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普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第一部 もう遅い、とは言わせない
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第3話 隣の家 

「シオドア、外は誰もいないよ」


「了解、トレイシー。そっちは行けそうか、ネリー」

 シオドアが、ネリーに声をかけた。


「大丈夫よ。でもコレ使っちゃっていいの?」

 ネリーはシオドアに魔石を見せる。


 ネリーが手にしているのは、琥珀色の魔石だ。地の属性石。高価なダンジョンの産物である。


「構わない。やってくれ」

 シオドアが答える。


 あーあ、モッタイナイ。


 ここは集合住宅だから一つの大きな建物が壁で何軒かの家に仕切られてる。


 アタシ達が今いるのは悪党の巣食う集合住宅タウンハウスの、壁を隔てて『隣の家』だ。

 壁の向こうはハーフトロール族の女の子が逃げた家である。



 ネリーは壁に描いておいた魔術印の中央に魔石をはめ込む。


 ネリー曰く「この建物の壁はレンガと漆喰で、要は土の壁。つまりこの壁はハイレベル土魔術で破壊できるのよ」。


粉砕クラッシュ


 ネリーの呪文と共に、魔術印の線のとおりに壁が粉砕された。

 白い壁に人が一人通れるぐらいの穴があく。

 高価な魔石も消滅した。



 壁に魔術で穴を開けていいのかって?

 ロイメの法律には詳しく無いけど、破壊活動になると思うよ。

 近所迷惑度は百二十点ってとこかな。



「行くぞ。スザナはネリーを頼む」

 そう言い捨てると、シオドアは壁の向こうに飛び込む。


 待ちなさいよ!シオ!。

 先頭は偵察スカウトのアタシの役割だってさ!


 アタシは慌ててシオドアを追って壁の穴へ飛び込んだ。

 アタシの後ろにネリーが続く。最後尾はスザナだった。




 この集合住宅タウンハウスは間取りは全部同じなはず。

 アタシとシオドアで一つ一つ扉を開けて中を確認していく。

 一階に人の気配はない。ガラの悪い男達との鉢合わせを覚悟してたんだけど。


「三階に行く」

 シオドアが言った。

 急な階段を二段飛ばしで登る。



 女の子がいたはずの三階の部屋は、ガランとして誰もいない。

 部屋のすみにマットレスが転がっている。


「長い髪が落ちてるね」

 アタシはマットレスの上に金髪の長い髪の毛を見つけた。

 ここに拐われた女の子達がいたのは間違いないと思う。


 三階の他の部屋も誰もいなかった。

 捕らわれてる女の子も、悪党も、善良なロイメ市民もいない。



 二階も人の気配はない。

 家具が置いてあるだけ。ちゃんと洋服ダンスの中も探したよ。

 女の子もいなけりゃ間男もいない。

 もぬけの殻だ。


 ならば?


「地下室かな」


 アタシ達は階段を降りる。


 地下室の扉には鍵がかかっていた。この家ではじめて鍵のかかった扉を見つけた。

 露骨に怪しい。


 そして、アタシの出番ってこと。



 アタシは明かりの魔術道具を使って鍵穴を覗く。


「開けられそうか」


「もちろん。でも、ドワーフ製のいい鍵使ってる。ちょい時間かかる」


「扉ごと壊すとかどう?」

 スザナが提案した。


 いかにもトロール族的・脳筋な解決法だよね。

 アタシの個人的な意見だけど、扉ごと壊すのは下策だと思っている。

 扉を破壊して飛び込んで、刃物持った敵と鉢合わせしたらイヤでしょ。



 あー、シリンダー鍵はだねぇ。

 でも、この鍵は開けられる。開けたことがある。名の知れた工房の既製品だ。改造された様子もない。


 集合住宅タウンハウスの地下室は、使用人を住まわせるか、倉庫に使うのが普通だ。こんな高級な鍵はいらない。

 ホント露骨に怪しいわよ。


 カチリ。

 鍵が開く音がした。

 まぁまぁ早いでしょ?

 練習してるからね。



 アタシ達は緊張と期待と共に地下室に入る。

 地下室は小さな明り取り窓から光が差し込んでいる殺風景な部屋だ。


 大きな棚が一つあり、棚の上にはリネン類が置いてあった。すみには古そうな道具類がいくつかある。



「誰もいない?もしかして家を間違えたか?」

 スザナがきょろきょろ見回しながら言った。


「なわけないでしょ!三階部屋のマットレスに髪の毛が落ちてたでしょ!あそこには女の子がいたのよ」

 アタシは反論する。


「どうでもいい場所にドワーフ製の鍵を付けたりしないわよ」

 ネリーもアタシに同調した。



 この地下室には何かがあるはずなのだ。その何かを探すのが偵察スカウトの仕事。

 アタシは床に腹ばいになり、『何か』の痕跡を探す。


 まずは床下に隙間ないか。床を叩いて音を聞いてみたが、空洞はなさそうだ。


 腹ばいになってみて、違和感がある。埃が落ちてない。

 たかが地下室を掃除する?



「ねぇトレイシー、床より先にあの棚を動かして後ろを見た方が良くない?どう見ても怪しいと思うわ」

 ネリーが言った。


「……」


 アタシも棚は怪しいと思うけど、段取りってモンがあるんだってばさ!


 結局、床下に空間はなかった。フン!



 さて、『どう見ても怪しい棚』は高さはシオドアの身長と同じぐらい、白い壁ぎりぎりに置かれている。

 なお、壁の向こうは『さらに隣の家』になる。

 

「この向こうに抜け穴があると思う?」

アタシはやけくそで質問した。


 ネリーとシオドアが軽く手を挙げた。


 まあ、そうだよね。

 床に埃が落ちてないのは、棚を動かした跡を残さないためかな。


 じゃあ。


「抜け穴があったとして、後ろに悪党が待ち構えていると思う?」


 今度はスザナ含めて全員が手を挙げた。


 だよねぇ。




 さて、怪しい棚を片付ける前にやることがある。

 打ち合わせとか作戦会議とか呼ばれるヤツだ。

 『冒険は段取りだ』ってのは冒険者だった祖父ジジイの言葉。

 たぶん正しい。

 

 

 そしてそれが終われば、進むのみ(レッツゴー)



 まず、空の棚の前に剣を構えたシオドアが立った。


凍氷剣アイスブレイド


 シオドアの細身の剣はメキメキと氷に覆われ、厚みと長さとを増していく。

 シオドアは氷属性の魔術師で、氷の魔剣使いである。


 シオドアが一歩踏み出し、一息に剣を振り下ろす。

 振るうのは、凍てついた氷の刃だ。


 木の棚は真っ二つになった。


 棚の向こうの壁には、ネリーがあけた穴より少し小さめな穴があった。


 壁に穴あり。


 悪党もアタシ達も考えることは同じってことね。




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