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【衝撃の結末・ハッピーエンド】普通の女の子のアタシ、冒険者やってます。  作者: ミンミンこおろぎ
第二部 毎日が冒険日和
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第11話 奥の手

アタシの奥の手は奥の手ではあるが、秘密にしているわけではない。

『輝ける闇』の仲間は全員知ってるし、同じクランの『冒険の唄』の仲間もだいたい知ってるだろう。


 一回しか効かない技というわけでもない。


 何よりアタシは昨日からいろいろムカついていた。

 注目されるためにも、ここは一発かますところでしょ!


「いいわよ、試合しましょ」


「よろしく頼む」



「おっえっマジ?」

「あの二人で試合すんの?」

「賭け屋、倍率はいくつになるんだ?」


 訓練場にいた連中は騒ぎ出した。ヘンニとネリーは軽く肩をすくめた。

 止めてくれるな。

 止めないよね?



 周りの注目はアタシに集まる。

 そうそう、こういうの!

 注目が全てだとは思わないけど、アタシは注目されるのが好きだ。



 対戦相手のナガヤ・コジロウの得物はアキツシマの小剣である。

 長い武器でないのは、手加減してくれてるんだろう。ありがたく受け取っておく。

 これで勝つ見込みがぐんと大きくなった。


 アタシの武器はいつもの小剣ショートソード



 向かい合うと相手の大きさと、筋肉の力強さが分かる。

 普通に戦えば勝ち目はない。

 でも、今日の試合に勝つことなら、不可能じゃない。



「はじめっ」


 審判の掛け声と同時にアタシは前に出る。

 刃で打ち合うのはだめ。押し合うのはもっとだめ。

 最初の一手で勝負を決める。


 コジロウは、アタシの「戦い方」に興味があるのだ。いきなり勝負を決めには来ない。

 それが隙だ。


爆竹バオズゥ

 アタシは口の中で小さく唱える。



「パッ、パッ、バッバッ、バンバンバン!!!」

 突如派手な音がなる。


 アタシの奥の手。音だけ魔術。

 音は派手だが、風はそよとも吹かないし、熱くもない。

 でもね、爆音がいきなり鳴ったら?


 アタシは右側、コジロウにとって左側から距離を詰める。


 コジロウは剣を受けるために左に身体をひねる。


爆竹バオズゥ

 アタシは早口で唱える。


 コジロウの小剣の側で音を鳴らす。小剣を通して音の振動が手に伝わっているだろう。


爆竹バオズゥ

 今度はヤツの頭、左耳の側で鳴らす。


 コジロウの顔が引き攣り、首を大きくひねる。

 ほぼ反射的な行動だろう。そして、それが隙!



 アタシはそのまま間合いを詰め、小剣ショートソードの切っ先をコジロウの心臓の位置に突きつけた。

 本当は首筋に突きつけたかったが、リーチが足りなかった。


「勝者、トレイシー」


 審判のドワーフ教官の声がした。判定勝ちだ。

 実戦なら勝てたかどうか分からない。でも試合は勝った。



「「「うおぉ゙ォ゙ォオ!!」」」

 周囲から歓声が沸き起こる。


 これよこれ。

 アタシ、頑張った。勝ったよ。



「なんだぁ、あれ、スキルか?魔術か?」

「やったぜ3倍ィ〜」

「テメェ、コジロウ!俺に何回損をさせりゃ気が済むんだ!」

「馬鹿だなぁ。コジロウが女と試合する時は賭けちゃだめなんだよ。あいつホント女に弱いんだ」

「ナイスバディで強い!トレイシーさん、俺ファンになります!」



「まったくたいしたもんだね」

 ヘンニ。

「まぁ、よく勝ったわね」

 ネリー。


 アタシは有頂天だった。

 こういう華やかな場所で勝ちたいとずっと思ってたんだ。



「トレイシー殿」


 後ろから声を掛けられた。

 あ、コジロウ。

 やっぱり強そうだわ。

 アタシなんでこいつに勝てたんだろう。


「どうも。実戦で勝てるかはともかく、とりあえずこの試合はアタシの勝ちってことで」


「素晴らしい試合だった。感服した」

 コジロウは清々しくアタシを讃えてくれた。

 握手を求められたので、握手で返す。


 うん、うれしいよ。

 いやー、負けると絡んでくる男もいるからさ。



『輝ける闇』は全敗を回避した。

 アタシは目立ち、勝利を称えられた。

 最大の心残りは、アタシがアタシに賭け損なったことかな。

 ヘンニもネリーも賭けてないんだもん。もったいない。



 試合はもう少し続くらしい。

 良さそうな組み合わせなら賭けてみるか。

 そんなことを考えていたら、声を掛けられた。


「トレイシーちゃん、ちょっと質問したいって人がいるんスよぉー」


 この声は?


 いつものお騒がせ男、ギャビンだ。

 そして、ギャビンが引っ張って来たのは、中背で茶色の髪のちょっと頼りない雰囲気の魔術師の男だ。

 魔術師の男の名前はクリフ・カストナー。

 雰囲気は地味だけど、多分すごい魔術師。


 よく知ってるネって?

 まあね。色恋関係じゃないよ。

 でも、アタシはこいつに借りがあるんだわ。



「いいわよ、クリフ・カストナー《《あんたには》》借りがあると思ってるし」


 ギャビンには借りはないけど。多分。



「で、質問って何?さっきの魔術のこと?」


 アタシの爆竹バオズゥを見た魔術師が、喰い付いてくるのはあるあるだ。

 ネリーもそうだった。



「そうです。確認しますけど、あれは魔術ですよね?スキルではない」


 クリフ・カストナーは興味津々という表情だ。

 もちろんアタシへの興味じゃない。魔術への興味だね。


 えーとさ、さっき色恋関係じゃないと言ったよね。


 実はさ、多分なんだけどさ、ネリーがこのクリフ・カストナーに好意を持っているんじゃないかと思うんだよ!

 ネリーは内面を見せるのを嫌がるし、アタシの想像なんだけど。


 冒険仲間の想い人(推測)というのは、ビミョーかつむずかしくかつ複雑な相手だ!

 ギャビンもいるし大丈夫だろうけど、サクサク話していくぞ。誤解されないようにね。






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