閑話 イケメン対策会議【青き階段にて】
僕はクリフ・カストナー。冒険者である。
ある日、僕が冒険者クラン『青き階段』に来たら、男たちがロビーに群がっていた。
何が起きたんだ?
「どうしたんですか?」
「おう、クリフ・カストナー。
ここは、『シオドア・ストーレイ対策会議』だ」
男Aは答えた。
「『イケメン対策会議』とも言う」
男Bが言った。
なんじゃそりゃ。
「この前、シオドア・ストーレイがウチに出稽古に来たよな」
あー、確かに来てたな。
これからダンジョンだとか言ってたけど。
「『青き階段』でヤツは一勝一敗だった」
「ちゃんとコジロウさんがシオドアに土をつけじゃないですか。
勝負は時の運と言いますし、あまり気にしない方が良いのでは?」
たかだか一勝負に一喜一憂してどうするんだ。
そんなだったら、僕はとっくに世を捨てて、修道士になっている。
「シオドアを侮ってはいかんぞ!」
「最後まで聞け!」
「な、何ですか?」
「シオドア・ストーレイは中級レベルの氷属性の攻撃魔術を使う。他の属性も使うという噂もある。
ヤツは実力を出し切ってはいない」
中級レベルの氷属性攻撃魔術か。
氷魔術は僕の炎熱結界で防げるが、その隙に剣で攻撃されたら。
「厄介ですね」
僕は答えた。
「そう、厄介だ。ありえないくらいだ」
男Cは言った。
「オマケにヤツは顔も良い」
「おそらく、頭も悪くない」
「実家は金持ちだ」
「受付のミシェルさんとノラさんも格好良いと言っていた」
なんか腹が立ってきた。
そして、率いているパーティーがハーレムパーティーか。
僕は男達の言わんとすることを理解した。
「分かりました。シオドア・ストーレイは厄介です。理不尽の塊です」
男達の集団の中心にはテーブルがある。
そこにには、賭け屋トビアスさんと、武術教官ソズンさん、そしてギャビンが座っていた。
「女を口説くにゃ、顔と髪の毛は確かに大事だけどな……」
賭け屋トビアスさんが口を開いた。
「ハゲの賭け屋にも美人の女房がいるというのは、男の希望ではある」
男Aが口を挟む。
「俺も髪の毛の分は、賭け屋に勝ってるしな」
男Bが言った。
「黙れ、てめえら!女房口説いた時は髪の毛はあったんだよ!」
「「な、なんだと!」」
男AとBは呆然としている。
「まあ、ともかくだ。俺は今でもけっこうモテるし、髪の毛込みで男は顔だけじゃない」
賭け屋トビアスは断言した。
賭け屋のトビアスさんが、今もモテるのが本当かどうか僕は知らない。
とりあえず黙っておこう。
回り回って奥さんの耳に入ると大変だ。
「顔じゃないなら、俺らがモテない原因はなんだよ!」
男Cが聞く。
「女を口説くって言うだろ。口だよ。話の面白さ」
賭け屋トビアスは答えた。
「トレイシーちゃんと何回か話はしたんすよ。
反応は、まあ、それなりっスけど」
どうやらこの場の主役らしいギャビンがボソボソと話す。
「ともかくギャビンは、本命の女に話しかけた。花束も渡した。
第一段階はクリアだな。
そこのオマエラ、そもそも女の子に話しかけてるのか?花束を渡したか?
目当ての女にだぞ?」
「それができたら苦労せんわ!」
男Cが言う。
男Cの意見も一理ある。
ロイメの町娘は、冒険者に対してガードが固い。
僕も含めて、その場の男たちは溜息をついた。
「一人の男が独占できる女は、せいぜい百人」
今まで沈黙していた武術教官ソズンが発言した。
百人はけっこう多いと思うけど。
「特定の女にこだわらなければ、チャンスはある。
悲観主義に溺れてチャンスを逃すな。
男は強さ。まずは筋肉だ!」
おおっ!確かに。
「確かにな」
「一回や十回、振られたからって諦めてはいけないな」
「下手な弓矢も数撃ちゃ当たる」
「筋肉つけてリベンジだぁ!」
ソズン教官は男たちを引き連れて、訓練場に消えた。
少し静かになった。
テーブルにはギャビンと賭け屋トビアスが座っている。
「俺、筋肉つかないんすよ。子供の頃に食べられなかったせいで。
体は丈夫なんすけど」
ギャビンはボヤいた。
筋肉がつかないのは僕も同じである。
「何回か話しかけてはいるんですけど、トレイシーちゃんの反応はイマイチなんですよ
どんな話を振れば良いですかね?」
ギャビンは改めて、賭け屋のトビアスさんに相談をはじめた。
やっと相談できる環境になったとも言う。
「そうだなぁ。
今度の祭りにこだわり過ぎず、長期戦狙いの方が良いかもしれん」
……。
僕は何も言わない。
僕にアドバイスできる話題ではない。
「クリフ・カストナー、君は女性とコミュニケーションを取る時はどうする?」
いきなり後ろから話しかけられた。
いつの間にか僕の後ろには、モップを持った白髪のクランマスターがいた。
なお、白髪でも髪の毛はフサフサである。
それから、クランマスター、それは僕に聞くことじゃないですよ。
「クランマスター、僕は口下手なんですよ」
僕は答えた。
特に女性相手には。
おしゃべりなくせに口下手なのだ。全くもってどうしようもない。
「それでも話さなくてはいけないなら?」
クランマスターはモップといっしょに、ぐいぐい近づいてきた。
「いやー、そのつまりですね、本音で本当のことを話しますよ。それ以外僕にどうしろって言うんですか!」
僕はなんとか答えをひねり出す。
「だそうだ、ギャビン。
トレイシー・モーガンが時々話をしているクリフ・カストナーはこういう男だ」
クランマスターは、ギャビンに向き直った。
「クランマスターは、スラム育ちの俺に、本音で話せって言うんすか?」
「格好つけて駄目なら本音じゃないかなぁと、思ったまでだよ」
クランマスターは、すっと引いた。
ギャビンは何やら考え込んでいる。
「一つネタを教えてやろう」
クランマスターは、もう一度ギャビンに向き直った。
「何スか?」
「トレイシー・モーガンの偵察技術の師匠はは、彼女の祖父だ」
「そうなんスか?」
「もう引退してるが、腕利きだったぞ。いっしょにダンジョンに潜ったこともある。
トレイシー・モーガンに一番影響を与えた人物は彼だろう」
「俺も知ってるよ。
俺が駆け出しの頃はまだ現役だった。
あのオッサン、今はジーサンだが、いつまで出しゃばるんだとか言われてたな」
偵察は先導者で、それだけ危険も大きい。
延々と務められるなら、間違いなく腕利きだろう。
「アドバイスできるのはそれぐらいだな」
「ありがとうございます、クランマスター。ちょっと調べてみます」
そう言って頭を下げると、ギャビンは席をたった。
クランマスターの言葉は、ギャビンになにかしらの影響を与えたようだ。
「珍しいですね、クランマスターが色恋に肩入れするなんて」
賭け屋トビアスさんが言った。
「相手はストーレイ家のシオドアだ。
多少は味方が必要だろうさ」
クランマスターは返す。
恋敵がシオドアか。確かに強敵だろう。
僕はギャビンにちょっと同情した。
「第六部・ゴブリン族の森へ」はこれで終わります。
次回から「第七部・ヒトと病」です。
全八部で完結で、20万字前後の予定です。
あともう少し、お付き合い願います。




