第19話 キャンプと食事
「今日はここまでだな」
シオドアが宣言した。
時刻は夜の12時過ぎだった。
今日は午後遅くから探索を始め、ずいぶん長丁場の探索になった。
途中に休憩はたくさんあったけどさ。
獲物は巨大蟷螂一体、巨大蜘蛛三体、巨大団子虫七体、スライム九匹。
魔石は小さいのが二つ。大きいのが一つ。くず魔石がいくつか。
魔石目当ての探索じゃないけど、けっこう出た。
レヴィのダンジョン脱出関連では、めぼしい成果はなし。
あえて言うなら、地図の確認ができたことかな。
ダンジョンは時々変化する。地図にない道が一本あったよ。
あと、魔物をたくさん退治したから、明日以降は動きやすくなるはず。
今アタシ達がいるのは、ダンジョン第一層の南側の小さな噴水広場だ。
ダンジョンの中の貴重な水場なのに、アタシ達以外の冒険者はいない。
みんな魔石ラッシュ狙いで第二層まで行ったかね?
「今晩の食事当番はアタシがやるよ!」
アタシは宣言早々に食事の準備を始める。
『輝ける闇』で料理が上手いのはシオドア。そこそこがアタシ。ヘンニとスザナは料理はできるが、味はお察し。ネリーは危なっかしくて見てられない。
キャンプでアタシが料理することは多い。
シオドアに任せきるのはよくない。祖父の教えだ。
よく動け!そしてより多くの取り分をもらえ!ってね。
夕食の献立はスープ。食事なら温かい物でしょ。
そしてサンドイッチ。
初日だから、食料は豊富だ。
おおっ、青助エライ。卵が一個も割れてないよ!
『輝ける闇』は、良い荷物運びがいるし、シオドアが氷属性の魔術師で人間製氷機だし、ダンジョンの中ではかなり良い物を食べている。
水は念のため水質浄化の魔術道具で濾してから使う。
ここはちゃんと飲める水なんだけどサ、むかし死体が沈んでいるのを見たことがあるんだよねぇ。
まずはスープだ。
鍋に水を入れて湯を沸かす。
湯が沸いたら、乾物を入れて出汁を取る。ちなみに乾物は濾し取ったりしない。そのまま食うよ。
薄切りの玉ねぎを入れて、少し煮る。
お湯に3個卵を割って、溶いていく。
最後にアキツシマ風・秘伝調味料、ミソを入れて出来上がり。
スープは各々のコップに分ける。まず一品めだ。
スザナがスープを飲みながら、アタシの手元をジーッと見ている。もうちょっと待ちなって。
二品めはサンドイッチだ。
スクランブルエッグを作るよ。目玉焼きの方がかわいいけど、黄身の数で揉めるからね。
さっきの鍋の蓋がフライパン替わりになる。
油を軽く引いて、卵を割って、スクランブルエッグだ。
パンはロイメで買った柔らかめのパン。柔らかいうちに食べようね。
ベーコンは塊そのまま、クーラーボックスに入れてきたヤツをまな板に置く。
後はピクルスだ。
「ネリーは量はどうする?」
「パンは一個、ベーコン薄めピクルス多め、たまごは普通で」
「はい!」
「レヴィはどうする?パン一個食べれる?」
「ええと、半分ナリ、いやもう少しかナリナリ」
「中身は?」
「ベーコンは欲しいナリ、ピクルスはちょっとがいいナリ、たまごも欲しいナリ」
アタシはパンに切れ目を入れて、厚めのベーコンと少なめのピクルス、たまごを盛った。
三分の二ぐらいの所で切って渡す。
残りは後でアタシが食べよう。
「ベーコン厚く、ピクルス普通、たまごもちょうだい」
スザナ。
「ベーコン厚め、ピクルス少なめ、たまごも同じに」
ヘンニ。
「ベーコン厚め、ピクルス多め、たまごも同じく」
シオドア。
アタシは それぞれの要望通りに作っていく。
ともかくひたすら作る。
ヘンニもスザナもシオドアもどんどん食べる。ベーコンは大きいのを買ったからまだあるけど、スクランブルエッグが少なくなってきた。
アタシの分を確保して、と。
「これ、アタシのだから食べちゃダメだよ!」
レヴィは三人組、特にヘンニの食べ方を呆然と見ている。ホントよく食べるよね。
でもさ以前、ダンジョン五層で食事の量を制限したことがあるけど、その時はヘンニは量を素直に減らした。
アタシと同じかそれ以下しか食べなくなった。
いざという時があるからこそ、普段はたくさん食べて体に脂肪を蓄えておくんだと、本人は言っている。たぶんそうなんだろう。
食事を終えると、壁際に移動した。
角の安全そうなスペースを使う。罠がないことを確認する。
天井が高くてちょっと落ち着かないけど、今日はここでダンジョン野営だ。
「明日はどうするんだい?」
生の人参をかじってるヘンニが口火を切った。
生の人参はデザートらしい。
ヘンニが最初に質問する時は、今後の方針に不満か不安がある時だ。
「僕は、レヴィを連れていた冒険者が、この辺りに来たのは間違いないと思っている」
シオドアが答えた。
「『向こう側に行く』、後は『鳥を探す』だっけ?」
「そうだ」
レヴィによると、冒険者達は、さかんにそんな風なことを言っていたらしい。
「鳥型魔物はいなかったね。カマキリや蜘蛛や団子虫はいたけど」
アタシは口を挟んだ。
でも、このままだと今回の探索は失敗に終わりそうな気がするよ。
魔石はでたし、赤字は免れそうだけど。
「こんな暗い中で飛べる鳥がいるのかな。コウモリならともかく」
スザナが言った。
アタシ達の空気はトーンダウンした。
「ダンジョンの罠や仕掛けは、たいていマナ密度が濃い所で発生する。
明日はマナ密度が濃い場所を集中的に探索しようと思う。地図にいくつか印は付けておいた」
シオドアは言った。
一応方針はあるわけね。
でも、地図を見るとけっこうあるね。ここ全部回るのか。
「ダンジョンのトリ」
ネリーがポツリと言った。
「……どこかで聞いた。確かあいつ、クリフ。いつだっけ?そうそう確か……」
「ネリー?」
「ダンジョンの奥の罠、閉じ込められる、青い目の鳥、壁画!」
ネリーがバッと顔を上げた。
皆の注目がネリーに集まる。
ネリー、何を思い出した、何を思いついた?
「ネリー、何か思い出したか?」
その場を代表して、シオドアが言った。
「ええ、思い出した。
クリフがダンジョンの仕掛けについて話していたのを思い出したわ。
ダンジョンの奥で、青い目を持つ鳥の壁画を見つけたんですって。
その壁画の向こうに隠し部屋があって、そこに仕掛けがあったって言ってたわ」
それはつまり。
「なるほど。鳥は実物ではなく壁画だと言うことか」
シオドアは何やら考え込んでいる。
「みんな、明日の目的は壁画探しだ。マナの濃い場所を重点的に探そう」
だいぶやることが明確になったかな?
「分かったよ。明日は探索だ。あたしも頑張るさね」
ヘンニが同意し、『輝ける闇』の明日の予定は決まった。