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【衝撃の結末・ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第四部 雨が降れば虹が出る
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第34話 告白

 「はじめ」の一言で試合が始まった。


 低い姿勢で、互いに手を出すが組むにはいたらない。



「皆の衆!分かってると思うが、三本勝負だから最初に二本とった方が勝ちだぞ!

 ここでナガヤ・コジロウが勝てば、勝負は決まるぞぉ!」


「まだ見たいッスよー」

「三試合やろうぜ」

「スザナちゃーん、頑張れー」


 観客席の空気が変わった。

 みんな、まだ試合が見たいらしい。

 スザナの応援が多くなった。 

『青き階段』は、コジロウのホームなんだけどね。



 スザナが低い姿勢から一気にコジロウの内側に入り込み、抱きつく。

 そのまま相手を倒す(タックル)

 スザナがずっと練習していた技だ。


 アタシはナガヤ・コジロウが砂地に倒れると思った。

 残念だが、コジロウは倒れない。


 抱きつかれながら、後ろに後退し、円から出る。


「皆の衆、円から出ると減点マイナスポイントだぁ!」


「コジロウは、何で出たんですかァ?」


「そのまま倒される方が、減点マイナスポイントが大きいと判断したんだよ、皆の衆!」



 再び真ん中からスタートだ。

 スザナは額の汗を拭いた。


 両者の身体からは汗が噴き出している。

 観客の多く、特に男どもの視線はスザナに集中している。

 ほとんど食い入るように見てる男もいる。

 まあ、競技をレスリングにした時から、予想はできたことだよ。



 試合は再び低い姿勢から始まった。


 今度はコジロウがスザナの手首を取ることに成功した。

 そのまま引き付けて、スザナの身体を回転させようとする。

 スザナはさらに低い姿勢で躱した。


 いっしょに練習したけどレスリングの低い姿勢は疲れたなぁ。

 静かに見えてもハードな戦いなのだ。



 お互いさらに低い姿勢になった。

 互いに隙を伺うが、決め手がない。

 微妙な時間だ。



「なぁ、スザナ」

 コジロウが話しかけた。


「黙れ。試合の最中だ!」

 スザナは厳しく応対する、って言いたいけど反応しちゃった。

 ここは一気に詰めなきゃ。


「スザナはは何で俺との三本勝負を申し込んだんだ?」

 コジロウの質問は続く。

 余裕だねぇ。


「それは!トロールの血を引く女は戦わなくてはならないからだ!」

 スザナはまた素直に答えた。

 だーかーらー、ここは詰める所だって。



「それは、俺じゃなきゃならんのか?

 コイチロウ兄者や、コサブロウでは駄目なのか?」

 駄目に決まっとるわい。


「駄目に決まってるだろう!

 あたしが好きなのは、コジロウだし、いっしょに夏祭りに行きたいのもコジロウなんだぞ!」



 えっ?

 あっ?

 スザナの正式告白、来ちゃった?

 普段のスザナなら真っ赤になっちゃうような言葉だよ!



 コジロウの動きが止まった。



「コジロウ、逃げは許さん。

 あたしと勝負しろ!

 あたしはお前に勝って、お前の心も手に入れる!

 それがトロール女の宿命だからだ!」



 さらに二発目が来たぁ!

 


 さて、コジロウの表情だが、さっきの凶暴な雰囲気は消えていた。

 割といつものコジロウだ。


「俺は運試しの賭けの最中でな。未来に何の約束もできぬのだ」


「それがどうした!トロール族の女から見れば、逃げの言い訳に過ぎん!」


「俺の未来は五里霧中、俺にも分からぬ。

 スザナ殿、そんな俺でよければだが。

 ロイメの夏の祭り、共に行かぬか?」


 おおおっ!?


