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第60話 他人の生き死によりも自分の恋愛か

 ネリーはほぼ回復した。

 ほぼというのは、まだ隔離されているからだ。


 一方で、アタシとスザナは一応外出許可が出た。

 マスク着用の上で監視付きね。

 監視は、冒険者ギルドのあの監視屋だ。


 荷馬車に乗って町まで買い物に行ったけど、あれもダメ、これもダメ。

 これじゃ家にいるのと大して変わらないじゃないか!



 で、今。

 アタシとスザナはレヴィの家の庭に穴を掘っている。

 ネリーの看護に使った布やら何やらを埋めるためだ。


 穴には石灰を撒いて消毒してから埋め戻すんだって。


 きれいな庭だったのに、トイレやら今回のやらで、すっかり穴凹だらけになってしまった。

 ごめんね。



 シオドアとレヴィは、ネリーに付いて、まだ隔離だ。


 薬を作り終わったマデリンさんとケレグント師は、二階で寝ている。

 もう三日ぐらいになるけど、ひたすら寝ている。

 徹夜続きだったし、寝かしてあげよう。




 ちょっとスザナ、手が止まってるよ。


「お祭り中止だなんて……」

 スザナは何度目か分からない台詞を言った。


「しょうがないじゃん。

 伝染病を抑え込むためには、お祭り中止が一番有効だって。シオドアも言ってたよ」


 アタシはシャベルで土を掘り返す。

 深く掘れって言われてる。



「でも、ネリーは治ったし、魔術師クランも病気は収まってるらしいじゃないか」


「仮にお祭りがあっても、アタシ達は行けないよ。

 まだ半分隔離されているし。

 あの監視屋が外に出してくれないよ」


「それはそうだけどさ、あたし達たけじゃなくて、みんな楽しみにしてたんだよ。

 伝染病は収まってるのに、みんなの楽しみが邪魔されるなんて。

 なんか、納得いかない。みんな頑張ったのに」


「《《ほぼ》》収まったでしょ。

『完全に収まってるかどうかは分からない』ってシオドアが言ってたよ」


 アタシはシャベルにぐっと足をかけた。

 シャベルをグッと土に潜らせ、捕まえた土をエイヤっとどける。

 たくさん掘れたね。



「あー、隔離は飽きたよ。

 コジロウがさらいに来てくれないかな……。

 夜、あたしがテラスにいたら、コジロウが現れて、デートに誘われて、二人で北の草原を駆け巡るの」

 スザナは、なんか妄想にふけってる。

 明らかに芝居のネタが混ざってるな。



「ほらっ、夢みたいなこと言ってないで。

 伝染病のことを考えれば、お祭り中止は正解だよ」

 多分ね。


 実のところアタシは、ギャビンと一緒に祭りに行くか行かないか、決めてなかった。

 これで良かったような気もしてるんだよね。



「赤の他人の生き死によりも、自分の恋愛を大事にしなさいって、愛の女神(アプスト)様の神官も言ってたよ」

 スザナは言った。


「スザナ!なに愛の女神(アプスト)過激派の言う事を真に受けてるのよ!」

 アタシはスザナに釘を刺した。


 あー、スザナは良い子モードと悪い子モードか交互に出てきてる。


 ずっと隔離されてストレス溜めてるなー。

 アタシも溜まってるけどさ。

 



 スザナは頼れないか。しゃーない。

 アタシはまたシャベルに足をかける。ヨっと。


「大変そうですね、お手伝いしましょうか?」


 突然後ろから声がかけられた。

 ん?あ?東方ハイエルフのケレグント師。


 アタシと、正気に戻ったスザナは顔を見合わせた。

 なんて言うかな、ほら、雲の上の人、学校の偉い先生かなんかに声をかけられた感じ。



「けっこうです。土魔術を多用すると地盤が緩むよって先生に言われています」

 スザナが答えた。


 スザナはシャベルを持ち、真面目に穴掘りを再開した。


「土魔術は、なんかの拍子に元に戻っちゃうこともあるって聞きますから」

 アタシも答える。



「元に戻らないように、地盤も緩まないように術をかけますよって言っても、あなた方は納得しなさそうですね。

 ちゃんとシャベルで掘るのを手伝いますよ。

 戦場では魔力探知に引っかからないようにシャベルで穴を掘りますし、500年前は墓穴もたくさん掘りました。

 穴掘りは上手いんです」

 ケレグント師は言った。


 アタシとスザナはもう一度、顔を見合わせる。

 

 巨デブのケレグント師、ちゃんと掘れるんだろうか。

 力はありそうだけど、途中で息切れしたり、ぎっくり腰になったりしない?



「大丈夫です。アタシ達でやります。

 アタシ達の仕事なんで」

 アタシは答えた。


 祖父ジジイに『仕事をサボってたら、お前程度の偵察スカウトの席なんてあっという間になくなるぞ』って言われてきたし。


 いろんなの冒険者パーティーでも……偵察スカウトが変わったって話はよく聞くんだよね。



「引き受けた仕事ですからあたしがやります。

 先生や先輩にも、仕事はちゃんとやれって言われてるんで」

 正気に戻ったスザナも答えた。


 ケレグント師は、なんか残念そうな顔をした。



 アタシとスザナは目を合わせる。


 やるよ穴掘り。

 おう!


 アタシの腰ぐらいまでは掘れって言われてるんだよね。



 ケレグント師はアタシとスザナが穴掘りしている様子を、ずっと後ろのベンチで見ていたんだよね。


 何が楽しいんだか。

 まあ、ハイエルフも疲れてるんだろう。



 穴はちゃんと掘れた。

 アタシの腹ぐらいまで掘った。

 アタシもスザナも仕事はちゃんとやる女なのだ。


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