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【衝撃の結末・ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第四部 雨が降れば虹が出る
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第24話 昔話

 そして、勇者はゴブリン族を退治しました。

 勇者は村人からたいそう感謝され、次の旅へ向かったのです。



 むかしの夢を見た。

 アタシがまだ小さな女の子で、母さんと父さんといっしょに暮らしていた頃の夢だ。


 アタシは母さんのお話が大好きだった。

 特に勇者の話はお気に入りだった。


 勇者の話はゴブリン退治に始まり、ドラゴン退治を経て、お姫様と結婚し、王になって終わる。


 他にも母さんから聞いた話はあるが、御伽噺の中でゴブリンはいつも悪い奴らだ。

 そして、物語の最初の方で退治されてしまう。



「なんでゴブリン族は毎回悪役なんだろ?」


 朝の身支度をしながらつぶやいた。

 まず着替え、それから顔を洗う。


 探索クエストは終わった。下宿の朝だ。



「よほど人間族と仲が悪かったのかな。

 でも、トロール族やケンタウルス族も人間族とそんなに仲が良くないよね。


 トロール族もケンタウルス族も、境界付近じゃしょっちゅう小競り合いしてるって聞くし。

 ゴブリン族は他の種族と何が違ったんだろう?」


 ボソボソ独り言を言いながら、髪をとかす。


「ゴブリン族が他の種族より小さくて弱かったから?

 でも、ゴブリン族って治癒術師が多いってレヴィは言ってたよね。

 治癒術師は足りないモンだし、うまくやれそうな気もするけど」



 身支度完了。

 下宿で朝ご飯を食べたら、『冒険の唄』に行こう。

 ネリーかシオドアに聞けば、何か分かるだろう。



 残念ながら『冒険の唄』には、ネリーもシオドアもヘンニもいなかった。いたのはスザナだけだ。


 アタシとスザナのちょい冷戦は、まだ継続している。

 原因はスザナの想い人、ナガヤ・コジロウとアタシが握手したことだ。



 ダンジョンではスザナと仲良かったじゃないかって?


 うーん、スザナに関わらずアタシ達『輝ける闇』は、だいたいダンジョンの中では仲が良いんだよね。


 ダンジョンは危険だ。

 実力があり、背中を預けられる仲間はすごく大切だ。

 仲間がいて良かったって心から思う。思える。



 で、ダンジョンから出てしばらくすると、なーんか、お互いの欠点が見えてくる。


 シオドアはほんとタラシだなとか、ネリーには貴族主義だなぁとか。

 スザナに対してなら、後輩のクセに態度デカいよとか、出稽古では毎回負けるよねとか。


 スザナの方はどう思ってるのかって?

 うーんそうだなぁ、ズケズケ言い過ぎとか、喧嘩っぱや過ぎとか、チビのくせに態度デカいよとか、多分そんな感じゃないかな。



 スザナと同じテーブルに座って五分後、アタシは立ち上がった。

 これ以上ここでスザナといっしょににいても無駄だ。

 楽しくないし、スザナに腹が立ってくるし。


「アタシ、レヴィの所に行くわ」


 レヴィは相変わらず、シオドアが用意した家で一人で暮らしている。

 スザナと二人でイライラしているよりは、レヴィに会いに行く方がずっと良い。


「じゃあ、あたしもレヴィの所へ行く」 

 スザナは言った。


 あっそ。



 レヴィの家はロイメの北東、郊外にある。

 そばに運河もないし、交通の便の悪いところだ。

 馬を用意するんじゃなければ、歩いて行くしかない。もちろん、アタシとスザナは歩く。


 歩き出してアタシのイライラはかなり収まってきた。多分スザナも同じ。


 なんていうかさ、アタシもスザナも目的があって体を動かしているとすっきりするんだ。

 そういう性質たちなのよ。




 空が急に暗くなってきて、雨が降り出した。

 アタシとスザナは大きな木の陰で雨宿りをする。


「ねぇトレイシー、冒険者ギルドとの交渉、大変だったね」

 スザナが話しかけてきた。


 アタシは拒否する理由もないので、話に乗る。


「あいつら、信じられないくらい頭が固かったよ。調査依頼したの冒険者ギルドなのに」



 南のサブダンジョンに名前を残し、アタシ達は再び秘密の通路を通って、本ダンジョンのヘンニ、スザナ、レヴィに合流した。


 三人は光る石の上に立っただけで、待っている間、魔物モンスターもヒトも何も出なかったって。


 それから鳥の壁画の扉を開け、本ダンジョンの入り口・ゲートまで歩いて戻った。

 ゲートに着いたのは明け方だったかな?


 そこでゲートにいた冒険者ギルドの職員に報告上げたんだけど、何が起きたか、起きてるのか、全然理解しないんだよ。

 揺らいでいるのは、冒険者ギルド(あんたら)の屋台骨だろうが。


 言っておくけど、交渉したのはアタシじゃなくて、シオドアとネリーだからね。

 アタシの頭が悪いから、話が通じなかったとかじゃないからね。



 冒険者ギルドの職員は、一旦外に出て、出直してこいとか言ったけど、それやると南のダンジョンで名簿に残した名前の証拠価値が下がるよね。

『本ダンジョンと南のサブダンジョンが通り抜けられるようになっている』というのが事件なんだからさ。


 九時ぐらいに偉いヒトが出勤してきて、やっと話が進みだしたと思ったら、その後また一悶着あった。



「ねぇトレイシー、南のサブダンジョンの職員って、悪い奴らとつながってたんだよね?」


「人身売買してた奴らの仲間だったかどうかは分からないよ。

 でも、賄賂もらっていろんなモノをゲート素通りさせたり、名簿のアタシ達の名前を消したりしていたのは間違いないと思うよ」



「あいつ等、あたし達を嘘つき呼ばわりしやがってさァ」


「あーあれ、本当にムカついたよね。っていうか、また腹が立ってきた」


「あはは、分かる。あたしも」


 あの南のサブダンジョンの男は、紛れもなく最大の難関(ラスボス)だった。

 こっちは最大限、誠実に仕事したってのに。



 結局どうやって証明したって?

 冒険者ギルドの職員を連れて、もう一回鳥の壁画の部屋に行って、南のサブダンジョンまで行った。

 その日はちょうど満月。 

 問題なく秘密の通路は抜けられた。


 アタシ達に同行した冒険者ギルドの職員、目を丸くしていたなぁ。



 最大の難関(ラスボス)はどうなったかって?

 冒険者ギルドは奴に事情聴取するって言ってたけど、今どうなってるかは知らない。



 空が明るくなってきた。


「雨は止みそうだね」


「レヴィの家まであとちょっと、あれっ、止んでるんじゃない?」


 アタシ達は木の下から出る。


「トレイシー、あれ!見て!」


「凄い虹だ。きれーい」


 空には大きな虹がかかっていた。




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