表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/80

第55話 平和に暮らしているコウモリを無理やり連れてきたのは誰ですか?

 隔離場所はレヴィの家になったけど、思ったほど楽しくなかった。

 

 スザナはお祭りに向けてお花畑モードだしサ。

 トロール族特有の睡眠モードになったヘンニは、まだ寝ぼけていた。



 アタシは皆のために食事を作った。

 スザナやヘンニに任せると何が出てくるか分からない。


 暇な時間はレヴィに頼まれて、ロイメの文字の読み書き練習に付き合った。ネリーみたいな良い先生じゃないけど。

 レヴィは熱心に勉強していたよ。

 

 三日目に衛兵が去り、アタシ達は隔離を解かれ、ようやく自由の身になった。



 寝ぼけてるヘンニは家に帰す。


 ヘンニの双子の息子と娘は、『冒険の唄』の旦那さんと女将さんの所で預かってもらっている。

 ヘンニは、二人とも13歳で半分成人みたいなものだと言う。

 トロール族だとそういう感覚なのかな?

 アタシの意見だと、13歳はまだ子供だ。


 ともかく、子供の顔を見れば、ヘンニの目も覚めるだろう。たぶん。


 

 祖父ジジイの手紙の内容は、ヘンニも含めて皆に伝えた。

 ただ、今できることはあまりない。


 魔術師クランに近寄るなって書いてあるけどサ。

 その魔術師クランに招集されてるシオドアとネリーが心配なんだよ。



 情報が欲しい。

 レヴィは相変わらずこの家から動けない。

 アタシが『冒険の唄』に行くか、『青き階段』に行くか。

 いや、スザナに『緑の仲間』で情報収集してもらうか。



 そんなことを考えてると、マスクをしたネリーが帰ってきた。


「ネリー、心配したよ。魔術師クランで変なこと起きてるんじゃないかって」


 ネリーはスッと何か考えるような顔をした。



「疲れたから二階で休むわ。シオドアは今日中には戻ってくるはず。

 みんな、あまり出歩かない方がいいわよ」


 そう言うと、ネリーはそのまま二階に上がって行った。


 何のこっちや。

 ネリーにしても、ここまで無愛想なのは、珍しい。



 ネリーはそのまま水差しを持ち込んで、部屋に鍵をかけて閉じこもってしまった。


 昼飯だって散々ノックしたけど、出てこない。

 ネリーもお疲れで、ヘンニ並の睡眠モードに入ったのかな?



 夕方、やはりマスクをしたシオドアが帰ってきた。


「シオドア、心配したよ。

 魔術師クランで何か起きてるって祖父ジジイが言うしさ。

 あ、ネリーは午前中に帰ってきて、そのまま寝てるよ。飯だって言っても部屋から出てこないんだよ」


 シオドアの顔色が変わった。




 シオドアは二段飛ばしで階段を上っていく。

 その後にアタシと、さらに後からレヴィとスザナが追いかける。


 ドンドンドンドン。

 

 シオドアは部屋の扉を激しくノックする。

 ネリーの部屋は、内側から鍵がかかっていた。



「ネリー、開けろ!無理なら返事しろ!」


 部屋から返事はない。

 アタシはネリーを部屋に放っておいたことを後悔した。

 無理やりでも引っ張り出すべきだった。


 ともかく鍵をなんとかしないと。

 ピッキングに使えそうな道具は、えーと。



 家の中をあさり、使えそうな道具は見つかった。


「シオドア、鍵を開けるよ」


 シオドアは、中のネリーと何か話している所だった。


「今は鍵開けはいい」

 シオドアは首を振ると言った。


 なんで?



 シオドアは、アタシとスザナとレヴィを階段に集めた。

 シオドアは緊張している。

 ダンジョンで魔物モンスターと対峙した時でも、そうないくらいに。



「ネリーの扉を開ける前に、皆に伝えなければならないことがある」

シオドアが言った。


「何?早く開けた方が良いんじないの?具合が悪いかもしれない」

 スザナが言う。


「魔術師クランの実験室から伝染病が出た」



「……」


 伝染病。

 流行り病とも言う。


 伝染病の恐ろしさは良く知っている。

 アタシの母さんと父さんは伝染病で死んだ。



「風魔術の研究者が実験用にコウモリを飼っていた。その魔術師が突然体調を崩して死んだ」


「ええ……」


「その後、彼の周りのヒト族が似たような症状で倒れた。

 さらにその周りののヒト族もだ」



 あれは冬だった。

 まず母さんが病気になった。

 必死で看病していた父さんも罹ってしまった。

 アタシはずっと祖父ジジイの家に預けられていた。



「それでどうなったナリカ?」


「魔術師クランは単なる体調不良ではなく、伝染病であることに気がついた。

 今、クランの箝口令を引き、主要メンバーを動員して後始末をしている。

 僕もネリーもそのために呼び出された。


 そしてどうやら、ネリーは仕事の途中で病気をもらったようだ」



 父さんと母さんに再会した時は、葬式で二人とも棺の中だった。

 ついこないだまで元気だったのに。


 アタシは一瞬目眩を感じる。

 冒険者がダンジョンで死ぬとは限らないのだ。



「大丈夫ナリカ?トレイシーさん」


 アタシはレヴィに顔を覗き込まれていた。

 後輩に心配されるとは。

 アタシは今、どんな顔をしているのだろう。


「大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」



「伝染病を広めるわけにはいかない。

 全て慎重にやらなくてはいけない。

 ネリーの看病は僕がやる。


 トレイシーはケレグント師かマデリンさんを探して、なんとか連れて来て欲しい。

 ケレグント師は魔術師クランにいる。マデリンさんも……多分いると思う」


 魔術師クラン。祖父ジジイが行くなって。

 いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。



「分かった。魔術師クランで二人を探す。

 でも、アタシは魔術師クランに籍がない。

 入るための紹介状みたいなのくれない?」



 魔術師クランにはあまり詳しくない。

 魔術師クランは大騒ぎでヒトの出入りを制限してるだろう。

 部外者のアタシが入れるだろうか。


「分かった、何通か書くよ」

 シオドアが言う。


 いや、何が何でも侵入して、二人のどちらかを探して連れて来なきゃいけないんだけど。



「ケレグント・シはシオドアの先生ナリヨネ?

 だからケレグント・シを探すのはシオドアが良いナリよ」

 レヴィが突然口を開いた。


「ああ分かってる。

 しかし、誰かネリーを看病しなきゃいけない。

 それは医療と伝染病の知識がある僕しかできないんだ」


「ネリーさんの看病はレヴィがやるナリ。

 ゴブリン族は、伝染病に強いナリ。

 ゴブリン族は病気にかからないから、病気になったヒトの看病はしたことないナリ。

 でも、どうやるか教えてくれればちゃんとできるし、やるナリヨ」

 レヴィは言った。








『輝ける闇』のメンバーが、冒険者ギルドの隔離施設を追い出されたのは、緊急で隔離しなくてはいけないヒトが出たからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