行く。
そこで馴染の主人に赤い特製煙玉を勧められた。唐辛子の粉が入ってるんだって。
「赤の煙玉はお勧めですよ。敵は唐辛子の粉で咳き込んで、しばらく身動き取れなくなります」
道具屋の主人は営業スマイルで売り込んでくる。
値段はノーマル煙玉は5千ゴールドに対して赤の唐辛子入り煙玉は2万ゴールド。
高っ。
「赤は使い方が難しそうだしね。自分で煙を吸っちゃうかもしれないし、暴発するかもしれないし」
アタシは気がない風を装い、赤の煙玉を手でもて遊ぶ。
「それにスライムとか、スケルトンとか、ダンジョンには息をしない魔物もいるし」
「第五層の多くの魔物には有効だと思いますよ」
道具屋主人の笑顔は崩れない。
第五層の魔物相手か。
戦うよりは逃げる時に役立つかな?イタチの最後っ屁で使えそう。
命が助かるなら高くても価値はあるけど。
「ロイメ市内で使うとどうなるの?」
この前みたいな悪党相手にも使えるかもしれないよね。
「申し訳ありません。ロイメの城壁内部では使えません。ロイメの法律違反です」
道具屋の主人はちょっと申し訳なさそうな顔をした。
それは、価値半減じゃない?
結局道具屋は、半額の一万ゴールドで一つ売ってくれた。
お試し価格ってことらしい。
帰り道、アタシは下町の露店を冷やかしながら歩いていた。
本格的な買い物は、レヴィ含めて次の探索が決まってからにするか。
でも、掘り出し物ないかな〜。
「おいおいぶつかって謝罪もないのかよ」
「慰謝料代わりに何をくれるのかなぁ、こりゃ一応食えそうじゃないか」
いかにも悪そうな声が聞こえてきた。
イチャモン付けてるのは冒険者風の男二人。
イチャモン付けられてるのは、中年のオバサンの振売。
ロイメの下町には露店さえ持てない振売も多い。
彼らは天秤棒で荷物を担いで売って歩く。
そんな振売が悪い冒険者とぶつかったらしい。
どうしよう?
おそらく男達は、振売の売ってる食い物を一つ二つカツアゲすれば満足するだろう。
大事になれば衛兵も来るだろう。
見て見ぬふりをするか、それとも。
アタシは祖父の言葉を思い出す。
祖父曰く「腕力もない、魔術師でもない、ナイナイ尽くしの冒険者が成功する方法は二つ」。
「目立って人気者になるか、あるいは逆にトコトン地味に手堅く信頼される仕事人になるか」だ。
もちろん目立つ方がアタシの性に合っている。
「うわわわっ!!超はず〜!」
アタシはちょっと芝居がかった感じで大声をあげた。
「女相手に男二人がカツアゲしてる〜!」
何人かの注目がアタシに集まる。
「見て見て!!この男達さ〜、振売さんから無料で商品せしめようって魂胆らしいよ〜!」
町行く人々の視線はアタシから男達に移った。フフン。
「良い脚した姐ちゃん、こいつは俺達にわざとぶつかってきたんだよ!」
男の一人がアタシの方を見た。
良い脚って言うのは、アタシがズボンの片脚を切り落として、太腿からふくらはぎまで生足を出してるから。
なんでそんなことするのかって?
そりゃもちろん、目立つためだって。
「荷物担いでるのか弱い女性なんだから、あんたらが避ければいいじゃ〜ん。
最近のお上り冒険者は気が利かないなぁ〜」
よしっ。二人目の男も振売からアタシに視線を移した。
「あー、そっかぁ。ダンジョンで魔物も狩れないから、町で女を狙ってるのね。うっける〜る〜」
男二人は完全に頭に血がのぼったようだ。
煽り耐性低いね。やっぱりお上りさんかな?それじゃ都会でやって行けないよ。
町行く人達も完全に足を止めてアタシ達に注目している。
オシッ。
アタシは絡まれていたオバサンの振売に目とジェスチャーで逃げるように合図をする。とっとと逃げな!
オバサンは天秤棒を担ぐと人垣の後ろに消えた。
最低限の目標は達成した。
ここで捨て台詞を残して俊足で逃げてもいいけど、それじゃつまらない。
アタシは血の気の多い女なのだ。