第13話 外の世界の鳥(シオドアside)
俺はシオドア・ストーレイ。
ストーレイ家の現当主の一人息子で、跡取り《《候補》》である。
言っておくが、ストーレイ家の当主は一族の中から合議で選ばれるので、次期当主と決まってるわけではない。
もう一つ。俺のことをタラシだと言う輩がいるが心外である。
長い付き合いだった美人の未亡人と、短い付き合いだったバツイチの女性、二人は相次いで再婚した。
俺は傷心のフラレ男なのだ。
俺はロイメ市の留置施設に来ていた。
ゴブリンの少女レヴィに面会するためだ。
レヴィはまだ拘留されている。
「冒険者証を持たないレヴィがどうやってダンジョン・ゲートを出たのか」は、ロイメを揺るがす問題で、調査は必須だ。
しかし困ったことに、現在ゲートの管理人が不在である。
ロイメ市は、ハイエルフの管理人が戻って来るまで拘留を引き延ばすつもりかもしれない。
レヴィは被害者であり解放されるべきだと訴えたが、ロイメ市の返答は芳しくなかった。
俺が通されたのは、木の格子で区切られた部屋だった。
格子の向こう側に、真紅の髪で黄色い肌の少女、レヴィがちょこんと座っていた。
体調は悪くないようで、俺はホッとした。
「お久しぶり、レヴィ。シオドアだ」
「久しぶりでないですナリ、シオドアさん。一昨日もお会いしましたよ」
レヴィは高音だが耳障りの良い声で答えた。
「食事や水は問題ないか?ちゃんと眠れているか?」
「大丈夫ですナリ。食事は食べられますし、眠れてますナリ」
「良かったよ」
ここまではいつもの挨拶だ。
「何か変わったことはなかったか?」
「鳥が窓辺にやって来ました。外の世界の鳥は小さいんですですナリ。びっくりです……ナリ」
第四層にはロック鳥がいる。
他にも大型の鳥型の魔物がいる。
「レヴィが見たのは、どんな鳥だったんだ?」
「黒と白の素早い鳥ですナリ」
「黒と白の素早い鳥なら、ツバメじゃないかな」
「ツバメですか。
あんなに小さくて素早いんじゃ捕まえるのはたいへんだし、捕まえてもちょっとしか肉にならないんですナリ」
「レヴィの言うとおりだよ。
ロイメでは小さな野鳥はあまり食べないんだ。捕まえても食べてもお腹が膨れないからね。
だからツバメは安心して人家に巣を作る」
レヴィは納得したように頷いた。
「レヴィは衛兵達に尋問、いや質問されているかな?」
俺は話題を変えた。
「いいえ。特に何も聞かれたりはしてないナリ」
予想していたがやはりそうか。
ロイメ衛兵はハイエルフの管理人が戻って来るまでだらだら拘留するつもりのようだ。
「レヴィ、第四層から外に出るまでの間の覚えている限りのことを教えて欲しいんだ」
衛兵がやらないなら俺がやるまでだ。
俺は鞄から最新のダンジョン地図を取り出し、広げた。