第14話 嫉妬
今日テーブルに先着してるのは、スザナとネリー。
「スザナ、ネリー、おはよう!」
アタシの挨拶にスザナがプイッと横を向いた。ダメだこりゃ。
ネリーは手元の紙というか、資料を読んでいて、眼鏡ごしに軽く目礼する。こっちは、いつものこと。
この前の出稽古以来こんな感じだ。
まあつまりだ。スザナはアタシがコジロウと話し込んで、さらに握手したのが気に食わないらしい。
これ、アタシが悪いの?
いやまあ、仲間の彼氏や好きな人って言うのは、対応に気を使うよ。
女が多いパーティーが、それでクラッシュしたのを見たこともあるよ。
でも、スザナとコジロウは正式に付き合ってないじゃん。
アタシ達に、「コジロウが好きたから」って宣言もしてないじゃん。
まあ、見え見えだったけどさ。
だいたいスザナが勝ってりゃ、アタシは試合をしようなんて思わなかった。
スザナは横を向いたままだ。
ネリーは無関心。
はぁ。次の探索までに、シオドアか女将さんに仲裁してもらうか。
この件はシオドアより女将さん向きかなぁ。
あーもう、調子に乗ったのは認めるよ。
アタシは不機嫌な表情を作ってドカッと椅子に座った。
でも、アタシは悪くない。多分。
「ネリー、何を読んでるの?」
アタシはとりあえずネリーに話しかけてみた。
ジロッと睨み返される。
まさか、ネリーもアタシに焼き餅?
アタシが、(ネリーの想い人かもしれない)クリフ・カストナーと話をしたから?
ギャビンも一緒で三人だったし、魔術の話しかしてないって。
「これは聖属性の魔術に関わるレポート、じゃなくて論文よ」
ネリーは不機嫌そうに返事をした。
ふぅーん。要は難しいヤツね。
そんなわけでアタシ達三人は不機嫌にテーブルに座っていた。
「トレイシー、手紙が来てるよ」
女将さんが分厚い封筒を持ってきた。
なんだろう?
差出人はクリフ・カストナー。
エエッ、ちょっとちょっと!
まさかのラブレターとかじゃないよね!?
よりによってネリーの前で渡さないでよ。
困るってば。
アンタはすごい魔術師らしいし、魔術師クランのエリートらしいけど、もう少し筋肉が付いた男がアタシの好みなんだ。
「なにそれ」
スザナが首を突っ込んできた。
あーもう。あーもう。
もしかして『輝ける闇』解散の危機?
こうなったら、ここで開封する。ついでに断りの手紙もここで書いてやる。
アタシはナイフで封筒を開封した。
でてきたのは、紙の束だ。
えーと、赤玉に関する実験の報告??
……。
「何それ」
ネリーも首を突っ込んできた。
「この前ほら、クリフだっけ、魔術師と話をしたじゃん。
その時に煙玉の話をしたんだけど、なんかその実験がどうとかって」
「煙玉ってトレーシーがいつも投げてるやつ?」
「唐辛子の粉が入ってる、新型の赤い煙玉だよ」
アタシは冒険の奥の手として、赤い煙玉について話をしたことを説明した。
「どんなことが書かれてるのよ?」
「えーと、まず結果の概略を話します。
赤の煙玉が、強い効果を発揮するのは、爆発地点から半径1メートル弱です。
弱い効果を発揮するのは、爆発地点から3メートル程度です。
よって、強い効果を期待するなら、敵の目・鼻・口のそばで爆発させるのが良いでしょう」
「赤の煙玉の効果は、目の痛み、ひどい咳き込み、一時的な呼吸困難です。
呼吸する生き物には大きな効果が期待できます。
特に足止めに有効でしょう」
「煙玉の中の唐辛子の粉は、風で流されるので風下で使うのは危険です。
今回の実験時の風向き及び風速については3P目に詳細説明があります」
「唐辛子の粉が目に入った場合は、水でよく洗い流し初級治癒術をかけてください。
気管に入った場合は、解毒及び初級治癒術をかけてください」
「強い力を与えると意図せずして爆発することがあります。注意してください」
さらに細かい注意事項も。
えーとえーと。
「これ信用していいの?」
ネリーに聞いて見る。
「大丈夫じゃない?
こっちにそれぞれの実験の条件と結果が書いてある。かなりしっかり実験したみたいよ」
ネリーが見てるのは、細かい字や数式が書かれた別のページだ。
すごく細かい。
アタシに必要なのは、概略の一ページ目だけだね。
この手紙は、赤玉の情報料というかクリフ・カストナーなりの親切なのかなぁ?
スザナは目を丸くしている。
手紙に書かれている文字の量に圧倒されたかな。
アタシもほぼほぼ同じ気分だわ。
バタン。
『冒険の唄』の扉が開く。
入ってきたのはシオドアと、ゴブリン少女レヴィ!
ゴブリン族のレヴィは人間族の子供用と思われる服を着ていた。
サイズが合ってない。
これは、ゴブリン族の体型が人間族とは少し違うからかな。
「やあ、みんな久しぶり」
シオドアが言った。
テーブルに一瞬だけ複雑な空気が流れる。
ネリーもスザナも、おそらく新入りになるであろうレヴィをどう扱うべきか迷っているのだ。
「お疲れさん、シオドア。頑張ったみたいね。
よろしくレヴィ、アタシはトレイシー」
まずは挨拶。
レヴィの値踏みはその後だ。
「私はネリー、魔術師よ」
「わたしはスザナ。盾士」
ネリーとスザナも続けて挨拶をした。
「わたしはレヴィですナリ。先日は助けてもらいましたナリ」
レヴィがアタシ達を見上げながら挨拶を返した。
「この三人に、トロール族のヘンニで『輝ける闇』のメンバー全員だ」
シオドアがレヴィに話しかけ、その後アタシ達の方を見た。
「冒険者ギルドから調査以来が出た。
レヴィと悪党がダンジョンを脱出したルートの調査だ。
『輝ける闇』の探索として受けたいと思っている」
「報酬は冒険者ギルドが出すんでしょうね?」
アタシは確認する。
冒険者ギルドの依頼なのか、シオドア個人の依頼なのか。
「もちろん冒険者ギルドが出す。ダンジョンの新たなルートの探索だ」
ダンジョンの新たな道か。
確かに見逃すわけにはいかない。
「どうやってルートを探すのよ」
ネリーが質問した。
「レヴィは、第四層で出会った冒険者にダンジョンの外まで連れてきてもらった。
ほとんど袋に入っていて視界は遮られたが、断片的な記憶はある。
それを辿ってルートを探そうと思う」
レヴィの記憶だよりか。
分かったわよ、いいわよ。乗ってやるわよ。
シオドアとゴブリン族のレヴィに。
良い先輩になるって決めてたしね。