第52話 800人、そしてカードゲーム再び
「ねぇレヴィ、もしかしてゴブリン族の部族には人数制限があったりするの?」
ネリーが突然レヴィに聞いた。
朝ご飯を食べ終わったところだ。
メニューは昨日の残りのロック鳥スープと乾パンだった。
「な、なんですか、いきなりナリ」
レヴィは返す。
どう見ても慌ててる。
「レヴィが無事に帰って来たのに、レヴィの故郷の西の森の部族では歓迎されてなさそうなのよね」
ネリーはいつものズケズケ直球で言う。
レヴィの性格が強烈だから歓迎されてないのかもよ?
……いや、ちょっとひどいか。ゴメン。
「ついでにゴブリン族の長老が、既に新しい命が生まれているかもとか言っていたわ」
そう言えば、なんかそんなこと言ってたような気がする。
「もう一つ、ゴブリン族の中にレヴィと同じ訛があるヤツがいたのよ。
同じ部族じゃないかと思うのよ。
でも、よそよそしいと言うか、ソイツとレヴィと話してるの見てないわ」
それはアタシもちょっと考えた。
「かと言って、罪を犯した犯罪者に対する態度とも違う気がするの」
レヴィはキョロキョロとあたりを見回した。
「レヴィは治癒術師で死霊術師でしょ。
普通なら戻ってきたら歓迎すると思うのよ。
でも歓迎されてない。戻って来られると困る事情がある。
それで、冬を越すための人数制限とがあるのかなって思ったのよ。違う?」
ネリーはまとめた。
朝から、ディープな話題が来たよ!
「えーとですナリネリーさん……」
レヴィはここで口ごもる。
周囲にゴブリン族はいない。
シオドアは、向こうでゴブリン族の長老と話をしている。
「話したくないか、話せないならいいわよ」
「いえ、話しますナリ。ネリーさんの言う通りですナリ。
ゴブリン族の部族には人数制限があるんですナリ」
《《マジで》》?何それ。
「第四層のゴブリン族は800人まで。そう決まっていますナリ」
「800人を超すと冬に食料が足りなくて、越せないとか?」
「いいえ。ダンジョンの神様との契約で決まっているですナリ。
最初にご先祖様がダンジョンの神様に庇護を求めた時に契約が交わされたと言われているナリ」
なんというか、すごい話だ。
本物の神様の話とか。
ゴブリン族は何百年もダンジョンの中で暮らしているらしい。
おそらくだけど、ゴブリン族のご先祖は、ダンジョンの神様と話をしたんだろう。
「800人を越すとどうなるの?」
ネリーはさらに聞く。
「ダンジョンの神様の加護と庇護を失うことになりますナリ。
集落が魔物に襲われたり、大嵐が来たりするナリ。
そして、ゴブリン族の人口が800人を割ると加護が戻るんですナリ」
はぁ~。
「つまりゴブリンの部族では人口は大問題なのね?
人口が増えすぎた時はどうするの?」
「ダンジョンの神様に返すことになるナリ」
ダンジョンの神様に返す。
……つまり神に命を返すってことだよね。
「レヴィの西の森の部族は何人いるんだい?」
ヘンニが口を挟んだ。
「だいたい200人ぐらいナリネ」
「あたしの故郷のトロール族の部族は300人ぐらいだったかな?
そんなもんだよ。冬を越すのはいつも大変だった」
ヘンニは言った。
「わたしの故郷だと、きつい冬は娘を売り飛ばすよ。
まあ、隷属の首輪を嵌めるような連中には売ってないから、最低限、売る相手は選んでいるのかな?」
スザナも言う。
「私は貴族だから餓えたことはないわね。
でも、領民がちゃんと冬を越せるのかお父様が部下と話をしているのは聞いたことがおるわ」
ネリー。
「なんかすごいね」
アタシは言った。
アタシはロイメ生まれのロイメ育ちだ。
ロイメだと身売りの噂は時々聞くけど、飢える話はあまり聞かないよ。
神殿とかの施しもあるし。
「ロイメや王都は特別豊かよ。
特にロイメは特別だわ。
なにせヒトが増えすぎたら、ダンジョンに放り込めば良いんだから」
ネリーはそう言うと、フルーツの砂糖漬けを口に放り込んだ。
午後、西の森の部族こと、レヴィの故郷の部族の偉いさんをがやって来た。
偉いさんとレヴィはゴブリン語で何やら話し込んでいる。
「何を話してるの?」
アタシはネリーに聞いてみた。
「西の森ではレヴィの従兄弟が赤ちゃんを産んだんですって。
その子が部族の新しい仲間だ、みたいなことを言ってる」
ネリーはヒソヒソ声で言った。
つまり、西の森はレヴィを正式に追放したいし、追放するわけだね。
「一応、レヴィと『輝ける闇』の目的は達成されるってことなのかな……?なんかモヤモヤするけど」
なんかさ、なんでか分からないけど腹が立つというかサ。
「ゴブリン族にはゴブリン族の則があるさ」
ヘンニが言った。
……うん、そうなんだろうね。
レヴィとレヴィの故郷の偉いさんの話し合いは長く続いた。
シオドアと南の部族の長老が立ち会った。
待ってる間、アタシとネリーとスザナはカードゲームをやることにした。
種目は『神経衰弱』ね!
今度はレヴィもいないし、アタシとネリーで良い勝負になるでしょ。
スザナ、今回も付き合ってくれるよね?
アタシ達が遊んでいると、一人のゴブリン族が見に来た。
真っ赤な頭と尻尾に大きな緑の目。レヴィより小さい。まだ子供かな?
カードゲームに興味があるみたい。
そのゴブリン族の子も交ぜて四人で遊んでみたよ。
幸いにも、その子はレヴィほど強くはなかった。
アタシとネリーとその子で良い勝負になったよ。
その子はカードに興味を持ったみたいだ。ゲームの後、ネリーにゴブリン語でいろいろ聞いてたね。
そしてスザナ、今回も付き合ってくれて、本当にありがとう。