第22話 鳥の向こう側
ヘンニ→スザナ→アタシの順で乗ってみたが、ヘンニとスザナの乗った石二つしか光らなかった。
「順番を変えてみる?」
今度は、スザナ→アタシ→ヘンニの順番に乗ってみる。
光る→光る→光らない。
うーん。
同じ人物が乗っても順番によって光ったり光らなかったりする。
魔力の強弱はたぶん関係ない。
スザナは魔力はあまり強くない。
「「「いっせいのせ!!!」」」
アタシ達は同時に乗っかってみた。
何回かやってみたけど、2カ所は光るけど3カ所は光らないなぁ。
「レヴィ、君を袋に詰めたパーティーメンバーは、人間族とドワーフ族そしてハーフエルフがいたって言ってたな」
シオドアがレヴィに確認している。
「はい、そうですナリネ」
シオドアは少し考えた後、顔を上げた。
なんかいい案思いついた?
「まず全員降りてくれ」
アタシ達は丸石から降りる。
「まずレヴィが乗ってくれ。どこでもいい」
レヴィはすくそばにある丸石に乗る。光った。
「次にヘンニが乗ってくれ」
ヘンニも丸石に乗る。光る。
「シオドア、あなたはどういうルールを思いついたの?」
ネリーが質問する。
ネリーの目は据わってる。
これは即答しないと悪いことが起きるね。
「たぶん三つの石には、『三つの異なる種族』が乗らなくてはいけないんだ。
今、ゴブリン族とトロール族か乗った。
最後の石はスザナが乗ってくれ。
スザナは人間族の血を引くハーフ種族だからいける。
『ゴブリン族』『トロール族』『ハーフの人間族』。
三つの石は光るはずだ」
シオドアが早口で答える。
スザナは素直に目の前の丸石に乗った。
ポワン。三つの石が光った。
そして。
部屋の中を様々な色彩が舞った、と思う。
そして。
部屋の西側にはさっきまでなかったハズの通路が開いていた。
ダンジョンの新たなる道だ。
アタシ、ネリー、シオドアの三人は、ダンジョンの通路を進んでいた。
秘密の通路に罠はつきものだ。ゆっくり進む。
他の三人はどうしたって?
レヴィとヘンニとスザナの三人は、鳥の壁画の部屋で待っている。
三人が石の上から降りると通路は消えて、元の石壁に戻ってしまうのだ。
最後尾のシオドアが話をしている。
「レヴィを連れた冒険者達は、『鳥を探す』『向こう側へ行く』『迎えを待つ』と話していた」
「へぇー」
アタシは先頭を進みながら返事をする。
「レヴィは、ゴゴゴゴゴっと大きな石か動くような音を聞いている。
その後しばらくして、袋が開いて、何か首に嵌められ……、その後のことは覚えてないと言っていた」
何が起きたか想像してみる。
この秘密の通路を通って、もう一つ別の悪党パーティーがやってきた。
別の悪党パーティーは、隷属の首輪を持ってきた。
彼らは袋詰めにされたレヴィを受け取り、同時にレヴィに首輪を嵌めた。
こんな感じかな。
「シオドア、情報を小出しにする癖やめなさいよ」
ネリーが言う。
まったくだよ。アタシも同意見。
「申し訳ない。公開できない情報もあってね」
「アタシ、偵察なんだけど。
もうちょい信頼して欲しいね」
アタシも釘を刺す。
この通路もシオドアが先頭行きたがったんだよね。
アタシは断固譲らなかったけど。
通路は天井まで3メートル弱、横はヒトが二人が通れるぐらい。
歩くのに不自由はないけど、普通のダンジョンよりは狭い。
「この道はどこへ通じているのかしらね」
「さあね、でもこの道を悪党とレヴィが通ったのは間違いないんじゃない?」
あの集合住宅にいた悪党ども、弱かったなぁ。
彼らが通れる道なら、そんな強い魔物は出ないかな。
角を直角に曲がり、しばらくして広い通路に合流した。
天井のヒカリゴケが薄く発光している。
「マナの雰囲気が変わったわね」
ネリーが言った。
ネリーほど敏感じゃないアタシも分かる。なんつーか、軽い空気。
「ここが出口だな」
シオドアが言った。
アタシはチョークで壁に印を付けようとして、気づく。
すでに印がある。
腰の辺り、視線より低い場所、軽く引っ掻いたような感じに見せてるけど。
アタシと同じ理由でここに印を付けた冒険者がいたのだ。
間違いない。ここが出口だ。
「キャーッ」
ネリーの悲鳴だ。
振り返ると見ると、ああ、巨大ゴキブリか。
グシャ!
アタシは走って近づき、一息で踏みつぶした。
復活しないように頭を念入りに踏み踏みする。
ゴリッ。
ラッキー、小さいけど魔石ゲット。
「よくやるわね、トレイシー」
巨大ゴキブリの死体から魔石を取り出したアタシを見て、ネリーが言う。
「巨大ゴキブリは初心者向けの魔物よ。毒もないし」
そう、見かけと動きがちょっと不愉快なだけ。それだけ。ホントにそれだけ。ホントだってば。
「ここは何処のダンジョンだろうな」
シオドアが周囲を見回しながら言う。
アタシ達は周囲を確認しながらダンジョンを進む。
巨大ゴキブリがもう2匹出た。
両方ともアタシが足で叩き潰した。
残念だけど魔石は出なかった。
「ここ、来たことあるような気がする」
何かがアタシの記憶と共鳴する。
いつだっけ?どこだっけ?
次のT字路を曲がるとヒトの姿が見えた。
中年の人間族の男だ。
ダンジョンの中にしては軽装。
冒険者というより、普通のオッサンが武器を持っただけという感じだ。
その時、アタシの記憶が明確になった。
「思い出した!ここは南のサブダンジョンだ!」
むかし、修行時代に祖父に連れてこられたダンジョンだ。
巨大ゴキブリを素手で叩き潰せるようになるまで帰らせてもらえなかった。
ロイメのオジサン達の小遣い稼ぎ場、南のサブダンジョン。