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第37話 人身売買組織の壊滅

 朝、レヴィの家の玄関がノックされた。

 誰だろう?


 この場所を知ってるヒトは限られているんだよね。



「げっ、祖父ジジイ!」


 開けてびっくり、何で祖父ジジイがここにいるのよ!


「げっ、じゃねぇだろ。わざわざ来てやったんだ」


「何しに来たのよ、アタシは祖父ジジイと話すことなんて無いからね」


 うん。ない。断固ない。


「必要があったからここまで来てやったんだよ。

 おい、トレイシー。最近『冒険の唄』に顔出してないだろ」



 図星だ。

 スザナ関連のアレコレと、レヴィの家が居心地良いのとで、すっかりご無沙汰だ。


「そんなんじゃ情報ネタに乗り遅れるぞ。

 とりあえず、『風読み』のレイラさん、戻って来てるぞ。マデリンさんもだ」


 えッ?


「ホント?祖父ジジイ?」


「ああ、本当だ。早めに顔出して挨拶しとけよ」


 祖父ジジイは井戸水を一杯飲むと帰って行った。



 ロイメは寿命も魔力適性も考え方も多種多様、様々な種族が闊歩する土地だ。

 その中でも、「もしかして人外に片足突っ込んでない?」と噂されるヒト達がいる。


 レイラさんとマデリンさんは、その代表だ。


 とりあえず、アタシはレイラさんがクランマスターをつとめる『風読み』で、偵察スカウト技術を学んで磨いている。


 大先輩で、師匠格だ。

 祖父ジジイの言う通り、挨拶に行かなければならない。



 アタシは祖父ジジイ情報ネタをみんなに伝え、買い出しリストをもらったら、とっとと街へ出発するつもりだった。

 偵察スカウトたるもの、善は急げだよ。


 でもその必要はなかった。


 レイラさんとマデリンさん本人が、レヴィの家に訪ねて来たのだ。




「お久しぶりです。

 レイラさん、マデリンさん、そしてユーフェミア叔母上」

 シオドアが愛想よく図太く言った。


 客三人は、思い思いの姿勢で応接間のソファーに座っている。


 アタシはシオドアの後ろに直立不動。

 レヴィはアタシの隣で尻尾の上に座ってる。


 あ、ネリーがお茶を運んできた。



 ここで三人を紹介しておく。


 まず、レイラさん。

 長寿のエルフ族と、子供みたいな外見のケンタウルス族。そのハーフというロイメでも珍しい(レア)種族というか組み合わせ。

 銀髪で紫の目で色白で、外見は12〜3歳ぐらいの美少女に見える。


 歳は誰も知らない。

 祖父ジジイ曰く「俺が若い頃から見た目は変わらない」だと。

 偵察スカウトを名乗ってるけど、肉弾戦も強いんだから、オカシイ。

 肉体補助魔術の達人なんだって。



 次にマデリンさん。

 彼女はセイレーン族だ。

 種族の特徴で、青い髪と青い瞳、満月のように白い肌、六本の指を持つ。

 セイレーン族は、大陸の西の島に住む女しかいない種族らしい。

 女しかいないなら、どうやって子供作るんだろ?

 