「本気か?」


「本気だ。

 俺は未来も分からぬフラレ男だ。そんな俺でよければだが」


「なぜ、今になって気が変わった?」


「特に変わっておらぬぞ」


「あたしを振っただろう」


「スザナ殿を振った?そんなことあったか?」


「いや、だからアタシは……」


 そう言えば、スザナがコジロウに好きだと告白したのは、今回が初だねぇ。

 態度から見え見えだったけど。



「コジロウ、スザナちゃんのあの態度で気づかないのかぁ」

「ふつー分かるよなぁ」

「というかさぁ、『青き階段』で気づいてない奴がいたんだな。掃除のおばちゃんも知ってたぞ」

「そして、それが本人ってオチかよ」


 観戦している冒険者達もざわついている。



 スザナは一時押し黙った。そして一気に言った。


「コジロウ、あたしはお前に惚れているんだ!

 共に夏の祭りを楽しみたい!

 未来ではなく、今の話をしている!」


 スザナの告白、三発目ェ!!



 コジロウは背筋を伸ばし、スザナの手を取った。

 優しく、丁寧に。


「喜んで。共に祭りを楽しもうぞ!」


「「「うおぉォォォぉお!!!」」」

 どよめきが辺りを支配した。



 スザナはコジロウ姫をさらえたのかな?

 アタシもヘンニも頑張ったよね。

 賭けはどうなるんだよ、とか言う声も聞こえたよ。

 それはまた別の話ということで。




「トレイシー!」

 なんか聞いた声に呼ばれた。

 アタシは振り向く。


「はいどうぞ!」

 

 差し出されたのは、花束。


 ちょっと待った。

 反射的に受け取りそうになったじゃない。


「今回は受け取ってくれるっしょ?

 スザナちゃんは片付いたし」

 いつものお騒がせ男、ギャビンは言った。


 いやでも、ここで受け取ったら空気に流されてる感じじゃん?

 今花束を受け取る気分かどうかと言うとサ、どちらかと言うとサ。



「受け取っとけ、受け取っとけ。

 俺の女房なんざ、若い頃は一度の祭りで花束3個もらったんだとか、今だに俺に自慢してくるぞ」

 賭屋のオッサン(なお、ハゲだ)が、アタシに話しかけてきた。


 ロイメの女の子にとって、夏の祭りで花束を何個も貰うのは、ステータスになる。

(もちろんさらに重要なのは、誰に貰うかだけど)

 ギャビンの花束かぁ。どうしよう。


「貰っとけば良いじゃないか。きれいだし」

 ヘンニが話しかけてきた。



「ヘンニさんは、今年はいくつ貰ったんですか?」

 賭屋のオッサンがヘンニに聞いた。


「今年の花束は五個だね」

 ヘンニが応える。


 マジで?


「あたしは祭りの実行委員で、当日仕事だから全部断るんだけどねぇ」

 ヘンニは続ける。


「五個ですかぁ。実行委員になって流石にちょっと減りましたか。

 昔は毎年すごかったですよね。

 全盛期はいくつぐらい貰ってたんですか?」

 賭屋のオッサンがさらにヘンニに質問した。


「十個を超えた年もあったよ。

 ほとんどトロール族の男からだよ。

 ロイメにいるトロール族の女は数が少ない。彼等にら選択肢がないのさ」

 ヘンニは答える。


 ……。



「ちょーだい、花束」

 アタシはギャビンに向けて手を出した。

 悔しいわけじゃないよ?

 悔しいわけじゃないんだからね?


 花束は普通に貰っていいモンなんだから。



「どうぞ、トレイシー」

 ギャビンはアタシに花束を渡した。

 青いキキョウのかわいいヤツ。


「返事は祭りの前日まで待つッスよ」


「考えてから返事する。

 当日、ダンジョンかもしれないから、その時はごめん。

 戻ってきそうになかったら、別の相手誘ってもいいからね」


「義理堅いのがトレイシーちゃんらしいッスね。

 その時はフラレ野郎どもといっしょに酔っ払ってるッスよ」

 そう言うとギャビンは去って行った。



 アタシは手元の花束を見る。

 二個目、もらっちゃったよ。

 今年の夏のお祭り、男のパートナーと行く気はなかったんだけど、どうしよう。



 会場の真ん中ではスザナとコジロウが祝福されている。

 今日の主役は彼等だね。


 それは間違いない。





次章はいよいよゴブリン族の話になります。

14万字〜20万字ぐらいで完結を予定しています。

今しばらくお付き合いをお願います。


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