第31話 ゴブリン族について語ってみる
レヴィの家に新たな客がやって来た。
『青き階段』のドワーフの武術教官だ。
シオドアが『青き階段』のクランマスターと交渉して連れて来た。
コジロウの弱点を誰よりも知る男だそうだ。
ちなみに、『ドワーフさんと話せるなんてと』とレヴィがえらく感激していた。
レヴィを連れ出した悪党三人組の一人はドワーフだったが、ろくに話せなかったんだってさ。
「剣や槍で戦うのは愚策」
ドワーフの教官は言った。
「じゃあどうするわけ?」
「戦うなら素手だ。レスリングが良いだろう」
男女のレスリング対戦か。アタシは嫌だけど。
スザナは頬を赤らめて、嬉しそう。
良いんじゃないかな。
ドワーフの教官にスザナを任せたヘンニが、アタシ達の方へやって来た。
「ねぇ、ヘンニ。疑問なんだけどサ」
アタシはずっと疑問に思っていた事を聞く。
「なんだい?」
「トロール族の『恋の勝負』って、どれくらいの割合で女が勝つの?」
「『恋の勝負』にもいろいろあってね。
半分男と口約束が成立している時もある。
例えば『恋の勝負』を口実に前の女と別れたい時とかだね。
そういう時は当然、女が勝つよ」
「ふーん」
「年長の女戦士が若い男を口説くのに使う時もある。
これは、男もそう簡単に負けるわけにはいかないから、勝率はぐんと下がる」
「へー」
「同世代同士の本気の『恋の勝負』は、あんまり見ないよ。
そして、女が勝ったのを見たことがない」
「ほっーて、やっぱり分の悪い賭けなんだ」
「トロール族の女は強いが、男はもっと強い。男にも面子がある」
「スザナに勝ち目はある?」
「普通にやれば勝ち目はない。
でも、ナガヤ・コジロウは女に弱いからね」
ほーほー。
「もう一つ質問があるんだけど」
「なんだい?」
「トロール族は強い男が好きなんでしょ?
だから勝っちゃったら、女の方が冷めちゃうというか、えーと」
「蛙化」
ネリーが言った。
「そう。蛙化みたいなことは起きないの?」
「起きるよ」
ヘンニはストレートに答えた。
あ、やっぱり起きるんだ。
「勝とうが負けようが、蛙化しようがしまいが、勝負はした方がいいだろ?
スザナのためにも『輝ける闇』のためにも」
ヘンニは言った。
そりゃそうだわ。
向こうでは、スザナを打ち身をレヴィが治している。
レヴィの治癒術はよく効くよね。
「スザナ、もうひと勝負行くよ。あたしが相手する」
ヘンニはそう言うと、中庭の真ん中へ歩いて行った。
「ねぇ、トレイシー」
ネリーが言った。
「私ね、ゴブリン族について魔術師クランで調べてみたのよ」
それはアタシもめっちゃ興味あるよ。
「で、どうだった?」
「それが全然なの。ゴブリン族に関わる新しい資料や詳しい資料は見つからなかった。
昔話や、伝説みたいなのばかり」
「そんなモンなわけ?仮にも魔術師クランなのに?」
アタシはがっかりした。
「言っておくけどね、トレイシー。資料らしい資料がないってことが発見なのよ」
「そうなの?」
「だって魔術師クランよ。
ゴブリン族はロイメのダンジョンに延々と暮らしてきたのよ。
ロイメに数百年暮らしている種族に関して、『魔術師クラン』に資料がないなんてあり得ないわ」
確かに、魔術師らしくないよね。
魔術師って、何にでも口を突っ込んで、調べたり、資料を作ったり、勝手な意見を言ったりする連中じゃないの?
「とりあえず、ここまては誰でも見れる開架書庫の話よ。
私は閉架書庫も探すことにしたの」
「それで?」
「閉架書庫には、さすがにゴブリン族についての資料があったわ。
私が見つけた一番良い資料はゴブリン族の言語についてって本よ。
あと、ダンジョン第四層の地図ね。
ゴブリン族の住んでるエリアについても書かれていた。
他にも書物リストにはゴブリン族に関わる本がある」
「閉架書庫には、当たりがあったってわけ?」
「書物リストって言ったでしょ。
ゴブリン族に関わる本の多くが冒険者ギルドへ貸し出し中だった。
書庫のリストには載ってるけど、魔術師クランの書庫の中にはないってこと」
「ありゃま。
えーと、ゴブリン族は冒険者ギルドの管轄ってわけね」
「そういうことよ。
師匠に聞いたんだけど、ゴブリン族について詳しい魔術師も、冒険者ギルドに出向中ですって」
「独占管理ってヤツね」
「そういうこと。
でね、そんな中で面白い本を見つけたのよ」
「どんな?」
「古い解剖学の本よ。
人間族やエルフ族やドワーフ族、トロール族、ケンタウルス族、その他の魔物もふくめて、骨格や内臓の配置が載ってる」
「きょ、キョーレツな本だね」
「内容はちょっと時代遅れなのよね。でも、羊皮紙に書かれた古くて貴重な本よ。本棚に鎖で繋がれてるの」
「……そ、そう」
「その本にはゴブリン族の骨格についても書いてあったんだけどね」
「ど?」
「ゴブリン族についてのページが1ページ切り取られていたのよ。
ご丁寧に、切り取りを許可する栞まで挟まっていた。
切り取って良いような本じゃないのに」
ネリーはまとめた。
えーとえーと、ネリーの話を整理すると。
「ゴブリン族については、冒険者ギルドが管理している。
そして、冒険者ギルドは、ゴブリン族について普通じゃできないようなこともできる。
こんな感じ?」
「そういうことよ。何処のどいつよ、あんな貴重で美しい本のページを切り取るなんて」
ネリーはぷりぷり怒っている。
「シオドアがサァ、口が重いけど、もうちょい何か知ってそうな気がするんだよね」
アタシは言った。
冒険者ギルドなら、シオドアはコネがある。
「それは私も考えてる。レヴィの連れ出しもかなり無茶したけどやり遂げたし」
中庭の明るい日差しの中で、レヴィとスザナが話していた。




