第5話 ゴブリン少女(シオドアside)
俺はシオドア・ストーレイ。
ハーレムパーティー『輝ける闇』の黒一点で、リーダーである。
『輝ける闇』がハーレムパーティーになった理由は、まあその……、別の機会に語る。
箱の中で毛布に包まれてその少女は静かに眠っていた。
黄色い肌は黄金色にも見える。顔には呪術的な黒い模様が描いてあった。
癖のある長い髪は真紅だ。ネリーと同じかそれ以上に赤い。
身長は1mを少し超えるぐらいだろうか。
ロイメで一番小柄な種族と言われるケンタウルス族より一回り小さい。
「ゴブリン族……」
ネリーが言った。
その通りだ。知っている。
少女の特徴は、大陸で絶滅寸前とも言われるゴブリン族と一致している。
ロイメでは、ゴブリン族はダンジョンの四層の奥深くに住んでいる。遠目にだが見たこともある。
しかし、彼らはダンジョンの外には出てこないはずだ。
この人身売買事件は、俺が予想した以上に大きな事件だった。
さて、どうしたものか。
ゴブリンの少女はこんこんと眠っている。
俺としては、今ここでゴブリンの少女の隷属の首輪を外し、目覚めさせておきたい。
ゴブリンの少女はロイメの市民権がない。さらに彼女はロイメに身内がおらず、冒険者ではないので冒険者ギルドの保護を受けず、眠っていて意思表示もできない。
衛兵に委ねた場合、ゴブリン族の少女をロイメ市がどう扱うか分からない。
もちろん俺はストーレイ家を通じて保護を訴えるつもりだが。
「シオドア、魔術師が鍵を持ってたよ!」
魔術師の身体を漁っていたトレイシーが鍵を持ってきた。
「ネリー首輪をどう分析する?」
ネリーは精神操作属性の魔術師で、『隷属の呪文』も使える。
「隷属の首輪は奴隷商人が使う魔術道具で、魔力がない人間でも扱える道具なはずよ。奴隷商人が全員魔術師ということはないから」
ネリーは答えた。
「首輪に変な罠は付いてなさそうか?」
隷属の首輪には、外すと爆発するというような物騒な物もあると聞いたことがある。
「この首輪には隷属の魔術と睡眠の魔術が組み込まれているわ。
それ以外の魔術は……少なくとも土魔術と火魔術はない」
ネリーが答えた。
ネリーは精神操作魔術と死霊術師と土魔術、初級の火属性を扱う優秀な魔術師だ。
俺も改めて首輪を確認する。
俺は中級までだが水魔術と氷魔術、初級止まりだが風魔術と雷魔術そして治癒術が使える。
首輪からはいずれの属性の魔力も感じない。
罠を仕掛けるなら、火か氷か雷がよく使われる。まれにだが土と風。
いずれの魔力も首輪にはない。
……鍵を使ってみるか。
俺は鍵をゴブリンの少女がつけてる首輪に鍵を差し込む。
2本目の鍵で首輪は外れた。
ピクリとゴブリンの少女が動く。
そして目をあけた。
瞳はあざやかなエメラルドグリーン。
愛らしいともグロテスクともいえる黒目がちの大きな目。
ゴブリンの少女の瞳がきょろきょろ動き、次は首を左右に動かす。
「僕の声が聞こえるかな?言葉は分かるかな?」
俺はゆっくりていねいに話しかける。
ゴブリンの少女の表情がわずかに動いた。
「どこか痛むところか、気分が悪い所はないか?」
「ェ゙エと、ダイジョウブです、ナリ」
俺はほっとした。訛はあるがロイメの言葉だ。
「……ェ゙エト、ココはダンジョンの外ですナリカ」
ゴブリン族の少女は言った。
「そうだ。外だ」
ゴブリン族の少女の表情がぱぁぁと明るくなり、飛び起きる。
ゴブリン族の少女は手を叩いた。
体格の割に腕が長く、手が大きかった。
なめし革の短衣には黒い染料で顔と似た模様が描かれている。
「ヤッタ!無事にダンジョンを出れましたナリ」
「……」
俺はてっきりゴブリン族の少女は奴隷商人にさらわれて、ここにいるのだと思っていた。
そんなに単純な話ではないようだ。
「僕の名はシオドア。君の名前をきいていいか」
俺は内省する時は自分を俺と称するが、会話する時の一人称は「僕」である。
「ワタシはレヴィですナリ」
それが俺とゴブリン族の少女レヴィとの出会いだった。
本日こちらも含めて4話投稿予定です。