第25話 お化け屋敷を探索せよ
ロイメの北東部は緑が多い。
建ってる建物は、神殿関係やら、金持ちの別邸やら。あと公園とか。
この辺りは、小高い丘になっていて、坂が多く、運河から遠く、水道も来ていない。
井戸を掘るにも深く掘らなければいけない。
そんな一角にレヴィの家はある。
四方を白い壁で囲まれて、中庭がある大きな古い家だ。
アタシは玄関をノックした。
「トレイシーだよ、開けてよ」
大きな声で呼ぶ。
この建物に使用人はいない。呼ぶとレヴィ本人が鍵を開けてくれる。
反応なし。
「スザナだよー!来たよー!」
スザナがさらに大きな声で呼びかけるが反応なし。
うーん。
「トレイシー、あれやってよ、鍵開け」
いや、それは、……どうしよう?
アタシは扉の取っ手を軽く回してみる。あれれ、回る。
「鍵はかかってないみたいだね」
「返事がないのはおかしいし、入ってみる?」
そもそも、レヴィは人身売買組織に囚われていたのだ。
連中がレヴィを取り返しに来たとか?
アタシとスザナは顔を見合わせる。
「やばい。悪党がここに来たのかもしれない。中を確認しないと」
扉を開けて中に入った。
ギィィー。扉の音が響く。
ここの扉、こんなに音が大きかったっけ?
バタン。スザナが扉を閉めた音が響く。
ここの扉、こんなに音が大きかったっけ?
「スザナ、悪党がまだ中にいるかもしれないよ。用心して進もう」
スザナがいて良かった。ホント良かった。
「分かった、トレイシー。二人で協力して探索しよう。
二手に別れるとか絶対なしだからね」
スザナの声にも緊張がある。
アタシとスザナはAランク冒険者だ。悪党の一人や二人、ちゃんと対処できる。
スザナは剣を抜いた。
アタシは爆竹の準備をする。
「あたし前衛やるから」
スザナは小さな声で言う。
「分かった。アタシが後衛。いざという時は音を鳴らすし煙玉も使う。驚かないで」
アタシはささやき返す。
玄関は吹き抜けの大きなロビーで、左側に大きな階段がある。
空気はひんやりと緊張している。
向かい側の窓から見えるの中庭の光がまぼろしのようだ。
背筋がゾクゾクする。ここには何かがいる。
「ひっ、二階に何かいた!」
スザナが怯えた声をあげた。
アタシは階段の上を見るが、人影は見えない。
「大丈夫よ、誰もいない」
アタシとスザナは弱くない。
アタシ達を確実に殺るなら、熟練した飛び道具使いか、中級以上の攻撃魔術師が必要だろう。
アタシは煙玉を手に持つ。
とりあえず目隠しになる白だ。
怪しい奴がいたらまず視界を遮る。
「レヴィの部屋は一階の奥だったよね」
「まずは手前の応接室から調べよう。反時計回りに順番にね」
アタシは壁に背中を付けて、応接室の扉の取っ手をひねる。
扉の前には剣を抜いたスザナ。
扉を、開ける!
「ギャアアアア!!」
スザナが悲鳴を上げた。
いる!何かいる!
アタシは決死の覚悟で部屋の中に入る。
「……キャハハは……」
白い影が部屋の中でくるくる回って踊っている。
アタシは死霊属性はほとんどないけど、うっすら見えるし、聞こえる。
レヴィの言葉を思い出す。「レヴィは死霊術が使えるし、なんとかなると思ったんですナリ」
ロイメでは死霊術の使い手は少ない。禁止はされてないけど。
白い影、おそらく幽霊はアタシとスザナの周りをくるくる回る。
とりあえず敵意はなさそう。
「レヴィー!!!何やってんのよ!!!」
アタシは地団駄踏んで喚いた。
とりあえず、この家に泥棒も悪党もいない。
絶対いない。芋菓子一袋賭けてもいい。
この家に入れる泥棒はいない。
家の中の怪しい気配の正体は分かった。
おそらくレヴィが召喚した幽霊だ。
アタシとスザナは順番に扉を開けてレヴィを探す。
一階の部屋にもトイレにも風呂にも台所にも食堂にも、レヴィの姿はない。
ロビーの階段を登って二階へ行く。
レヴィの身長だと階段の幅はきつくないか?
二階に登り、アタシ達が最初に入った部屋は図書室だった。
そこにレヴィとネリーがいた。
他にもいろいろと、いた!
隅に大人しく立ってる青助。
ネリーが使役するもう一人のスケルトン赤吉は、踊って?いた。
部屋の中をぐるぐる回る白い幽霊たち。
床や机の上に散乱した何冊もの本。あちこちに何本も転がってる酒瓶。
そしてソファーで寝こけているネリー。
テーブルの上でうつ伏せに寝てるレヴィ。
ここは魔女集会の会場かい!
いんや。正真正銘の死霊術師二人の宴会場だ。
「何やってるのよ、二人とも。
起きなさいよ、ついでにアレ引っ込めなさいよ!」
アタシは喚いた。
「あら、トレイシー」
ネリーの目が開いた。
「何やってんのよ。近所迷惑よ」
アタシは言った。
「レヴィが私の青助の扱いが雑だって言うからさ」
そう言えばそんなことを言っていた。
「じゃあ具体的にどうなんだって話になって、レヴィのやり方を見せなさいよってことになって」
「それで?」
「二人で死霊術について議論してさ」
「そんで?」
「ゴブリン族は酒を捧げて召喚したりするって言うし、この家、けっこう良いワインとか置いてあって」
「で?」
「捧げた後は飲みましょってなって、なんか盛り上がって」
「?」
アタシは顎をしゃくった。
「気がついたら、今だった」
ほー、そうですか。
「ネリー、レヴィ」
アタシの後ろにいたスザナが冷え冷えとした声を出した。
スザナはワナワナと震えている。
あ、なんか爆発する。
「この部屋は何ですか?
散らかり放題じゃないですか!
だらしない!」
「あれ、スザナ、ナリネ」
レヴィもなんとか目を覚ました。
「こんな部屋、先生なら絶対許さない!
起きて!二人とも!掃除するよ!」
スザナは怒鳴りながら地団駄踏んだ。
アタシ達は、スザナのヒステリーに当てられて大掃除をするはめになった。
アタシ的には「ま、しょうがないか」ってな感じ。
でも、二日酔いだったネリーとレヴィはかなり辛かったみたい。
特にネリーは「掃除なんて私の仕事じゃない」とか言ってた。
まあ、二日酔いの頭痛がひどかったんだろうね。そういうことにしておくよ。
午後から、シオドアとヘンニもやって来た。
結局、『輝ける闇』全員で大掃除となった。
レヴィのために開けたけど、この家は長い間空き家だったらしく、十分に掃除されてない場所はたくさんあった。
一日中掃除して、午後からはネリーとレヴィも少し戦力になり、家はおおかたきれいになりましたとさ。めでたしめでたし。
あ、夕食はシオドアが作ったよ。
やっぱ美味かったわ。
アタシの料理は祖父と一部ベラおばさんに習ったんたけど。
シオドアは誰に料理を習ったんだろうね。
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