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第35話 吉凶

 アタシとシオドアとネリーの三人は、地図を見ながらロイメの下町を行く。

 ほら、レヴィが看取った?冒険者がいたでしょ。

 その家族を訪ねるためだよ。


 アタシ達がスザナの問題でバタバタしていた裏で、シオドアは死んだ冒険者について調べていたらしい。


 アタシを頼ってくれても良かったのに。偵察スカウトなんだから。

 ま、いいや。この話はここでストップ。




 スザナは今日、先生の所へ挨拶へ行ってる。

 コジロウと夏祭りデートが決まってから、スザナはすっかりお花畑状態。

 ちょっと喝を入れてもらってよ。


 ヘンニは祭りの実行委員で忙しいって。



 そんなこんなで、アタシとシオドアとネリーの三人組になった。

 三人とも人間族だし、会ったことないヒトを訪ねるなら妥当な組み合わせだよ。



 肝心のレヴィは家に残っているけど。



「レヴィは連れて行けない。人目につく」

 シオドアは言った。


「伝言を聞いたのはレヴィなのに?」

 アタシは質問した。


「残念だが仕方ない」


 その時アタシはようやく理解した。

 レヴィはこの家に軟禁されているのだ。


 ロイメ市の留置場から、中庭のある小綺麗な家に移ったけど、レヴィは自由の身ではない。



 さて、悪党どもはレヴィが持っていた遺髪は取り上げなかった。

 まぁねェー、金にならないモンだしねェー。


「ともかくだ。レヴィがダンジョンから持ち出した遺髪は家族に届ける」

 シオドアが宣言した。


 リーダーの決定だ。

 探索クエスト開始。

「死んだ冒険者の遺髪を家族の元に届けよ」




 この辺りは下町でも貧しい地域だ。水質浄化の魔術が使われてなくてドブが臭い。

 でも、ドブは溢れてないし、貧民窟スラムではない。


 目指す家は木造の集合住宅、その中の北向きの部屋だった。



 ドンドンドン。

 シオドアが扉を叩く。ノッカーはついてない。


「どちら様ですか?ゴホッ」

 中から中年の女が顔を出した。少しやつれた雰囲気だ。

 ブルネットの髪に白髪が目立つ。


「僕は冒険者パーティー『輝ける闇』のシオドアと言います。息子さんの遺品を届けに来ました」



 アタシ達は、家の中に招かれた。

 入口の土間にかまどがあり、奥の板の間に上がる時は靴を脱ぐ。

 ロイメの伝統的な庶民の家はこんな感じ。


 表に出てきたのは、母親だろう。

 部屋には十代前半に見える少年と十歳前後だと思われる女の子がいた。

 二人とも痩せぎすだ。

 栄養失調とは言わないけど、いいモノ食べてなさそう。


 この家なら、死んだ冒険者は稼ぎ頭だったんじゃないかな。



「こちらが遺髪です。家族には『すまない』と言っていたそうです」

 シオドアが遺髪を渡す。


「これだけですか?ゴホッ」

 母親は露骨にがっかりした顔になる。


「息子は新しいクロスボウや革鎧を持っていたはずですが、それはないのですか?」


「残念ですがありません」


 母親やシオドアをにらむ。納得していなさそう。



「母ちゃんもう諦めろよ。兄ちゃんは死んだんだ」

 十代前半と思える少年が言った。


「というかさ、何で今ごろ来んだよ。

 同じパーティーの人が兄ちゃんは第四層でロック鳥にさらわれて死んだって言ってたぞ」


「第四層に住むのゴブリン族の1人が、君のお兄さんを看取ったんだよ。

 僕達は、ゴブリン族から彼の遺髪と伝言を頼まれたんだ」

 シオドアが答える。


「では、私の息子の装備は汚らわしいゴブリンに盗られたんですね。ゴホッ」

 母親が咳き込みながら言った。


 その瞬間、シオドアの纏う空気がスゥッと冷たくなるのが分かった。

 シオドア、怒ってるな。



 アタシはネリーに目で合図をする。

 母親と話をする役は、アタシとネリーが引き継いだ方が良さそう。


 死んだ冒険者の装備は、落ちる途中で無くしたか、悪党が持ち去ったかかなぁ。

 レヴィに盗む甲斐性はない。


「息子さんは、第四層で高い所から落ちて怪我をしていたってゴブリン族から聞いたよ。

 アタシ達は現場を見たわけじゃないけど」

 アタシは言った


「伝言を伝えただけで十分親切なつもりだわ。文句を言われても困るわ」

 ネリーは貴族らしく高慢に言う。


 母親は泣き出した。


「母ちゃんもう諦めろよ。

 兄ちゃんも、兄ちゃんが父ちゃんの遺産で買った高いクロスボウも戻って来ないよ」



 その後、泣いて咳き込む母親と弟の少年から話を聞いたんだけど。


 兄ちゃんは、家族の反対を押し切って冒険者になった。

 稼げる冒険者になるには良い武器が必要だって言って、死んだ父親が残したわずかな金を持ち出してクロスボウを買った。


 このクロスボウで稼いで、お前らにもっとぜいたくさせてやるって言ってた所で、第四層で死んだんだって。


 あちゃー。


 アタシ達は、遺髪を渡し(本人のもので間違いないって)、家を出た。




 家を出て見送ってきた少年の前で、シオドアは腰をかがめた。


「今、14歳だと言ったな」

目の位置を同じにして話しかける。


「そうだよ、あと三月で15歳だよ」


 シオドアは少年に大金貨を握らせた。十万ゴールドだ。


「もらえないよ」


「あげるんじゃない。貸すんだ。

 君はあと三月たてば成人だ。そうしたら、今より稼げる。

 残り三ヶ月の生活の足しにしてくれ。

 二十歳をこえて本当の一人前になったら俺に返してくれ。『冒険の唄』の『輝ける闇』のシオドアだ」


 少年は迷った顔をしていたが、十万ゴールドは握ったままだ。


「冒険者になんかなっちゃダメだよ」

 アタシは声をかけた。


「なるわけないだろ。俺は魔術道具職人になるんだ」

 少年は言うと、家の中に消えた。



「十万ゴールドで足りるかな?」

 シオドアが言う。


「カツカツやれば足りるよ」

 アタシは答える。


 帰り際にもう一枚渡そうとしたシオドアを止めたのはアタシだ。

 少年が大金を持つと危険だ。

 周囲の目もある。


「それより、家賃を払ってやった方がいい。多分溜めてるよ」


「じゃ、もう一仕事ね」

 ネリーは言う。


 そうだね。

 善行をするなら、最後までってね。







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