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第41話 歴史と死者について語る

アタシ達は、ハイエルフから、まだるっこしい前置きを聞かされた。


「ここで大きな事件が起きました。

『黒死病』の時代です」

 ケレグント師の声色が変わった。



 黒死病。

 伝染病だ。

 大陸では500年から600年ぐらい前に特に猛威を振るった。

 その時は、大陸のヒト族の何割かが死んだとも言われる。

 アタシでも知ってるぐらいの話。



「最初、ゴブリン族は黒死病に強いので、重宝されました。

 しかし、次第にゴブリン族が黒死病を広めているという噂が流れました。

 そして、それは一面の真実です。

 ゴブリン族が意図したわけではないのですが」


 アタシは何も言えない。

 ネリーも何も言わない。

 レヴィも何も言わない。

 スザナも。

 シオドアも。



「ゴブリン族への迫害はいっそう酷くなりました。

 何とか共存していた地域でも共存は不可能になりつつありました。

 ヒト族に狩られ、ゴブリン族は絶滅寸前でした。

 我々、東方エルフ族はゴブリン族を移住させ、保護する決断をしました。

 我々の国の南に海漂林マングローブの森があります。

 そこが移住先になりました」



 東方エルフ族がゴブリン族を保護している。

 ネリーが言ってたな。


「言っておきますが、我々東方エルフも黒死病に感染します。

 反対意見も強かったのです。

 移住のために新しい魔術も作られました」



「どんな魔術?」

 ネリーは質問した。


「ゴブリン族の体内に存在している、【黒死病の元】を完全に排除する魔術です。

 言っておきますが、我が国内で黒死病を流行させるわけにはいきません」


「強い魔術みたいだけど、ゴブリン族に負担はないの?」

 ネリーが再度質問した。


「ありますよ」

 ケレグント師は即答した。


 アタシは大きく息を付く。

 聞くって決めたのはアタシだよ。

 でも、聞いてて疲れるってば。




「東方エルフの国の森でゴブリン族は今も暮らしているナリカ?」

 東方、レヴィが質問した。


「はい。500年前の移住者はわずかでしたが、随分人口は増えたようです。

 ただ、我々東方エルフの国とあまり深く交流はしていません。

 そこはロイメ市とダンジョンのゴブリン族と変わりませんね」

 ケレグント師は答えた。



 レヴィは虚空の一点を見てる。


「レヴィさんの部族には黒死病時代の言い伝えはありますか?」

 ケレグント師は聞いた。


「ないナリネ。

 レヴィの部族がダンジョンに潜ったのはもっと昔だったはずナリネ」

 レヴィは答える。



「レヴィさんの部族は古い部族のようです。

 レヴィさんが受け継いでる口伝には、ゴブリン族の古代の歴史も伝わっていそうですね。

 東方の保護区のゴブリン族は、古代の口伝が不完全です。

 レヴィさんが来たら、皆さん喜ぶでしょう」

 ケレグント師は言った。


 ちょっと待った。

 レヴィは東に行くとは言ってない。



「で、ケレグント。

 あなたはレヴィを東方エルフの国の保護区に連れて行くつもりなのね?」

 脇から発言したのはレイラさんだ。


「それがよろしいでしょう」

 ケレグント師は答える。



「ちょっと神経質じゃない?

 そりゃいずれは東に行くにしても、しばらくロイメで遊んでからでも良いじゃない。

 今、ロイメで悪い病気が流行ってるって噂も聞かない。

 麻疹ぐらいよ」

 レイラさんはハイエルフ相手にも遠慮がない。


「この家に出入りしたヒト族は、みんな麻疹はやってるよ」

 シオドアが付け加える。


 そういや『輝ける闇』に入る時、シオドアに麻疹にかかったことがあるか聞かれたなぁ。



「シオドア。リーダーとしてのあなたにもう一つ注意があります。

 ゴブリン族をパーティーに入れるにあたって、なぜゴブリン族の特性を、他のメンバーに話さなかったのですか?

 情報伝達が不完全です。」



「話したくても話せないからですよ。

 ケレグント師は僕にゴブリン族の歴史を講義した時のことを忘れたましたか?

 あなたは僕に沈黙の誓いを立てさせ、さらに精神操作魔術で誓いを補強しました」


「そう言えば、あぁええと。そんなこともしたかもしれませんね」



 うん、忘れてたね。

 エルフって案外忘れっぽいって聞くよ。



「あのね、ケレケレケレちゃん。

 あたしぃ思うんだけどぉ。

 千人のゴブリン族ならともかく、一人のゴブリン族で、そんな大きな問題が起きるとは思えないのよぉ」

 ここまで黙っていたマデリンさんが発言した。


 ロイメ一の治癒術師の発言だよ。


「あとねぇ。さっきレヴィちゃんに検査する魔術を何回かかけたんだけどぉ。

 レヴィちゃんは、麻疹も、黒死病も、他のメジャーな【病気の元】は持ってないと思うのぉ」


 マデリンさんは、ずっとレヴィを膝の上に抱っこしていたけど、そんなコトしてたのか。



「蟻の一穴という言葉もあります」

 ケレグント師が言い、続ける。


「仮にレヴィさんがロイメに滞在した場合、ゴブリン族はロイメでよく知られるようになります。

 第四層でゴブリン族と交流する冒険者も出るでしょう。

 第四層のゴブリン族は長い間隔離され、清潔です。

 しかし交流の結果として、彼等が、例えば麻疹の運び屋(キャリアー)になったらどうしますか?

 ダンジョンの第四層、第五層で、突然麻疹を発症する冒険者がたくさん出たらどうしますか?」


 それは困る、な。

 でも、『こうなるでしょう』の予測ばっかりじゃん。



「つまりケレグント、あなたはロイメの議会をそういう風に説得するつもりなのね?」

 レイラさんは言った。


「そうです」


「ケレケレちゃん、頭の中身が500年前と変わらないんじゃなぁい?」

 マデリンさん。



「そうかもしれませんね。

 でも私は黒死病の恐怖は忘れられませんよ。

 また、ヒト族の間に、災いと死を呼ぶゴブリン族の伝説や御伽噺が残っています。

 ロイメがレヴィさんにとって安住の地になるとは思えません。


 仮にレヴィさんがロイメに残るとしても、安全な隔離施設に入ることを提案しますね」


 しつこいなぁ。


 アタシにはすでにレヴィは隔離されてるようなモノに見えるんだけど。



「少し考えさせて欲しいナリ。

 レヴィは自分の運命は自分で選べるナリネ。


 一つケレグント師に質問ナリ。

 ゴブリン族が大陸にいられなかったのは、ゴブリン族が弱かったからだと思うナリカ?」



「逆です。強かったからです。

 ある日、何かの病で世界のヒト族は全て死に絶えて、ゴブリン族だけが生き延びるかもしれません。

 ゴブリン族はそれぐらい強いのです。

 そして、強い者は恐れられるのが世の法則です」

 ケレグント師は答えた。






 ゴブリン族のネタはまだあります。

 後半にでてきます。

 よろしければ、もうしばらくお付き合いお願いします。



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