 ま、いいや。マデリンさんは、すっごい美人で巨乳だ。 

 うちの祖父ジジイもファンだとさ。勝手にして。

 そして、ロイメ最高の治癒術と水魔術の使い手、らしい。



 最後にユーフェミアさん。

 黒い髪に青い瞳で、白い肌。

 うちのシオドア(リーダー)の叔母だそう。

 種族はハーフエルフで見かけは若々しい美人だよ。

『青き階段』の受付嬢だと思ってたら、ネリーに訂正された。

「経営者の一人」なんだとか。



 この三人組、特にレイラさんとマデリンさんは、いろいろな意味でロイメの有名人だ。


 冒険者通信(タブロイド紙)が、「ロイメから月が消えたようだ」と、彼女達の『不在』を記事にするぐらいの。



「依頼完了の報告に来たわよ。

 ロイメの人攫いどもと繋がる人身売買のルートは潰したわ」

 レイラさんが言い、続ける。


「クソな依頼だったわ。何しろ依頼料が無料ただなんですもの」



「レイラさんは、敬虔な若い娘の守護神(アレグレイシア)様の信者だと聞いています。

 きっと動いて頂けると思っていました」

 シオドアが図々しく答えた。


「突然、シオドアから手紙が届いたと思ったら、異種族の女の子を狙う人攫いと隷属の首輪の話が書いてあるんです。

 本当に驚きました!」

 文句を口添えしたのはユーフェミアさんだ。



 うちのシオドア(リーダー)は、レヴィを助けた直後に、この三人組へ手紙を書いたわけか。


 で、アタシ達がダンジョンに潜ったり、スザナとナガヤ・コジロウ関連で大騒ぎしたりしていた間、ずーっとこの三人組は働いていたと。


 アタシの預かり知らぬ所で、人攫いによる人身売買ルートは壊滅していた。

  

 ここは。


 ありがとうございます!

 ロイメっ娘としてお礼を言います!


 アタシは心の中で頭を下げる。

 機会があれば直接言おう。



「ほとんど無料ただは『輝ける闇』も同じです。人間の悪党から魔石は出ません」

 シオドアがのうのうと続けた。


 ここは、お礼言おうよ?



「あんまり気にしなくていいわよぉ。

 王国からある程度報酬をもらったしぃ。

 あとね、パトリシアちゃんからお礼も貰ったのよ。

 ね、レイラちゃん」

 マデリンさんが言った。


「まあ、あの糞女パトリシアに、頭を下げさせたのは溜飲が下がったわね」

 レイラさんは言った。


 パトリシアというのは、レイラさんマデリンさんと仲が悪い王国の貴族だ。

 どれくらい悪いかと言うと、世代が違うアタシが知ってるぐらいだ。



「パトリシアちゃんが帰れ帰れって言うから早めに戻ってきたんだけど。

 超ラッキー!

 ゴブリン族に会えるなんて。

 マデリン、ゴブリン族を直接見るのははじめて」

 そう言うと、マデリンさんはレヴィに近寄ってきた。



 レヴィは大きな緑の目でマデリンさんをじっと見てる。


「治癒術師さんナリカ?すごい魔力ナリ」


「一応そうだけど。でもマデリン、二つ名なら『愛の使者』の方が好きだなぁ」


 マデリンさんは愛と恋の神(アプスト)の信者として有名だ。

 (アプスト)の名のもとに彼女かやって来たことについては、ノーコメント。


「ほぇー」

 レヴィは毒気を抜かれてる感じ。



 マデリンさんにはじめて会うと女の子はだいたいこうなる。

 そんでもって、マデリンさんが恋人や夫に近寄ってこない限り、ずっとそのまま。



「ねぇねぇ、尻尾触らせてもらっていーい?」


「あ、いいナリです」



 マデリンさんは、レヴィを左手で《《抱き上げ》》、右手で尻尾を撫でた。

 レヴィは腕の中で大人しくしていた。

 抵抗してもしょうがないよね。



「王国やロイメの悪党共も欲かきすぎなのよ。

 女衒なんて普通にやってりゃ十分儲かる仕事なんだから」

 レイラさんはテーブルに頬杖を付きながら言った。




 報告を終えて、シオドアの叔母上ことユーフェミアさんは早々に帰った。

 一方でレイラさんとマデリンさんは昼食の後も居座った。

 どうも夕食までいる気みたい。


 これについては、ノーコメント。

 もう絶対ノーコメント。



 まぁ、偉大な先輩といっしょにくつろぐのは、なかなか難しい。


 アタシは夕食の買い出しを申し出た。

 この分なら、夕食はシオドアが作ることになるだろうしね。

 新鮮な材料がいるよ。


 珍しくネリーもいっしょに来たから、似たような気持ちなんでしょ。






 俺はシオドア・ストーレイ。

 冒険者パーティー『輝ける闇』のリーダーである。


 玄関がノックされた。

 思ったより早かったという印象だ。


 四番目の客が来るのは分かっていた。


 このタイミングで彼が来たのは、僥倖だと思っておこう。





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