第61話 それがレヴィの決断
ネリーも含めて、ようやく『輝ける闇』全員の隔離が解けた。
レヴィの家の隔離も解けた。
マデリンさんやケレグント師が大丈夫だと言たので、大丈夫だろう。うん。
「大変だったみたいだね」
久々に顔を合わせたヘンニが言った。
まったくだ。
ヘンニは輝ける闇で唯一、伝染病騒ぎに関わらずに済んだ。
寝ぼけてたヘンニを、早めに家に返したアタシの機転を褒めて欲しいよ。
祭りについてスザナはまだぐだぐだ言っている。これは放置。
さて、第四層ゴブリン族の森の探索精算だ。
魔石はけっこう大きいのが二つ出てたんだよね。
昆虫型魔物で大して強くなかったけど、さすが第四層だ。
両方ともLv3の魔石と鑑定された。ヤッタネ。
Lv3大は180万ゴールド。
Lv3小は130万ゴールド。
この辺りになると石の品質で値段も大きく変わるね。
あと小さいのが一つでLv1で10万ゴールド。
クズ魔石が2個で1万ゴールド。クズの割には値段がついた。
次は、探索の依頼料だ。
依頼人はドケチのロイメ市。
第四層で過ごした1日につき4000ゴールドだって。
4000✖4日で1万6000ゴールド。
第四層の仕事だからかな?
ロイメ市にしては出したね。
ただし第四層までの往復ダンジョン分は、1000ゴールド✖2日で2000ゴールド。
こういうところがドケチって言われるんたよ!
合計1万8000ゴールド✖5人分で9万ゴールド。
レヴィの分は出ないの?おかしくない?
あ、ゴブリン族に話を繋いだ件で、レイラさんとマデリンさんからお礼をもらった。
正確にはレイラさんからだね。
マデリンは借金持ちで、「お金なーい」らしい。
一人頭5万ゴールド✖6人で30万ゴールドだ。
ようやく冒険者らしい報酬になったよ。
合計360万ゴールド。
ここから経費を落とす。
アタシの赤の煙玉は経費になったヨ。
物資は援助してくれたヒトもいたので、思ったほどかかってない。
ネリーの薬代?
魔術師クランが払うに決まってるでしょ!
とは言え、今回は「儲かった」ので『冒険の唄』に礼金を入れなきゃいけないネ。
両方で100万ゴールドってとこかな。
儲かった時の冒険者クランへの礼金はケチるわけにはいかんのよ。
祖父が言ってたよ。
ダンジョンで一番怖いのは、魔物じゃなくて、同業の冒険者の嫉妬だってね。
360万ゴールド−100万ゴールド=260万ゴールド。
260万ゴールド➗6人で、一人の報酬43万ゴールド。
端数の2万ゴールドはパーティー積立金行き。
来たね!冒険者らしい金が!ヒャッホー!
「ねぇ、次は第五層になったりする?
荷運び人雇ったりする?
そしたら、皆でパーティーに出資しなきゃいけないね。
予定次第で、お金の使い道が変わっちゃうよ」
アタシは言った。
金も稼いだ。
治癒術師レヴィも入った。
ここでさらに張り込むのが冒険者パーティーと言うものだ。
「そうだな。久しぶりの第五層を考えている。
議会はレヴィを受け入れる方向で動きそうだ。
あまり公にできないが、魔術師クランが味方になるだろう」
シオドアが言った。
おおっ。
ヘンニもネリーもスザナも頷いた。
その時。
「レヴィは行かないナリ」
突然レヴィが言った。
シオドアの動きが止まった。
アタシ達も止まった。
「レヴィは第五層は行かないナリ。
ごめんなさいナリ」
レヴィはもう一度言った。
「じゃあレヴィはどうするんだい?」
ヘンニが聞く。
「レヴィは東に行くナリ」
レヴィの言葉のあとしばらく静かだった。
「レヴィは東へ行くナリ」
レヴィはもう一度言った。
「なんで!レヴィ!これからって時に!」
アタシは思わず立ち上がっていた。
みんなで第五層でしょ。
これから皆で冒険でしょ。
違うの?
「本当にごめんなさいナリ。
でも、もう決めたんナリ」
アタシとレヴィの目が合った。
レヴィの大きな瞳。
グロテスクで愛らしい緑の瞳。
アタシは止まった。
でも、でも。でも!
なんで今なのよ!
「もしかしてトレイシーさん、泣いてるナリカ?」
「泣いてないよ!馬鹿言わないで!」
アタシは手で目をこする。
泣いてないってば。
そりゃチャンスを逃して悔しいけれど。
後輩が先に出ていくなんて大したことじゃない。
レヴィに見捨てられたなんて思ってない。
「なぜ、今なんだい?
あたし達に説明してくれるよね?」
ヘンニが言った。
「手紙をもらったんだナリ」
「東方エルフ族で、ゴブリン族と関わっているヒトからナリ」
「ケレグント師から渡されたのか?」
シオドアが聞いた。
「そうナリヨ」
レヴィが答えた。
「ちょっとその手紙見せなさい」
ネリーが言う。
レヴィは手紙をネリーに渡す。
「なになに?
『東のゴブリン族では、悲しいことに古い口伝のほとんどが失われています。
500年前の黒死病の時代や、その苦難については語られていますが、それ以前の歴史が空白だらけです。
それを語ってくれるレヴィさんに是非とも来てもらいたいのです。
できることなら早く、来てほしいのです』だって。
あとは、東のゴブリン族について細かいことがいろいろ書いてあるわ。
こんな手紙一つで東へ行くの?」
ネリーは眼鏡ごしにレヴィを見る。
「そうナリ」
「文字から陰キャ臭がプンプンするわ。
この手紙を書いたヒト、頼りにならないかもよ?」
「頑張るナリ」
「新入りなのよ?東で虐められたらどうするの?」
「レヴィは死霊術も使えるし、なんとかなるナリ」
「できることなら早く、って文章はあの巨デブのハイエルフが書かせたんじゃない?」
「レヴィも早い方がいいと思ってるナリ」
ネリーは沈黙した。
「あのさ、あたしは思うんたけど。
レヴィがどうしても行きたいって思うなら、東に行くのが良いと思う。
自分の運命を自分で決められる機会って、そんなにないよ」
奴隷だったことがあるスザナが言った。
分かってるよ、そんなこと。
レヴィは自分で決めたことはやり遂げる女だ。
周りにどんなに迷惑をかけても。
自分の命と運命をかけても。
全てを捨てても。
レヴィは、出られないはずのダンジョンからも出たのだ。
そして、今度はロイメから出て行こうとしている。
アタシ達を置いて。
「それがレヴィの決断なら、僕は支持するよ」
シオドアが言った。




