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【衝撃の結末・ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第四部 雨が降れば虹が出る
33/80

第30話 ハーフトロールのスザナ、語る

「そこまでだよ!」

 レヴィの家の中庭にヘンニの声が響く。


 アタシはスザナに関節技にかけた所だ。

 


「スザナ、そんなんじゃ駄目だよ。

 人間族の偵察スカウトに負けるようで、どうやってコジロウに勝つんだい?」


 ヘンニが怒鳴った。


 只今、スザナの特訓中。

 スザナには、ナガヤ・コジロウに勝ってもらわないといけない。



 あの後、アタシ達のはコサブロウを味方に引き入れるべく説得した。

 『たまには兄貴の足を引っ張るのも悪くないわよ』とネリーに言われて、コサブロウは落ちた。


 兄コジロウの弱点やら愚痴やら色々話してくれた。

 なかなか有益な情報が聞けたよ。



「スザナ、気合だよ!

 何がなんでも勝ってやる、そういう気持ち。

 それが足りないんだよ!」

 ヘンニは喝を入れている。


「はい、頑張ります!」

 スザナは素直に答える。


「トロールの女は強いけど、トロールの男はもっと強い。

『恋の勝負』に勝つのは簡単じゃないんだ!

 相手はあのナガヤ・コジロウだ!

 スザナは戦いを舐めてる」


 ヘンニは怒声はさらに続いた。


 練習でスザナと二戦して一勝一敗だ。

 ここは勝ちを譲ってやるべきだったかな。

 途中で気合の爆竹バォズウを使っちゃったよ。

 負けると悔しくてサ。




 「確かにスザナは気持ちが弱いわね」

 アタシ達の特訓を、《《中庭の日陰ですわって》》眺めていたネリーが言った。

 

 ちなみにレヴィは木の上だ。


 「スザナは試合が苦手なんだよ。

 ダンジョンでの実戦はまぁまぁだよ」

 アタシはスザナをかばった。

 流石に、まぁね。



「スザナはさ、勝ったり負けたりが嫌いなんじゃない?

 正直に言うけど、私でも勝てそう」

 ネリーがさらに追い打ちをかける。


 いくら何でもネリーじゃスザナに勝てないでしょ、と言いたいが。

 うーん、ネリーは精神操作属性魔術師だからなぁ。


 例えばネリーがよく使う『混乱』という術。

 これにかかると一瞬ぼーっととし、何が何だか分からなくてなる。

 すぐ正気に戻るんだけど、その間にグサッとやられたら?


 もしアタシがネリーと戦うなら、縛り上げて猿ぐつわ、いや口に布を突っ込んで……、いや気絶技、いややっぱり即殺か……。


「ちょっと、トレイシー。変な事を考えてるでしょ」


 あ、バレた?ごめん。


「スザナは多分、そういう変なことを考えないのよ。

 優しいのはいいけど、戦いのシュミレーションが足りてないのよ」



 ヘンニの説教が一段落して、スザナがアタシ達の方にやって来た。


「スザナは喧嘩嫌いだよね?」

 アタシは言った。


「……実はそうなの」

 スザナは答えた。


「でも、今回の喧嘩は勝たなきゃいけない喧嘩だよ」

 そう。アタシとしては勝ってもらいたい。



「あたし、先生に拾われる前は、剣闘士奴隷だったんだよね」

 スザナがポツリと言った。


 いきなりディープな話題がきたよ!


「じゃあスザナは南の方の出身?」

 ネリーはあっさりと質問した。


「生まれたのはもうちょい別の所だけど、育ったのは南の海沿いの貿易港」


「あー、あそこら辺ね。奴隷の剣闘士を戦わせる文化があるよね。

 悪趣味よねぇ」

 ネリーはなんやら一人で納得してる。



「母親と家族に売られてね。

 まあ、やたら飯ばかり食うし、面倒見てられないってなったんだろうね。

 トロール族だった父親は顔を見たこともないよ」


 さらにディープな話題来たぁ!


「売られた先で、剣闘士として買われて育てられたのに、弱くて親方にいつも怒られてた。

『お前は見かけ倒しだ』ってよく言われたなぁ」

 スザナは続ける。



「それは辛かったと言うか、良く生き延びたね」

 アタシはスザナの境遇に同情した。

 ここまで過酷な半生だとは思わなかった。


「男だったら死んでたと思う。

 でも、女だったから一応利用価値はあった。

 試合の前座で際どい鎧を着て、ショーまがいのことをやったりしてた」


 アタシは沈黙する。

 ネリーも無言だ。

 何も言えない。



「でね、先生がね、あたしのいた町まで仕事で来た時にさ、……どういうわけかあたしを目に留めて、あたしの身分を買い取ってくれたの」


 スザナの先生への傾倒はこのせいかな?


「あたしは別に不幸じゃないんだよ。

 こうして五体満足に生きてるし、先生にも会えた。

 ダンジョンに潜るのも嫌いじゃないし。

 時々好きなモノを思いっきり食べるぐらいのお金はあるし」

 そう言うとスザナは笑顔らしきモノを浮かべた。


 スザナのあまり欲をかかない生き方は、正しいのかもしれない。

 でも、今回はそれじゃ駄目だ。




「それよ。

 スザナ、あなたは満足してる。

 欲が足りない。

 欲を持たないと、コジロウに勝てないわよ」

 アタシが言う前にネリーが言い、そして続ける。


「例えば、そこのレヴィを見なさい。

 死んでもいい。

 故郷を失ってもいい。

 それでも外に行きたい。

 欲そのものじゃない」


「そうですナリ。レヴィはやりたいことは断固やる主義ですナリ」

 話題になったレヴィは嬉しそうに木の枝に尻尾でぶら下がってる。



 その欲というか望みのために、レヴィは隷属の首輪を付けられて木箱に入っていたわけでしょ。

 無計画だし、やり過ぎだと思うな。


 アタシは欲と現実の丁度良い塩梅を探したいよ。


 ただスザナは、ネリーの言葉に心を動かされているようなので、アタシは反論しなかった。

 いや、ここはスザナに追い打ちかけとくか。



「ネリーは魔術の修行のために、王国からロイメに来たんだよね。

 貴族の身分を捨てて」

 アタシは言った。


「まぁ、そうね、うん」

 ネリーが歯切れ悪く答える。


「アタシは、故郷は捨ててないけど、偵察スカウトの修行は頑張ったね。

 冒険者になりたかった。

 目立ちたかったし。

 スザナが人生で自分で決めたことは何がある?」



「あたしは売られて剣闘士になって、先生に言われて冒険者になった。

 まだ何も自分の力で決めてない」

 スザナは答える。


「今回は自分で勝負を決めないと。

 スザナの恋なんだから」

 《《これ》》は友人としての本気の言葉だ。


「戦うの、好きになれるかな?」


「戦う相手はスザナが好きな男なんでしょ。

 戦闘種族トロール族の血を信じて楽しみなささいよ」

 ネリーが言う。


『好きな男』と聞いて、スザナの頬に紅が差した。

 本当に好きなんだねぇ。





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