第57話 切り取られたページ
「レヴィ、あなたが何を言いたいのか……」
「もう一度言うナリ。
ゴブリン族の血からは凄い薬が作れるんだナリ。
レヴィは知ってるナリ。
黒死病の時代に、その薬のせいでレヴィの部族はダンジョンに逃げたんだナリ。
一族の口伝につたわっているナリ」
レヴィの部族は、黒死病の時代より昔にダンジョンに潜ったって言ってなかったっけ?
……考えるまでもないよね。
レヴィは、嘘を付いた。
もちろん、必要があって。
「それは禁呪です。ゴブリン族のレヴィ」
ケレグント師は静かに言った。
禁呪ということはつまり。
「やっぱり、ケレグント・シは知ってるナリ。
絶対知ってると思ったんだナリ」
レヴィは得意そうに言う。
「東方エルフ族がゴブリン族を保護した理由が分かったよ。
いざという時の薬のためか」
シオドアが言った。
「シオドア、あなたは《《本当に》》可愛くなくなりましたね!
あの時代に東方エルフ族は、できる範囲で最善を尽くしました!
ついでに領内にいる東のゴブリン族から、血を搾り取ったりもしていません!」
ケレグント師は額に青筋を立てた。
そして、ケレグント師はアタシ達を見回した。
頭巾とマスクの間、眉間には深い皺が刻まれてるよ。
そして、レヴィに向きなおる。
「ゴブリン族のレヴィ、それは禁呪です。
他種族にゴブリン族の血を分け与えるべきではありません」
黒死病の時代に。
もし、ゴブリン族の血から薬が取れるなら。何が起きるだろう。
ゴブリン族を捕らえて血を搾り取り、その血から薬を作る奴とかいたのかな。
でも、これだと一回搾り取って終わりだよね。
ゴブリン族を捕らえて、檻に入れて、少しずつ血を抜く、とか?
それで薬を作って身内に与える。
さらに、その薬を売る。
……あー、考えていて、気持ちが悪くなってきたよ。
そしてアタシは気がついた。
「切り取られたページ!」
「なんですか?」
「魔術師クランにゴブリン族について書いた本があって……、その中の一ページが切り取られていたってネリーが」
あのページに書かれていた内容は何だったんだろう。
もしかして?
「ロイメの魔術師クランにあるゴブリン族に関する本なら、ページを切り取ったのは私だと思いますよ。
ゴブリン族の血から作る薬についての記述でしょう。
我々はこれを延々と処分してきました」
ロイメのダンジョンには、ゴブリン族が住んでいる。
ゴブリン族の血からから薬が取れると聞いたら、彼らに手を出す冒険者が出るかもしれない。
だいたいサ、レヴィを攫って隷属の首輪をはめて木箱に詰めた悪党がいるんだよ。
「ゴブリン族のレヴィ。
何度でも言いますよ、それは禁呪なのです。
ゴブリン族が、生きようが、死のうが、繁栄しようが、滅びようが、ゴブリン族の血肉はゴブリン族のモノであるべきです。
これが東方のゴブリン族の意見です。
レヴィさんの部族も同様でしょう?
だからこそ、ダンジョンの奥に他種族を拒絶して住むことにしたのではないですか?
結論は出ているのです」
「それから、この伝染病騒ぎが終わったら、ここにいるヒト族に精神操作魔術をかけなくていけません。
みなさん、ご協力願いますよ。
迂闊にもらしてよい情報ではありませんから」
ケレグント師がブツブツ言ってる。
なんかやばいこと言ってるよ!
「話さないって約束します」
アタシは即座に自分の意見を表明した。
精神操作魔術はちょっとイヤ。
ネリーが使う分には良いけど、いやその、自分がかけられる方はね。
「ヒトは酔った勢いで秘密を話したりするでしょう?それを予防するために必要です」
あーうー。
「だからレヴィさん、余計なことを話すのはやめてください。
これ以上私の仕事を増やさないでください」
ここで、ケレグント師は話を切り上げようとした。
「レヴィは西の森の部族を追放されたナリ」
レヴィは突然、話題変えた。
もちろんレヴィは追放された。
そのためにアタシ達は、第四層のゴブリン族を訪ねたんだよ。
「だからロイメのゴブリン族の掟は、今のレヴィは関係ないナリ。
今、レヴィが属しているのは、『輝ける闇』ナリ。それだけナリ。
レヴィは『輝ける闇』の回復役ナリ。
レヴィに仲間を見捨てさせるなら、レヴィは復讐の女神様に祈るナリヨ」
お願いレヴィ、復讐の女神様はやめて。
怖いから。
「仮に血を取ったとしてです。
レヴィさんの体は小さいです。十分な量が取れるかどうか分かりません。
それよりは、ネリーさんを看病に専念してください」
ケレグント師は別の方向を提案した。
やっぱり薬は作れないのか。
「ええとぉ、要はぁ、レヴィちゃんの血に含まれる抗体が薬になるんだけどぉ」
マデリンさんが何か言い出したヨ!
「マデリン、抗体を増やす魔術ってのを知ってるんだぁ」
「ナンデスト!」
ケレグント師の首がマデリンさんの方を向いた。
「でもぉ、マデリン一人だと作れないのぉ。
特殊な魔術環境を設定しなきゃいけなくてぇ、つまりぃその中で抗体を増やすんだけどぉ、一人じゃ無理なのぉ。
でもぉ、ケレケレちゃんがぁ協力してくれるならぁ。
もしかしていけるかも!」
マジで!?
なんか分からんけどマジで!?
「マデリンさん!」
「本当?」
「薬を作ってくれるナリカ?」
「ナンデスカ、その術は?
まさか西方エルフ族に習ったとか?」
「そうだよぉ、よく分かったねぇ」
「気に入った者にだけ術を教えるとは、いかにも西方エルフ族らしい狭量さですね。
彼奴等は、知識を溜め込むばかりで、公開せず、世界に役立てようとしない!
で、どんな術ですか?教えなさい!」
そういや、東方エルフ族は知的好奇心が強い種族だとネリーが言ってたわ。
なんというか、東方ハイエルフのケレグント師に、変なスイッチが入った。
これは、薬を作るパターン。多分。
ケレグント師は、遠くに音を伝える特殊な魔術道具で誰かと話している。
魔術師クランの誰かだと思うよ。
「ええ、なんとか薬の目処がつきそうです。
マデリンさんの持ってるドラゴンの血、残りわずかですが、が使えそうです。
貴重な素材ですねって?
ええもう、使っちゃって良いんですよ、こういうのは。
本人の了解は取りましたし、パァッと使いましょう」
ドラゴンの血じゃなくて、ゴブリン族のの血だけどね。
もちろん、ゴブリン族の秘密を守るために嘘をついたんだと思うよ。
「そういうわけで、私とマデリンさんは二人で調合に集中するので、魔術師クランに顔を出せません。
あぁ?やるべきことは伝えましたよね?
伝染病の対処法は隔離です。
後は助かりそうな患者への資源の集中。
私がいなくてもそれぐらいやりなさい。
それから、私のいる家は隔離中なので入れませんよ、では!」
そして、レヴィの家の図書室は、ケレグント師とマデリンさんの実験室になった。




